公共
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公共とは、私(private)や個(individual)に対置される概念で英語のパブリック(public)を翻訳した言葉である。ここで注意しなければいけないのは、公共とは私や個と相反するものではなく相互補完的な概念であるということである。例えば、村に一つの井戸を村人総出で掘って共同利用することは、きわめて公共性の高い活動であり、結果として、個人にも私人にも恩恵をもたらす。しかしそのことが個人で井戸を私有することを否定するわけではない。個人私有よりも共同所有の方が合理的だという個々人の合意が形成されてはじめて、共同井戸が成立するのである。つまり私、個の利益を追求したとき、全体の利益を考えた方が合理的であるという結論にたどり着くという点で、最初から全体の利益を優先して、個を軽視する全体主義とは異なる概念である。このことはヨーロッパにおける共同体の成立に個人主義が前提となったことの証左でもある(参照:社会的ジレンマ)。 河川湖沼や交通機関など個人私有よりも共同所有が合理的と考えられるものを国や地方自治体の所有として共同管理するのも同様の考え方である。 共同体(国、都道府県、市町村など)の構成員、参加者としての個人を、私人としての個人と区別する意味で、市民、公民(citizen)と呼ぶ。議員は市民の共通利益の代表者であり、公務員は市民の利益に奉仕する公僕(civil servant, public servant)である。また、市民が共通の関心を要する出来事を知ったり、議員や公務員の活動を監視するための情報媒体であるマスメディアは公器(public organ)と呼ばれ、強い公共性が要請される。 公共的な活動には大きく分けて2つのファクターがある。
- ひとつは国家や地方自治体の構成員(国民・住民=市民)から集めたお金(税金)とそのお金で雇い入れた労働者(公務員=公僕)をつかって行う活動。政府、市役所、郵便局、公共事業、公教育、警察、消防署
- もうひとつは、公務員ではない個々の市民が、地域的ネットワーク、目的ネットワーク、宗教的ネットワークなどを母体として、ボランティアや寄付金などを原資としておこなう活動がある。慈善事業、NPO、NGO、フリースクール、町内パトロール、消防団、自治会、住民運動
- 日本においては、前者だけが公共だと誤解されている場合が多い。本来、前者が「官」であり、後者が「民」である。したがってこの概念に沿えば、郵政民営化は実質的には郵政私営化となる。また国が行う公共事業や医療などの公共サービスにも受益者負担の原理を過度に導入すれば、私企業の営利活動との区別があいまいになってくる。
- 同様に公共性があいまいになりがちな活動体として公益法人(財団法人・社団法人)、特殊法人、独立行政法人、かつての三公社五現業などがある。
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[編集] 公共への貢献の形
ヨーロッパでは、自分が所属する地域や共同体という概念(イタリア語でcomuneコムーネ)が発達し、 商業などで富を蓄えた者は共同体への寄付という形で、公園、広場、噴水、像などを作成し、誰でも使える見られる方法で寄贈することが多かった。
現代では、ヨーロッパの文化を引き継ぐアメリカでは、ビル・ゲイツなどの富豪が、慈善団体やボランティアへの寄付という形で公共への貢献が有名。
日本では公共への貢献という形は、村社会への貢献として行われてきたが(例:農業繁忙期の助け合いや祭りなどの共同作業)、 都市が発達にするにつれ、都市部に生活する人々に村社会のルールや慣習が馴染まなくなり、地域住民の自治体という形で 残っている。 また、寄付などは行われているが、善行は匿名で行うことを良いと考える方もある。
[編集] 公共性
公共性とは、公共の持つ性質のこと。論者によって様々な分類がされている。 例えば、斉藤純一『公共性』(岩波書店)は、公共性をofficial, common, openの3つの意味に分けている。
[編集] official(公務員が行う活動が帯びるべき性質)
国家や地方自治体が法や政策などに基づいておこなう活動。 例:公共事業、公共投資、公的資金、公教育、公安 対比されるもの:私人の営利活動。
[編集] common(参加者、構成員が共有する利害が帯びる性質)
共通の利益(公共の福祉)、共有財産(公共財)、共有する規範(常識)、共通の関心事(ニュース)など。 例.、公益、公共の秩序、公共心、世間(せけん) 対比されるもの:私有権、私利私欲、私心
[編集] open(公共的なものが担保しなくてはいけない性質)
誰もがアクセスすることを拒まれない空間や情報。 例:公然、情報公開、公園。 対比されるもの:秘密、プライヴァシー
この考え方は、山脇直司『公共哲学とは何か』(ちくま新書)での公共性の3つの意味(①一般の人々にかかわる② 公開の③政府や国の)とも共通する。
- 日本ではあまり議論されないunofficial(民間レベルの公共的なもの)。町内会、自治会、NPO、慈善団体、ボランティアサークルなどはcommonに分類されるかもしれない。
[編集] 「公私」と「公=公共=私」
斉藤は「公共」が一般に「国家」が独占するようなイメージを払拭すべきであるとし、また山脇は「公私」二元論からの脱却を唱えている。すなわち、山脇は「政府の公/民の公共/私的領域」を相関関係にあるものとしてとらえ、「滅私奉公」ではなく「活私開公」という理念を打ち出している。この概念は法哲学者の桂木隆夫も著作のなかで肯定的に紹介している(『公共哲学とはなんだろう』勁草書房)。
[編集] 関連項目
- 公
- 公共心
- 公共財
- 公共放送
- 公共事業
- 公共交通機関
- 公共の福祉
- 公共圏
- 共同体
- コミュニティ
- コモンズの悲劇
- 社会的ジレンマ
- 囚人のジレンマ
- ゲーム理論
- パブリックドメイン
- パブリックスクール
- パブリックリレーションズ
- パブリックビューイング
[編集] 関連書
- 齋藤純一 『公共性』 岩波書店 2000年 ISBN 400026429X
- 山脇直司『公共哲学とは何か』筑摩書房 2004年 ISBN 448006169X
- 桂木隆夫『公共哲学とはなんだろう』民主主義と市場の新しい見方 勁草書房 2005年 ISBN 4326153830
- 奥野信宏 『公共の役割は何か』 岩波書店 2006年 ISBN 400022865X
- ハーバーマス『公共性の構造転換』
- ハンナ・アーレント『人間の条件』(1958)
- ウォルター・リップマン『公共哲学』(1955)
- マイケル・サンデル『民主主義の不満』(1996)
- 片岡寛光『公共の哲学』早稲田大学出版部
- 塩野七生 『ローマ人の物語』