ユリシーズ
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ユリシーズ (Ulysseus) は、オデュッセウス(Odysseus)のラテン語読み。古代ギリシア世界の英雄であり、ホメロスの「オデュッセイア」の主人公でもある。
また、それに由来する以下のもの。
- ジェイムズ・ジョイスの小説の題名。プルーストの『失われた時を求めて』とともに20世紀最高の傑作とも言われる(本項で説明)。
- NASAが打ち上げた太陽を極軌道で周回する人工惑星(ユリシーズ (探査機)を参照)。
- アリステア・マクリーンの小説『女王陛下のユリシーズ号』に登場する架空の巡洋艦。
- 田中芳樹原作の小説・アニメ・ゲーム『銀河英雄伝説』に登場する架空の宇宙戦艦。
- TVアニメ『宇宙伝説ユリシーズ31』。
- TVアニメ『タイドライン・ブルー』に登場する架空の潜水艦。
- 落合祐里香のファンクラブの名称。
文学 |
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『ユリシーズ』(Ulysses)はアイルランド出身の小説家ジェイムズ・ジョイスの小説で全18章からなる。1922年刊行。 ダブリンのある1日(1904年6月16日)に起こった出来事を、様々な文体で、意識の流れなどの実験的な手法を用いて描写している。当初、猥褻な描写があるとしてイギリス・アメリカでは発売禁止処分を受けた。
主人公は小説家志望のスティーヴンと、広告取りのブルームで、構成はホメロスの『オデュッセイア』のパロディになっている。例えば、英雄オデュッセウスはさえない中年男ブルームに、息子テレマコスは他人のスティーヴンに、貞淑な妻ペネロペイアは浮気妻モリーに、20年にわたる辛苦の旅路はたった1日の出来事に、置き換えられている。また、ダブリンの街を克明に記述しているため、ジョイスは「たとえダブリンが滅んでも、『ユリシーズ』があれば再現できる」と語ったという。ジョイスファンにとって6月16日は「ブルームズデイ」である。
目次 |
[編集] 登場人物
- レオポルド・ブルーム 38歳。新聞社で広告取りをしている。歌手である妻のモリーとは長らく性交をしておらず、浮気をしているのではないかと悩んでいる。スティーヴンの父親とは知り合い。
- スティーヴン・ディーダラス 22歳。『若い芸術家の肖像』(1916年)の主人公でもある。小学校で教えているが、自分の将来のことや金銭のことで悩みが多い。
[編集] 構成
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
- テーレマコス Telemachus
- 海岸のマーテロ塔に住むスティーヴンと、同居の友人たちの会話。自然主義的。
- (マーテロ塔はダブリンに実在しておりジョイスの記念館になっている。元は古代ローマ時代の砦)
- 海岸のマーテロ塔に住むスティーヴンと、同居の友人たちの会話。自然主義的。
- ネストール Nestor
- スティーヴンの勤め先の小学校での授業風景。校長から給料を受け取り、投稿原稿を新聞社に届けるよう頼まれる。自然主義的。
- プロテウス Proteus
- スティーヴンが海岸で思索にふける。内的独白。
- カリュプソー Calypso
- もう1人の主人公ブルームの朝の食事。妻モリーとの会話。
- 食蓮人たち Lotus-Eaters
- ブルームは郵便局で文通相手からの手紙を受け取る。競馬好きの知人ライアンズに会う。
- ハーデス Hades
- ブルームは酒の飲みすぎで死んだディグナムの埋葬に立ち会う。
- アイオロス Aeolus
- ブルームの新聞社での仕事ぶり。一方、スティーヴンは新聞社に校長の原稿を届ける。修辞学の実例と内的独白と新聞の見出しのパロディ。
- この章は新聞記事の体裁で書かれている。
- ブルームの新聞社での仕事ぶり。一方、スティーヴンは新聞社に校長の原稿を届ける。修辞学の実例と内的独白と新聞の見出しのパロディ。
- ライストリュゴン人 Lestrygonians
- ブルームは街に出て昔の恋人とばったり会う。その後1人で昼食を取る。
- スキュレーとカリュブディス Scylla and Charbydis
- スティーヴンは図書館でシェイクスピアを巡る文学論を戦わせる。対話。
- さまよえる岩 The Wandering Rocks
- ダブリン市内の様々な場面が描かれる。スティーヴンの家族も登場。ブルームは「罪の甘さ」という好色本を買う。
- セイレーン Sirens
- ボイラン(妻の浮気相手と疑っている)を見かけたブルームは後を追う。ボイランはホテルのバーに入って飲む。ブルームは苦悩しながら文通相手に返事を書く。フーガの技法による言葉の楽曲。
- キュクロープス Cyclops
- ブルームは酒場へ行く。周りの客たちはブルームが競馬で大穴を当てたと誤解しており、ブルームをいびる。
- (この章は下品な口調で書かれているが、翻訳家柳瀬尚紀は犬の視点で書かれていると主張している)叙事詩、医学論、新聞記事などの文体のパロディ。
- ブルームは酒場へ行く。周りの客たちはブルームが競馬で大穴を当てたと誤解しており、ブルームをいびる。
- ナウシカア Nausicaa
- ブルームは浜辺へ行き(白夜のため周囲はまだ明るい)、子どもたちと遊ぶ美しい少女を見かけ、妄想を抱いて自慰を行う。婦人雑誌の小説のパロディ。
- 前半は少女の視点で書かれている。
- ブルームは浜辺へ行き(白夜のため周囲はまだ明るい)、子どもたちと遊ぶ美しい少女を見かけ、妄想を抱いて自慰を行う。婦人雑誌の小説のパロディ。
- 太陽神の牛 Oxen of the Sun
- ブルームは妻の友人が出産のため入院しているのを見舞う。ここで酒を飲んでいるスティーヴンに会う。
- この章は古代から中世、近世、近代の様々な英語文体史のパロディで書かれている。
- ブルームは妻の友人が出産のため入院しているのを見舞う。ここで酒を飲んでいるスティーヴンに会う。
- キルケー Circe
- スティーヴンの後を追うブルーム。泥酔したスティーヴンは娼婦宿に迷い込み、娼婦たちと騒ぎになる。ブルームはスティーヴンを連れて逃げる。
- この章は『ファウスト』のワルプルギスの夜を思わせる戯曲風に書かれ、現実と幻覚が交差する。
- スティーヴンの後を追うブルーム。泥酔したスティーヴンは娼婦宿に迷い込み、娼婦たちと騒ぎになる。ブルームはスティーヴンを連れて逃げる。
- エウマイオス Eumaeus
- ブルームとスティーヴンは馭者溜まりで休む。
- イタケー Ithaca
- ブルームがスティーヴンを連れて帰宅し、文学談義などをする。泊まるよう勧めるがスティーヴンは帰宅する。ブルームはベッドに浮気の痕跡を見つける。教義問答の文体。
- この章はカトリックの教理問答を模した文体で書かれている。
- ブルームがスティーヴンを連れて帰宅し、文学談義などをする。泊まるよう勧めるがスティーヴンは帰宅する。ブルームはベッドに浮気の痕跡を見つける。教義問答の文体。
- ペネロペイア Penelope
- 妻モリーがベッドの中でブルームとの思い出などを回想する。
- 句読点のない長い内的独白が延々と続く。
- 妻モリーがベッドの中でブルームとの思い出などを回想する。
[編集] 邦訳
古くは昭和始めの森田草平他による訳(岩波文庫)、伊藤整他による訳があった。現在入手しやすく完結しているのは丸谷ほかによる3人訳。
- 元は河出書房新社の世界文学全集(1964年)、改訳・単行本化(1996年)を経て文庫化(2004年)。丸谷は14章(太陽神の牛:古代から中世騎士物語、シェークスピアなどの文体で書かれている)を古事記、万葉集から西鶴、漱石などの文体で翻訳して絶賛された。
- 『ユリシーズ』柳瀬尚紀訳、 河出書房新社(未完)
- 柳瀬は丸谷らの3人訳が日本語になっていないと痛烈に批判しているが、自身による訳は1 - 3章、4 - 6章、12章の3冊(1996 - 1997年)と、途中で刊行が止まっている(2006年11月現在)。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- Ulysses(Project Gutenberg)[1]