想いは果てなく~母なるイングランド
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
想いは果てなく~母なるイングランド | ||
---|---|---|
ジョージ・ハリスン の アルバム | ||
リリース | 1981年 6月1日 |
|
録音 | 1979年10月30日~1980年9月23日 1980年11月~1981年2月 |
|
ジャンル | ロック | |
時間 | 39分43秒 | |
レーベル | ダーク・ホース/ワーナー・パイオニア(初発) ダーク・ホース/東芝EMI(現行盤) |
|
プロデュース | ジョージ・ハリスン, レイ・クーパー | |
レビュー | ||
ジョージ・ハリスン 年表 | ||
慈愛の輝き (1979年) |
想いは果てなく~母なるイングランド (1981年) |
ゴーン・トロッポ (1982年) |
想いは果てなく~母なるイングランド(おもいははてなく~ははなるいんぐらんど, 原題: Somewhere In England)は、1981年6月1日に発表されたジョージ・ハリスンのアルバム。日本国内では同年6月25日にワーナー・パイオニアからリリースされた。
目次 |
[編集] 解説
エルトン・ジョンやエリック・クラプトンなどのバッキングを務めているパーカッショニストのレイ・クーパーを共同プロデューサーに迎えて制作され、1981年に発表されたオリジナル・アルバムである。
当初の発売予定は1980年11月2日であり、アルバム・ジャケットや収録曲などは既に決まっていたとされるが、ハリスンの当時の所属レコード会社であるワーナー・ブラザーズの社長モー·オースティンから収録曲の一部とジャケットの差し替えを命じられ、リリースが延期された。差し替え前の曲目は後述。
1980年の秋に発売されたジョン・レノン&オノ・ヨーコのアルバム『ダブル・ファンタジー』の初回生産分のLPの帯には既にこのアルバムの宣伝が載っていたことから、この命令がいかに唐突なものであったかを窺い知ることができる。1980年12月8日にニューヨークで精神疾患者にレノンが射殺される衝撃的な事件が起き、再び楽曲制作に取り掛かっていたばかりのハリスンは、リンゴ・スターに提供予定にしていた楽曲の歌詞をレノンに捧げるものへと書き替え、再録音した。こうして出来上がった楽曲には当時ウイングスとして活動していたポール・マッカートニーと妻リンダ、デニー・レインもコーラスで参加し、大きな話題を呼んだ。
このレノンへの追悼歌「過ぎ去りし日々」はアルバムからの先行シングルとして発表され、大ヒットとなる全米2位を記録。衝撃的なレノンの訃報がアルバムにもたらした宣伝効果は極めて大きく、このアルバムもイギリスでもチャート上位を記録した。これに対して、ソロ·キャリアの人気の中核となっていたアメリカでは前作『慈愛の輝き』のセールスを下回り、『オール・シングス・マスト・パス』以降のハリスンのソロ・アルバムでは初めてゴールド・ディスク獲得を逃した。レコード会社の屈辱的な仕打ちでモチベーションが下がったのか、内容的にもどこか散漫な印象が拭えない。
突然の差し替え命令によってお蔵入りになった4曲は後年になってシングルのカップリングなどで全て発表され、それらの楽曲はいずれもその質の高さからファンの間では根強い人気があり、差し替え後より差し替え前のほうがアルバムの評価は高い。『ビルボード』誌で11位、『ミュージック・ウィーク』誌で13位、日本の『オリジナル・コンフィデンス』誌で31位を記録し、日本盤LPの推定累計セールスは約2万枚といわれている。
[編集] 収録曲の概要
「ブラッド・フロム・ア・クローン」はワーナーの要請によって新たに書き下ろされた4曲のナンバーのうちのひとつ。皮肉のこもった歌詞から当時のハリスンのレコード会社に対する憤りの大きさが窺い知ることができる。続く「空白地帯」も同じように、当時のミュージック・シーンに辟易していた作者の心情があからさまに歌詞に表れている。
「過ぎ去りし日々」は、もともとは1981年のスターのアルバム『バラの香りを』に収録予定の作品であったが、レノンへの追悼歌として発表するにあたり新たに歌詞を書き直し、各国のチャートでヒットを記録した。良くも悪くもアルバムの中で最も目立つ楽曲である。書き直された歌詞に登場する「Devil's best friend」とはレノンを撃ち殺した犯人のマーク・デヴィッド・チャップマンを指していると言われている。
「バルチモア・オリオール」と「ホンコン・ブルース」は、ハリスンが幼少の頃から慣れ親しんできたアメリカの作曲家であり、代表曲に「スターダスト」や「ジョージア・オン・マイ・マインド」などがあるホーギー・カーマイケルの楽曲のカバーである。後者は細野晴臣がアルバム『泰安洋行』の中でカヴァーしたことで日本では知られている。
B面の1曲目「ティアードロップス」はアルバムからの第2弾シングル・カット曲となったが、「過ぎ去りし日々」のようにシングルとして成功を収めることはできなかった。
「ザット・ホウィッチ・アイ・ハヴ・ロスト」はインドの宗教書『バガヴァッド・ギーター』に触発されて書かれた作品だが、そういった経緯とは裏腹にハリスンお得意のカントリー・タッチの曲調となっている。
アルバムの最後に収録された「世界を救え」は、森林伐採や捕鯨等の環境問題について率直に歌われたメッセージ・ソング的な要素の強い作品であり、間奏にはハリスンのファースト・アルバム『不思議の壁』に収録の「クライング」の音が使われている。この曲で過去の自分の作品をサンプリングしたことについて、彼は後年のインタビューの中で「皆の痛いところを突いて、ああ、やってられないなという感じを曲全体に出したかった」と述べている。1985年にグリーンピースが企画して発表されたチャリティ・アルバム『Greenpeace~われらグリーンピース』には、この曲の歌詞を一部書き換えて再録音したリミックス・バージョンが収録されている。
[編集] 収録曲
[編集] 差し替え後
- All Songs by George Harrison (Except Where Noted)
[編集] Side A
- ブラッド・フロム・ア・クローン - Blood From A Clone (4:03)
- 空白地帯 - Unconciousness Rules (3:05)
2004年にリリースされた現行盤では演奏時間が30秒長い。 - ライフ・イットセルフ - Life Itself (4:25)
- 過ぎ去りし日々 - All Those Years Ago (3:45)
- バルチモア・オリオール - Baltimore Oriole (3:57)
- (Composed by Hoagy Carmichael)
[編集] Side B
- ティアードロップス - Teardrops (4:07)
- ザット・ホウィッチ・アイ・ハヴ・ロスト - That Which I Have Lost (3:47)
- 神のらくがき - Writing's On The Wall (4:00)
- ホンコン・ブルース - Hong Kong Blues (2:55)
- (Composed by Hoagy Carmichael)
- 世界を救え - Save the World (4:54)
[編集] 差し替え前
※ワーナー・ブラザーズにジャケット写真とともに差し替えを要求されたオリジナルの曲目。
- All Songs by George Harrison (Except Where Noted)
- ホンコン・ブルース - Hong Kong Blues
- (Composed by Hoagy Carmichael)
- 神のらくがき - Writing On The Wall
- フライング・アワー - Flying Hour (4:04)
ワーナーからの差し替え要請によってカットされたナンバー。1987年にイギリスのジェネシス出版から2500部限定で刊行された直筆サイン入りの豪華本『Songs by George Harrison』の付録CDにのみ収録されていた。 - レイ・ヒズ・ヘッド - Lay His Head (3:43)
ワーナーからの差し替え要請によってカットされたナンバー。1987年発売のシングル「Got My Mind Set On You」のカップリング曲として発表された(リミックス・バージョン)。イギリスのジェネシス出版から2500部限定で刊行された直筆サイン入りの豪華本『Songs by George Harrison』の付録CDにも、他の数曲とともに収録されていた。 - 空白地帯 - Unconciousness Rules (3:35)
差し替えを要請される前は、正規テイクよりも演奏時間が30秒長かった。2004年発売のこのアルバムのリマスター盤には、ロング・バージョンが収録されている。 - サット・シンギング - Sat Singing (4:25)
ワーナーからの差し替え要請によってカットされたナンバー。1987年にイギリスのジェネシス出版から2500部限定で刊行された直筆サイン入りの豪華本『Songs by George Harrison』におまけとして付いていたCDに収録されていた。 - ライフ・イットセルフ - Life Itself (4:39)
- ティアーズ・オブ・ザ・ワールド - Tears Of The World (4:04)
ワーナーからの差し替え要請によってカットされたナンバー。オリジナル・アルバムなどに使い回されることはなく、1992年にイギリスのジェネシス出版から2500部限定で刊行されたイラスト&歌詞集『Songs by George Harrison』(1987年発表の同名作の続編)のおまけCDに収録されていた。2004年にワーナー期のアルバムが一挙にリマスターされた際に、なぜかこのアルバムではなく『33 1/3』(1976年)のボーナス・トラックとして陽の目を見ることとなった。 - バルチモア・オリオール - Baltimore Oriole
- (Composed by Hoagy Carmichael)
- 世界を救え - Save the World
[編集] Additional Track
※2004年にEMI/ダーク・ホースから再発された際に追加されたボーナス・トラック。
- 世界を救え [デモ] - Save the World (4:39)
[編集] 演奏者
- George Harrison - Lead vocals and guitars, plus synthesisers and keyboards
- Ringo Starr - Drums
- Paul & Linda McCartney, Denny Laine - Backing vocals on "All Those Years Ago"
- Ray Cooper - Drums, keyboards, synthesisers, percussion
- Jim Keltner, Dave Mattacks - Drums
- Willie Weeks - Bass
- Herbie Flowers - Bass, tuba
- Gary Brooker, Al Kooper, Mike Moran, Neil Larsen - Keyboards and synthesisers
- Tom Scott - Lyricon, horns
- Alla Rakha - Tabla
[編集] 外部リンク
- Album Cover - ジャケット写真
- Originally Album Cover - ワーナーから差し替えを要請されたオリジナルのジャケット写真。現行盤ではこちらがジャケットに使用されている。
- Album Lyrics - アルバム収録曲の歌詞