人形の家
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人形の家(にんぎょうのいえ、Et Dukkehjem)は1879年にヘンリック・イプセンによって書かれた戯曲。同年、デンマーク王立劇場で上演された。弁護士ヘルメルの妻ノラを主人公とし、新たな時代の女性の姿を世に示した物語。全3幕。
世界的にイプセンの代表作とされている。この作品(あるいは前作の『社会の柱』)をもってイプセンの社会劇の始まりと見なすのが一般的であり、彼はこの後ほぼ2年に1作のペースで作品を書き上げることになる。しばしばフェミニズム運動の勃興とともに語られる作品であり、この作品の成功がイプセンを一躍世界的な劇作家とした。
目次 |
[編集] 登場人物
- ヘルメル:弁護士
- ノラ:主人公。その妻
- ドクトル・ランク
- リンデ夫人
- ニルス・クロクスタ
- ヘルメル家の三人の子供たち
- アンネ・マリーエ:乳母
- 女中
- ポーター
[編集] あらすじ
弁護士ヘルメルの妻ノラは無邪気で気前のいい女性。彼女はヘルメルに大切にされていたが、その愛は所詮は所有物に向けるものと同種のものであった。うすうすそんなことに気づいていながらも日々を過ごしていたノラにある日、事件が訪れる。
ヘルメルの部下クロクスタがヘルメルの留守を狙ってノラのもとに嘆願にやって来たのだ。彼は馴れ馴れしい態度を取ったためヘルメルに疎まれ、じきに解雇される予定であった。ノラは断ろうとするが、クロクスタは彼女の弱みを握っていた。それはヘルメルが重病に陥り金銭が不足したとき、彼女はクロクスタから借金をし、その際、借用証の父のサインを捏造していたということだった。当時、彼女の父は重病であったため、これは彼女の苦肉の策であった。もし解雇されるならこの事実をヘルメルに暴露することを宣言されたノラは悩む。自分を支配しているヘルメルがこのことを知れば、すべての生活は破滅することは目に見えているからだ。
やがてノラはヘルメルにクロクスタの解雇を取り消すよう頼むが、事情を知らないヘルメルは取り合わず、クロクスタは解雇される。宣言どおりクロクスタは暴露する手紙をヘルメルに送り、事実を知ったヘルメルは激怒し、ノラをさんざんに罵倒する。すべての終わりがやってきたと思ったさなか、改心したクロクスタから捏造の証拠である借用証書が送られてくる。これでヘルメルの危機は過ぎ去った。先ほどまでの態度を豹変し、再び微笑んで甘いことを言い放つようになるヘルメルの姿にノラは心の底から絶望した。彼女は一人の人間として見られていなかったのだ。「あたしは何よりもまず人間よ」と主張するとヘルメルの制止を振り切り、ノラはひとり家出するのだった。