千早振る
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千早振る(ちはやぶる)は落語の噺の一つ。別名を「百人一首」・「無学者」といい、近世では三遊亭小遊三が得意なネタとしている。小遊三はこれで『小遊三の千早か、千早の小遊三か』と言われた事もあった。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] あらすじ
『千早振る 神代も聞かず竜田川 韓紅に 水くくるとは』
小倉百人一首の中に、在原業平が読んだこんな歌がある。この歌の意味を娘に聞かれ、困った男が近所に住む自称『物知り』の隠居のところに意味を訊きに行った。ところが、隠居もこの歌の意味を実は知らなかった。困った隠居は、即席で話を作り何とかその場を取り繕う。
- 江戸時代、相撲取りの『竜田川』が吉原へ遊びに行った際『千早』という花魁に一目ぼれした。ところが千早は力士が嫌いでふられてしまう(『千早振る』)。振られた竜田川は妹の『神代』にアタックするがこちらもいう事をきかない(『神代も聞かず竜田川』)。このことから、スランプとなった竜田川は力士を廃業、実家に戻って家業である豆腐屋を継いだ。それから数年後、竜田川の店に一人の女乞食が訪れる。「おからを分けてくれ」と言われ、喜んであげようとした竜田川だったが、なんとその乞食は零落した千早太夫の成れの果てだった。激怒した竜田川はおからを放り出し(『からくれないに』)、千早を思い切り突き飛ばした。千早は井戸のそばに倒れこみ、こうなったのも自分が悪いと井戸に飛び込み入水(『水くぐる』)自殺を遂げた。
しかし、これだと『とは』が残ってしまう。それを突っ込まれた隠居はこう答えた。
「千早は源氏名で、彼女の本名が『とは』だった」
[編集] 「千早振る」の本当の意味
- 「千早振る」:『神』にかかる枕詞
- 「神代も聞かず」:神代、つまり大昔にも訊いた事が無いだろう
- 「竜田川」:本当に川の名。奈良県の生駒郡を流れている
- 「韓紅に水くくるとは」:隠居は「水くぐる」と読んでしまったが、本来は「みずくくる」。くくり染め(しぼり染め)の事
- つまり、『紅葉が竜田川の川面に写り、くくり染めのように見えている。こんな事は今までに一度も無かっただろう』と言う意味。
- ちなみに、古今和歌集を見るとこの歌の但し書きとしてこんな事が書いてある。
- 『二条の后の春宮の御息所と申し上げるときに、御屏風に竜田川に紅葉ば流れたるかたを書けりけるを題に詠める』
- つまり、業平本人は竜田川を見たわけでなく、屏風絵からその様子を想像して詠んだのだ。