棋譜
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棋譜(きふ)とは、囲碁や将棋、チェスなどのボードゲームにおいて、打った(指した)手を逐次的に記入し、ゲームの経過を記録したもののことである。
基本的に棋譜があればゲームを再現可能である。具体的な手だけでなく、考慮時間や、対局場所、戦型なども書き込まれることがある。野球のスコアブックの役割と似ている。
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[編集] 棋譜の記し方
[編集] チェス
白を下にして、盤面左下を基準に横軸をa~h、縦軸を1~8とし、駒、移動先の順序で記す。ただしポーン(P)は略す。取りを含む場合は x でこれを示す。
キング側へのキャスリングは 0-0、クイーン側は 0-0-0。アンパッサンは末尾にe.p. と記す(例:a5 の ポーンが b5 のポーンを捕獲した場合、axb6 e.p.)。
どの駒の移動なのかのあいまいさを含む場合は、
- ランク(横の位置)、ファイル(縦の位置)
- 以前の位置
の優先度で元の位置を示す。例えば c3,a3,a1 にルークがいて、R c3-b3 とした場合は、Rcb3、R a3-a2 とした場合は R3a2 となる。
キングズギャンビットという定跡の出だしの棋譜は以下のようになる。
- e4 e5
- f4 exf4
- Nf3 g5
- Bc4 Bg7
将棋や囲碁と異なり、白と黒がそれぞれ駒を動かして「1手」と数える。すなわち、チェスの1手は将棋や囲碁の2手に相当する。
[編集] 将棋
基本的な考え方はチェスと同様である。
先手、もしくは下手を下として、盤面を右上を基点として、横を1、2、……、9、縦を一、二、……、九とし、手番と進んだ先、駒を示す。例えば、第一手で先手が角道を開ける手は、「▲7六歩」である。▲は通常将棋の駒をかたどったものを使う。
直前の相手の移動先の駒を取る場合は、移動先でなく「同」を用いる。移動によって成ることができる場合、成った場合は「成」、成らなかった場合は「不成」(「ならず」と読む)を付け加える。字数を減らす、あるいは字数を整えるためなどの理由により「不成」を「生」と表記することもある。
詰将棋においては、特に駒の種類を特定しなくてもよい合駒を「合」と表記することがある(「△2三合」など)。また、「合駒である」ということを強調するため、指し手に「△2三銀合」などと「合」を加えることもある。
紛らわしい場合は以下を付記して区別する。
- 「打」
- 盤面上の移動でなく、特に持ち駒を打った場合はこう記す。「打」を記すのはその位置に盤上の同種の駒が移動できる場合に限られ、それ以外の場合は省略する。
- 「寄」「引」「上」、「右」「左」「直」
- どの駒なのか曖昧な場合は「寄」「引」「上」によって具体的な移動を記述する。それでも判断不可能な場合は「右」「左」「直」で駒の位置を示す。ここでの左右は指した主体から見てのものであり、先手の側からではない。これらが複合する場合もある。右の図で、4二のと金が5一に移動した場合、「▲5一と上右」となる(「上」だけでは5二のと金と区別が付かず、「右」だけでは4一のと金と区別が付かない)。
- 竜と馬も「寄」「引」「上」で移動を、「右」「左」で位置を示すが、「直」は用いない(最大2枚しか盤上にないため)。正式な表記ではないが、「上」の代わりに「行」「入」を用いることもある。右の図で、1三の竜が2四に動いたときは「▲2四竜右」、2二の竜が動いたときは「▲2四竜左」となる(▲2四竜引ではどちらの竜が動いたが判別できない)。
速記する場合は下のような略記法を使うことがある。略記法ではアラビア数字だけを用い、漢数字は用いない。
歩兵 | 香車 | 桂馬 | 銀将 | 金将 | 角行 | 飛車 | 玉将 |
フ、・ | 禾 | 土 | ヨ | 人 | ク | ヒ、乙 | 玉 |
原始筋違い角戦法の出だしの棋譜を例にあげる。
- ▲7六歩 △3四歩 ▲2二角成 △同銀 ▲4五角 △6二銀 ▲3四角 △3二金
[編集] 囲碁
囲碁の盤面図(碁罫紙)に、黒抜き、白抜きで打たれた順番に数字を記したものが総譜とよばれる一般的なものである。ただし、石取りなどで終局時に存在していない石や、コウなどで複数回同じ場所に打たれた場合は、160は158の下、159(157) などと別に記す。
公式戦などで一手打つのにかかった所要時間も必要な場合には、通常の棋譜と同時に所要時間の表を作る。
特に囲碁では棋譜を記録することを採譜と呼ぶ。
[編集] 譜の記入
チェスでは、プロアマ問わず、対局者が対局しながら記すのが一般的である。特に、公式戦では義務とされる。チェッカーやバックギャモン(これは棋譜がとられることは少ないが)でも対局者が自ら記す。
プロ囲碁やプロ将棋、大きなアマの大会などでは対局者の他に記録者が用意されることがほとんどである。
記録者が用意されない場合は、終了後か後日にまとめて書き留める。特に強豪アマチュア選手などは、次回の対戦に生かすため、自らの棋譜をまとめている者も少なくない。また、強くなるための手段のひとつとして推奨されている。
[編集] 棋譜と著作権
単なる事実であるのか創作物であるのかの判断の違いにより、ゲームによって取り扱いが異なる。
[編集] チェス
棋譜は単なる事実の記述であり、自由に扱ってよい(パブリックドメイン)という古くからの慣例がある。ただし、解説部分はその解説者の著作物となる。
FIDE もその慣例を踏襲しており、下部組織である日本チェス協会(JCA)でも同様である。
[編集] 将棋
日本のプロ棋士団体である日本将棋連盟は、棋譜は創作性のある表現であるとし、許諾を得ない掲載や転載を禁じている。一時、江戸時代の棋譜に著作権を主張し、物議をかもしたこともある(後に撤回された)。
もちろん一般プレイヤーにとっては自由に扱えるほうが望ましいが、将棋連盟の主な収入が棋譜掲載の権利によることが問題を複雑化している(チェスではそのような慣習はない)。
法律上問題はなく堂々と利用すべきとの意見から、より高い水準の将棋を見るには現状のままが望ましいという声まで様々。未だ定まった判例はなく、アマチュアの将棋の取り扱いも様々である。
[編集] 囲碁
将棋と同様、各棋院は、著作物であるという観点から、許諾を得ずに棋譜を公開したり配布したりすることを禁じている。様々な異論や取り扱いがなされているのも同様である。
[編集] コンピュータ上での棋譜保存
インターネット上で対戦するネット碁など、コンピュータ上における棋譜保存にはSmart Game Format (SGF) など様々なファイルフォーマット形式が用いられる。