市川崑
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
市川 崑(いちかわ こん、1915年11月20日 - )は、三重県出身の映画監督。男性。
目次 |
[編集] 略歴等
東宝京都スタジオでアニメーターをつとめ、助監督に転じたのち合併により東京撮影所に転勤。東宝争議の中、新東宝撮影所で監督デビューし、のち東宝に復帰した。この時期は『プーサン』や『億万長者』などの異色風刺喜劇や早口演出の『結婚行進曲』、大胆な映像処理の『盗まれた恋』などの実験的な作品で話題を読んだが、『三百六十五夜』のようなオーソドックスなメロドラマの大ヒット作品も撮っている。
55年に、前年映画制作を再開したばかりの日活に移籍。『ビルマの竪琴』で一躍名監督の仲間入りを果たし、さらに大映に移籍。文芸映画を中心に、『鍵』、『野火』、『炎上』(三島由紀夫『金閣寺』の映画化)、『破戒』、『日本橋』、『ぼんち』、『雪之丞変化』など名作を毎年のように発表して地位を確立した。とりわけ1960年の『おとうと』は、大正時代を舞台にした姉弟の愛を、宮川一夫のカメラとともに美しく再現し、自身初の『キネマ旬報』ベスト1に輝くと同時に、今日に至るまで日本映画史上屈指の傑作と言われている。
また、テレビドラマでは、1972年からフジテレビで放送された中村敦夫主演の連続テレビ時代劇『木枯し紋次郎』シリーズや、1990年に同じくフジテレビで放送された長時間テレビドラマ『戦艦大和』(製作:東宝。原作:吉田満『戦艦大和ノ最期」。主演:中井貴一)などで監督を担当している。
1965年実録映画『東京オリンピック』で一大センセーションを呼んだのち、1970年代は横溝正史の『金田一耕助』シリーズを手掛け、絢爛たる映像美と快テンポの語り口で全作大ヒットとなった。さらに『細雪』『おはん』『鹿鳴館』等の文芸大作、海外ミステリを翻案した『幸福』、『四十七人の刺客』や『どら平太』などの娯楽時代劇、多彩な領域で成果を収める。現在新藤兼人に次ぐ長老監督であり、黒澤明亡きあとはキャリア・作品力・興行力において比肩するものない日本映画の一枚看板的存在だが、老いてなお実験精神衰えず永遠のアヴァンギャルドでもある。
独特の映像表現には定評があり、後輩の映画監督に多大の影響を与えている。特にアニメ・映画監督の庵野秀明は、自ら監督した作品の中で市川監督の作品を意識した映像表現を多用している。岩井俊二監督は「犬神家の一族」を「自分の映画作りの教科書」と呼び、「岩井美学」と呼ばれる映像美や編集方法に大いに影響を受けたとしている。2006年に市川崑物語を製作した。 トリュフォーら他国の監督にも崇拝者は多い。また、和田誠・森遊机編 『光と嘘、真実と影 市川崑監督作品を語る』(河出書房新社2001)では塚本晋也、井上ひさし、小西康陽、橋本治、椎名誠、宮部みゆきと各界の市川ファンがリスペクトをささげて壮観である。北野武は市川の『東京オリンピック』に強い影響を受けたと語っている。
超大作『東京オリンピック』の後には人形劇『トッポ・ジージョのボタン戦争(1967年)』を手がけ、『火の鳥(1978年)』では悪ふざけのようなアニメ合成を駆使するなど、マジメな映画青年を嘲弄するかのごとく活動は変幻自在。1969年には黒澤明、木下恵介、小林正樹と豪華四巨匠が轡をならべて四騎の会を結成し、共同シナリオ『どら平太』を執筆(のち自身で監督)した際も話題も集めた。最近では黒鉄ヒロシのマンガによる紙人形で全編を撮影した『新撰組』がファンの度肝を抜いた。また50年代の終りから、テレビの隆盛で映画関係者の中にはテレビに敵対意識を持つスタッフが多い中、CMやテレビの演出も多く手がけ(生中継ドラマまで何本か手がけている)、今日まで続いている。
大変なヘビースモーカーとして有名で、1994年に文化功労者として選出され、紅白歌合戦にも審査員として出演したが、司会の古舘伊知郎から「ちなみに場内は禁煙でございますので」と忠告され、頭をかいていた。
[編集] 受賞歴(主要な映画賞含む)
- 1956年に『ビルマの竪琴』でヴェネチア国際映画祭サン・ジョルジョ賞
- 1960年に『鍵』でカンヌ国際映画祭審査員特別賞
- 1961年に『おとうと』でカンヌ国際映画祭 フランス映画高等技術委員会賞
- 1965年に『東京オリンピック』でカンヌ国際映画祭 青少年向映画賞・UNICRIT賞
- 1982年に紫綬褒章
- 1988年に勲四等旭日小綬章
- 1994年に文化功労者に選出
- 2000年にベルリン国際映画祭特別功労賞
[編集] 主な監督作品
- 『プーサン』(1953年東宝)
- 『ビルマの竪琴』(1956年日活)
- 『炎上』(1958年大映)
- 『野火』(1959年大映)
- 『おとうと』(1960年大映東京)
- 『黒い十人の女』 (1961年)
- 『破戒』(1962年大映京都)
- 『雪之丞変化』 (1963年)
- 『太平洋ひとりぼっち』(1963年日活 石原プロモーション)
- 『東京オリンピック』(1965年東京オリンピック映画協会)
- 『吾輩は猫である』 (1975年)
- 『犬神家の一族』(1976年角川春樹事務所)
- 『悪魔の手毬唄』(1977年東宝)
- 『獄門島』(1977年東宝)
- 『女王蜂』(1978年東宝)
- 『病院坂の首縊りの家』(1978年東宝)
- 『銀河鉄道999』(1979年東映)※監修
- 『細雪』 (1983年)
- 『ビルマの竪琴』(1985年東宝)
- 『天河伝説殺人事件』(1991年東映)
- 『四十七人の刺客』(1994年東宝)
- 『八つ墓村』(1996年東宝)
- 『どら平太』 (2000年どら平太製作委員会・東宝配給)
- 『かあちゃん』(2001年日活)
- 『犬神家の一族』(2006年角川映画・東宝配給)