平和条約国籍離脱者
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平和条約国籍離脱者(へいわじょうやくこくせきりだつしゃ)とは、日本国との平和条約の規定に基づき日本国籍を離脱した者で、第二次世界大戦の終戦前から引き続き日本に在留する者のことをいう。同条約によりいわゆる在日コリアン、在日台湾人となった者のことであり、外国人の出入国管理上の特別永住者となる者の範囲に関する基本的な概念となる。
平和条約国籍離脱者とその子孫は、日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(平成3年法律第71号)に規定する要件を満たした場合には、日本の特別永住者として扱われる。
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[編集] 定義
日本国との平和条約(平和条約)の規定に基づき日本の国籍を離脱した者であっても、そもそも日本に在留していなかった者などについては、出入国管理上は特別の措置をとる必要はないことから、以下に該当する者が平和条約国籍離脱者となる(ただし、特別永住者の資格については更に要件が必要)。
- 1945年9月2日(降伏文書の調印日)以前から引き続き日本に在留する者
- 1945年9月3日から1952年4月28日(平和条約の最初の発効日)までの間に日本で出生しその後引き続き日本に在留する者の場合は、その実親の一方が1945年9月2日以前から当該出生の時(当該出生前に死亡した時は当該死亡の時)まで引き続き日本に在留しかつ以下のいずれかに該当するもの
- 平和条約の規定に基づき国籍を離脱したもの
- 平和条約の最初の発効日までに死亡し、または当該出生の後平和条約の最初の発効日までに日本国籍を喪失したものであって、当該死亡又は喪失がなかったら、平和条約の規定に基づき国籍を離脱したことになるもの
[編集] 日本国籍を離脱した者の範囲
[編集] 一般論
平和条約は、そもそも日本の領土の縮減に伴う国籍の扱いを明記していない。しかし、条約の第2条(a)及び(b)の文言は朝鮮及び台湾に対する対人主権についても韓国併合前の状態又は下関条約締結前の状態に復させる趣旨との解釈から、朝鮮人や台湾人は条約の発効に伴い日本国籍を離脱するとされた。
ところが、内地人として出生しながら平和条約の発効により日本国籍を離脱する者もいれば、逆に朝鮮人又は台湾人として出生しながら日本国籍を離脱しなかった者もいる。これは、日本国籍を離脱する者の範囲につき、条約発効時において朝鮮又は台湾の戸籍制度の適用を受けるべき者か否かという基準により確定したことによる。
日本の領土であった当時の朝鮮や台湾は、外地として内地とは異なる法体系を有する法令が施行されており、戸籍制度も異にしていた。そのため、これらの地域籍を異にする者との間で婚姻、養子縁組、認知などの身分行為が行われた場合、身分行為によりある地域に属する家に入る(当時は家制度があったため、その地域に属する戸籍に入籍することと同一である)者は、別の地域の家を去るという措置が採られた(共通法3条1項)。
平和条約発効前に内地人女が朝鮮人男と婚姻した場合を例にすると、当時の朝鮮民事令(朝鮮に施行されていた民法に相当する法令)の解釈では、内地人女は婚姻により朝鮮人男が属する家に入り、朝鮮戸籍の対象となる。それに伴い女は内地の家を去り、内地の戸籍から除籍される。このような者は、内地人として出生しながら婚姻により地域籍が朝鮮となるため、条約の発効時に日本国籍を失うとされた。
また、内地人が朝鮮人男に認知された場合も、父が属する家に入ることに伴い内地の家を去るため、地域籍が朝鮮となり、条約の発効時に日本国籍を失う。
[編集] 国籍法施行後の認知の場合
ただし、以上の原則に対し、国籍法(昭和25年法律第147号)の施行日(1950年7月1日)から平和条約の最初の発効(1952年4月28日午後10時30分(明治28年勅令第167号に規定する中央標準時))前に朝鮮人父又は台湾人父に内地人が認知された場合は、認知による地域籍の変動はなく、平和条約の発効に伴い日本国籍は離脱しないという解釈がされている(最高裁平成12年(行ヒ)第149号同16年7月8日第一小法廷判決・最高裁判所民事判例集58巻5号1328頁)。
旧国籍法(明治32年法律第66号)は、日本人が外国人に認知されたことにより外国籍を取得した場合は日本国籍を失う旨規定していたが、現行の国籍法は、自己の意思に基づかない身分行為によって日本国籍を失うという法制を採用していない。そして、共通法3条1項に規定する地域籍の得喪は旧国籍法の規定に準じて定められていたことからすれば、現行国籍法施行日以降にされた認知は、共通法3条1項に規定する地域籍の変動の原因にはならないという解釈に基づく。
[編集] 内地戸籍から除籍されることが禁じられていたものの例外
ただし、昭和17年法律第16号により改正された共通法(大正7年法律第39号)(昭和18年8月1日午前零時(明治28年勅令第167号に規定する中央標準時)より前のもの)が施行されていた当時に17歳未満の内地人男が朝鮮人父から生後認知をされたことは、日本国との平和条約(昭和27年条約第5号)の発効によって日本国籍を失う原因とならず、当該内地人男は、他の行為により日本国籍を失わない限り、1952年4月28日午後10時30分(明治28年勅令第167号に規定する中央標準時)以後も引き続き日本国籍を保有する(大阪地裁昭和56年(わ)第2547号同57年11月16日判決(確定)・判例タイムズ494号151頁,判例時報1087号160頁、法務省民事局法務研究会編「国籍実務解説」(平成6年5月20日 発行 発行所 日本加除出版株式会社)135頁から136頁まで)。
[編集] 地域籍が台湾であった者の場合
行政上は、台湾人が日本国籍を離脱した日を上記平和条約の発効時(1952年4月28日午後10時30分(明治28年勅令第167号に規定する中央標準時))としているのに対し、判例(最高裁昭和33年(あ)第2109号同37年12月5日大法廷判決・最高裁判所刑事判例集16巻12号1661頁、最高裁昭和55年(行ツ)第113号同58年11月25日第二小法廷判決・訟務月報30巻5号826頁)上は、日華平和条約の発効(1952年8月5日)を基準時としている。このため、両条約の発効時の間に台湾人と内地人との間で身分行為があった場合は、台湾人として日本国籍を離脱するか日本人として国籍を保持したままか解釈が分かれることになる。ただし、行政上の取り扱いは変更されていない(昭和38年9月18日付民事甲第2590号民事局長回答・民事月報18巻10号35頁から36頁まで、法務省民事局法務研究会編「国籍実務解説」(平成6年5月20日 発行 発行所 日本加除出版株式会社)141頁から142頁まで)。
[編集] 千島列島、南樺太に本籍があった者の場合
平和条約の第2条(c)は、日本が千島列島や南樺太に対する権利を放棄する旨の規定であるが、平和条約の発効により千島列島や南樺太に本籍があった者が日本国籍を失うという解釈は採用されていない(朝鮮や台湾と異なり、法令上内地であったためと思われる)。
ただし、平和条約の発効により日本人でありながら本籍を喪失することになるため、戸籍法110条に基づく就籍の対象となった。