前田庸

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前田庸（まえだひとし、1931年 - ）は、日本の商法学者。東京大学法学部卒。学習院大学名誉教授。社団法人商亊法務研究会会長。元・法制審議会会社法部会長。日本銀行金融研究所国内顧問。鈴木竹雄門下である。

少年時代に病気を患い、病気と闘いつつ大学入学資格検定に合格。大学卒業後は金融業界への就職を希望したが、企業からは年齢または健康状態を理由に断られる。そこで、1958年の大学卒業後は鈴木の研究室に残り、研究者としての人生を歩むことになる。

手形理論において「二段階創造説」（手形債務者になろうとする者が手形に署名した段階で手形債務が発生し、それを交付する前に盗難された場合などでも、善意無重過失者から手形金を請求された場合は、原則的にその署名者は履行の責めを免れない、とする説。手形の交付を伴う契約なくして原則として債務の発生なし、とする「交付契約説」との対極とされる）を採ることで有名である。

会社法の分野では、長く（2002年まで）法制審議会会社法部会長を務めて、平成期の度重なる会社法改正作業に関与し、その知識と経験に基づいてタイムリーに改訂される会社法教科書は企業実務を含めて会社法解釈に大きな影響を与えている。

伝統的な商法学にとどまらず民法理論などをも摂取した穏健かつ中正な解釈論を特徴とする学風である。

[編集] 二段階創造説といわゆる手形行為有因論

前田の採る手形理論は従来の手形学説にない斬新な理論であった。

まず、従来からあった創造説をさらに進化させ、手形行為を二段階に分割した。すなわち、手形債務負担行為と手形債務移転行為がそれである。前者は特定の相手方のない単独行為であるとし、したがって、手形債務は手形への署名のみで成立するとする。また、後者は手形債務負担行為によって成立した手形債務を移転する行為であるとし、具体的には手形の交付によってなされる、とする。したがって、いわゆる交付欠缺の事例は手形への署名により手形債務が発生していることから、第三者は善意取得によって善意無重過失ならば保護される。

また、前田の手形理論は従来採られてきた「手形行為は原因関係の影響を受けない」という「手形行為の無因性」という原則に対して、結論が不都合になることがあるとして修正し、手形債務負担行為は無因であるが、手形債務移転行為は原因関係の影響を受ける（有因であるとする）、とする。これが手形行為有因論と呼ばれるものである。

この立場に対しては、二段階創造説の考え方は手形債務負担行為は自己が自己に対して債権を持つことになり、債権債務関係は混同で消滅するはずである、とか、あまりにも技巧的にすぎる、といった批判がある。また、有因論の考え方に対しては、手形関係を有因にした場合、手形関係が不安定になり取引の安定を害してしまう、といった批判がある。