ロータシズム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ロータシズム (Rhotacism) とは、言語学において、他の音素が/r/音に変化することをいう。rに相当するギリシア文字のρ(ロー)に由来する。
[編集] ラテン語のロータシズム
ラテン語では、母音にはさまれた/s/は/z/を経由して/r/に変化した(rosa, causaなどの例外あり)。
[編集] 名詞
語幹が-sに終わる第三曲用名詞は、単数主格では-sだが、他の格形で-es(-is), -emなどの語尾を伴った結果、sがrに変化した。 すなわち、colos(色)では*coloses > coloris; *colosem > coloremとなった。 このため、-sが残っている単数主格のみが特殊な形であるように見える。 また中には、アナロジーにより単数主格も-rになってしまったものもある(例: honor)。
近代西洋諸語では主に変化したほうの形を取り入れている。
- colos: *coloses > coloris(英 color; 仏 couleur)
- corpus: *corposes > corporis(英 corporate; 仏 corps)
- tempus: *temposes > temporis(英 temporal, temporary; 仏 temps)
- genus: *geneses > generis(英 general, generic; 仏 genre)
- vulnus: *vulneses > vulneris (英 vulnerable)
[編集] 動詞
ラテン語の能動態不定法語尾は*-seであったとみられるが、未完了系時制では幹母音と接触した結果-reとなった。
- *amase > amare
- *videse > videre
- *capese > capere
幹母音をもたないもの (esse, posse) や、完了系時制 (fuisse, amavisse) では-seをとどめている。
また、sum (esse) の語幹は*es-であるが、能動態未完了過去・未来において人称語尾と接触した結果、er-となった。
- *esam, *esas, *esat > eram, eras, erat
- *eso, *esis, *esit > ero, eris, erit