代理ミュンヒハウゼン症候群
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代理ミュンヒハウゼン症候群(だいりミュンヒハウゼンしょうこうぐん)とはミュンヒハウゼン症候群の一形態であって、傷害の対象が自分自身ではなく何か代理のものであるような精神疾患である。
多くの場合傷害対象は自らの子供であるため、児童虐待と同列に挙げられることも多い。しかしながら傷害行為自体は患者の目的ではなく、手段として傷害行為に及ぶことで、自らの精神的満足を他者から得ようとしているものである。子供が患者の傷害の対象である症例では、患者は傷害を目的として行っているわけではないとはいえ、行為が反復・継続し、重篤な傷害を負わされる危険があるので、早急に対策を行う必要がある。傷害の対象と患者を隔離すれば、直ちに「傷害」は改善する。通称MSBP。
[編集] 概要
ミュンヒハウゼン症候群と同じく自分に周囲の関心を引き寄せるためにケガや病気を捏造する症例だが、その傷付ける対象が自分自身ではなく「身近にいる代理の人間」であるケースを指すという。この症例は子供を持つ母親に多く見られ、その傷付ける対象の多くは自分の子供。子供に対する親心の操作であったり、懸命または健気な子育てを演じて他人に見せるによって同情をひいたりする。そのような人間関係の操作を行い、自己満足することも挙げられる。またアメリカでは、年間600~1000件近くの「代理によるミュンヒハウゼン症候群」の症例があるといわれ、その数は近年増加傾向にあるという。日本で注目される前に欧米では既に社会問題となっている。また、シュライアー博士によれば、この「代理によるミュンヒハウゼン症候群」の患者の約25%が、以前に「ミュンヒハウゼン症候群」を患っていた事が知られていると指摘する。
他者を傷つけているからといって、決して殺害が目的ではない。
[編集] 主な事件
- 1998年、福岡県久留米市で、1歳半の女児が、20代前半の母親から抗てんかん剤を飲まされた。嘔吐や下痢、痙攣(けいれん)などの症状で入院するが、1週間ほどで回復し退院。ところが1ヶ月後に救急車で病院に運び込まれ、意識障害を起こしていて、揺さぶっても目を開けず、「発作が起きる」という母親の訴えで、抗てんかん剤を少量投与すると、いきなり血中濃度が高まり、中毒状態に陥った。同じ薬を大量に飲まされていた可能性が高かった。病院が調べると、母親が自分の神経痛で、二つの病院からその薬を処方されていた事が判明。女児は他に、水を1日2ℓ以上も飲まされていて、水中毒による低ナトリウム血症を起こしていた。祖母は看護婦だった為「なぜ気づかなかったのか」と批判が相次いだ。担当の医師は「うちの子、難しい病気なんでしょう?と繰り返し聞いてくる。よくいる心配性なお母さんという感じだった。時には母親を疑ってみる姿勢がないと、不必要に採血したり、子供を傷つけてしまうと反省した」とコメントし、何とも言えない歯痒さが各所に伝わった。
- 1996年、アメリカでマザー・オブ・ザ・イヤーとして、1994年にヒラリー・クリントンから表彰されたフロリダ州の母親が児童虐待の容疑で逮捕され、全米中が震撼した。難病と闘う8歳の少女と、けなげな母親として、しばしばメディアに登場していたが、実は、娘に毒物を飲ませたり、バクテリアを点滴のチューブに入れたりしていた事が判明した。少女は、200回の入院、40回以上の手術を受けて、内臓の一部を摘出されてしまった。その後母親には判決が下り、出所後も女児に接近禁止令が下されており、現在も手紙のやり取りだけで、会っていない。女児はこの一連を書いた書籍を発表、ノンフィクションとは思えない衝撃的内容に驚愕の声が鳴り止まなかった。