寡占
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寡占(かせん、Oligopoly)は市場の形態の一つで、ある商品やサービスに係る市場が少数の売り手(寡占者、寡占企業、oligopolist)に支配されている状態のこと。少数が二社だけである場合は複占(duopoly)という。
このような市場では売り手側の参加者は事実上少数なので、寡占企業はそれぞれ、他の寡占企業の動向に敏感に反応する。
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[編集] 売手寡占
寡占市場は売り手間の戦略的関係(相互依存性)が起きやすいという特徴がある。ある会社の決定は他の会社の決定に影響を及ぼすし、逆にある会社の決定は他の会社の決定の影響を受けて行われるともいえる。寡占企業の戦略は常に、他の市場参加者(寡占企業)がとり得る反応をあらかじめ推測し考えに入れて立案される。
寡占の定量的に表すためには、上位四大企業への集中率がよく使われる。これはある産業の大きい方から四つの企業のマーケットシェアをパーセントで示したもので、寡占状態とはこの割合が40%を超えたときをいう。たとえばイギリスのスーパーマーケット産業では上位四社のシェアは70%以上、イギリスのビール産業では85%となり、両者とも寡占市場であるといえる。
寡占では、企業は不完全競争下にあるため、値下げには追随するが、原料費が上がっても値上げには追随せず、価格は硬直する。それゆえ需要曲線は市場価格の下へは非弾力性を示し、逆に市場価格の上へは弾力性を示すため屈曲する。また、寡占下では企業が提供する商品やサービスは差別化が進み、新規参入企業への障壁が高くなる。この上向きの屈曲需要曲線のため猛烈な価格競争の強さが生み出されるが、これを避けるため、企業は収益増大とシェア増大を達成しようとして非価格競争を行うようになる。
[編集] 買手寡占
買手寡占(Oligopsony)は売り手の数が理論上多くなるにもかかわらず、買い手の数が少ないという市場の状態である。これは、少数の会社が生産に必要な素材を得ようと競争しているような原料市場で典型的に起こりうる。買手寡占は、最終生産物を売る市場での寡占とは異なった性質の、業者間の戦略的関係(相互依存性)を起こしている。
寡占とは最終生産物市場についての状態であり、これに対し買手寡占とは寡占企業が買手であり売り手ではない市場での状態である。(典型的な例:労働市場、資本市場など)また、買手も売手も少数の市場は双方寡占(bilateral oligopoly)という。(独占、買手独占、双方独占と同じ関係である。)
[編集] 寡占の増加
高度に産業化された国々では、寡占は経済の様々なセクター(領域)に見ることができる。例えば自動車、消費財、製鉄などである。また、増大するグローバリズムに煽られて前例のない規模の競争が起こっているため、多くの産業領域で買手寡占も出現している。例えば、航空宇宙産業などでは、もはや旅客機の製造業者は数えるほどしかないため、部品納入先や就職先は数社に限定されている。より典型的な寡占の例は、政府によって強く規制された市場に見られる。無線通信のような分野では、国は携帯電話事業に二社か三社にしか免許を与えないためである。
[編集] 寡占企業間の結託と競争
寡占競争は広範囲に、様々な結果を出現させている。例えば寡占企業が共謀して価格を引き上げ、生産を制限するという一社独占に似た状態が生まれることもある。こうした共謀に公式な協定などがあれば、それはカルテルと呼ばれる。また寡占企業は、投資や生産増強による当該市場に固有のリスクを削減するため、不安定な市場を安定化させようと共謀をすることもある。ほとんどの国では、こうした共謀に対し独占禁止法などの法的制限がある。しかし法規制を逃れるため、公式な協定を作らずに共謀を起こすこともある(もちろん協定が文書化されなくても、企業同士に実際話し合いが行われれば、そうした共謀は違法となる)。例えば、いくつかの産業では、市場のリーダーとして定評のある企業があり、そこがプライスリーダーとして価格を決めると他社も追随する、というものがある。
寡占状態では、企業同士の競争が、低価格・大量供給となって激烈になる場合もある。このときは市場が完全競争状態に近づき、消費者の効用が高まる結果となる。寡占状態が消えることを寡占解消(Desoligopolization)という。
[編集] 寡占の分析
寡占に関する理論では、寡占企業の行動のモデル化のためゲーム理論を多用している。モデルには二社を想定した複占を想定することが多い。
- シュタッケルベルグ競争(Stackelberg competition):このモデルでは、先導企業と、先導企業から戦略的影響を受ける一方の追随企業がある。
- クールノー競争(Cournot competition):このモデルでは、二つの会社は供給量を競争に用いる。
- ベルトラン競争(Bertrand competition):このモデルでは、二つの会社は価格を競争に用いる。
- 独占的競争(Monopolistic competition):この市場構造では、多数の企業が似たものを生産して「競争」しているが、それぞれの製品は少しだけ差別化され違っており、その製品の中では「独占」が成り立っている。そのため各企業は自社以外の企業を気にせず価格と供給量を設定する(したがって、独占的競争は厳密な意味では寡占にもゲームにも属さない)。