ボディアーマー
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ボディアーマーはチョッキ(ベスト)状の身体防護服。防弾チョッキ・防弾ベストともいう。
強靭な繊維であるケブラーやアラミド繊維を幾重にも織り込んで銃弾の貫通を防ぐほか、金属製のプレートで着弾時の衝撃を分散、緩和する。
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[編集] 着用目的
拳銃などの銃砲器で発射された弾丸から身体を防護し、被害を低減するために着用する。アメリカ合衆国の一部の地域では警察官以外にも市民が当たり前のように着ており、どこの家にも大抵一着以上はある、一般的なセキュリティグッズである。日本では銃刀法による規制が厳しくそもそも銃器による犯罪が少ないことや、市民の安全意識の低さ、価格の高さから殆ど広まっていない。日本では機動隊が主に着るほか、警察官が拳銃携帯命令の発令時に着用する。あとは現金輸送車の警備員が着用する程度。他には自衛隊員も着ているが、依然として市民には広まっていない。
軍用のものにあっては銃弾を防ぐだけでなく、破片から頸部を保護することも重要視される。戦場では敵の銃弾が胴体に命中する以上に、榴弾などの破片によって頚動脈を負傷する可能性が高く、しかもその方が重篤な状態に陥りやすいことによる。
[編集] 歴史
最初期の防弾チョッキは絹で作られていた。これは幾分高価(1914年のものでは800米ドル程度)なベストだったが、黒色火薬が用いられ発射間隔の長い銃弾を防ぐのには十分な性能であった。1914年6月、サラエボ事件においてオーストリア皇太子フランツ・フェルディナント大公はこのベストを着用していたにも関わらず、拳銃から発射された.32 ACP弾で頸部を撃たれ死亡した。この事件はまさに第一次世界大戦勃発の引き金となる。1920年代の後半から1930年代の前半にかけてのアメリカの銃犯罪増加により、木綿が詰められた布製の廉価な防弾チョッキが用いられるようになる。この初期のベストは初速が約1000フィート/秒程度と小さい.22, .25, S&W .32 Long, S&W .32, .380 ACP, and .45 ACP のような拳銃弾を防ぐことが出来たが、合衆国のエージェントが組織化された犯罪者たちとそのベストに対抗するため.38スペシャルや.357マグナム弾が開発された。第二次世界大戦中にナイロンを用いたより近代的な "flak jacket" が開発され、これは対空砲火や榴弾だけは防ぐことができたが、.38スペシャルや.357マグナム弾は防ぐことができなかった。近代的な防弾チョッキはケブラーで作られ、1975年にアメリカの警察で試験的に用いられた。ケブラーに加え、現在DSM製の Dyneema やAkzo製の Twaron(現在議論がなされているが、新しい研究報告によるとすぐに劣化し、期待されていたものより防御性能が低下するという)、Honeywell製の GoldFlex など防弾チョッキ向けに幾つもの新しい繊維が開発されている。これらの新しい繊維はケブラーより軽く強靭で薄くできると期待されている。
[編集] 機能性
銃を所持し自衛することが憲法で保障され銃の入手が容易なアメリカでは毎年一万件を超える銃犯罪が発生しており、結果アメリカはボディアーマーの研究が進んだ国となっている。仕様や性能はアメリカの防犯メーカーや警察が主体となって製作し、それが世界各国にも広まっている。完全な日本独自開発の防弾チョッキというものはなく、アメリカが製作した物に若干手直しをして着用している。
ボディアーマーは防御可能な弾薬の種類に応じてランク付けされている。防弾に用いる素材には大きく分けて二つの種類がある。金属板と複合繊維である。それぞれにメリット・デメリットがあり、目的に応じて併用、もしくは使い分けられる場合が多い。
金属板タイプは、胸部や腹部が中空状の衣類に鉄板等の金属板を挟んで用いられる。その目的は文字通り弾丸を「止める」ことにある。非常に重量がかさむというデメリットがあるものの、金属板の厚さによってはかなりの大口径にまで耐えることができ、防弾だけでなく防刃効果も有する。そのため、ライフル用ボディアーマーは数十mmの厚さのものを使う。前部と背部だけの使用でも十数kgの重量となる。
一方、複合繊維を用いるタイプは、ケブラーやアラミドといった対熱、対摩擦効果の高い繊維で編まれた布を数枚から数十枚重ねることで、銃弾のエネルギーを損耗させることに主眼をおいている。ネットにバレーボールを打ち込むように、繊維が周りにエネルギーを分散させることでダメージを減免するのである。繊維を用いた防弾服は非常に軽量で動きも束縛しにくいというメリットがある。しかし、繊維を使用したものは先端が尖っている貫通力の高いライフル弾、ミニチュアライフル弾(FN-P90等)やボトルネック型の拳銃弾(モーゼル・トカレフ弾等)や、細身の刃物などは通しやすいというデメリットがある。防刃目的に使われる場合は、強化樹脂や金属のプレートを使用したり、チェインメイル(鎖帷子)を併用したりする。
なお、特殊部隊や軍隊用の防弾ベストは、ベストのポケットに装着した予備弾倉をこの防弾プレートの代用とする場合もある。同様の理由で、コンパウンドボウ・クロスボウ・ボウガンなどの「弓矢」等による攻撃も、防弾プレートなしのボディアーマー単体では防げない(マンガなどで「矢で撃たれたが防弾ベストを着ていて助かった」という描写があるが、創作と考えるべきである)。また、「スペクトラ」と呼ばれる新型防弾素材は、高熱に弱い反面、防刃性にすぐれ、ケブラー繊維に比べて、単体での刺突への防御力がかなり高いと言われている。
また、チョッキの形は身体全部を覆わないが、元々防弾チョッキは身体に弾丸が撃ち込まれた場合、とりわけ致命傷となりやすい部分である心臓や腹部などを防護する為に作られている。銃火器を発砲するときはもっとも命中しやすい体の中央を狙うことが多く、もし手足に命中しても致命傷にはならないためその部分に覆いはない。また頭部については防弾ヘルメットを着用することで防護する。SWATで採用しているモデルは鎧風のスタイルで全体にマジックテープとスナップのメス側が縫い付けられ、予備弾倉や無線機、その他の装備を収める為の蓋付きポケットが付けられる様になっているものが多い(モデュラーベストと称する)。近年では、股間までを覆うタイプの防弾ベストや、腕・脚までを覆う爆弾処理班員用の物もある。
アメリカの防犯メーカーが開発した最新のタイプのものは至近距離1メートル範囲で発砲されても身体を防護できる性能を持っている。
警官が使用する場合は防弾チョッキを着用していることが外から分かると、一般市民に威圧感をもたらしたり銃撃戦時に頭部など保護されていない部位を狙われることがあるため、着用時は外観から着ていると分からないように素肌か下着の上に直接装着し、その上から背広などを羽織りチョッキ自体を覆い隠す。形はチョッキ型(ベスト型)、パーカー型などがある。
なお、非常に誤解されやすい事であるが、元々ボディアーマーは「偶然の飛来物の貫通を防ぎ、致命傷を回避する」ことが目的である。「飛来物の効果を打ち消して、怪我を回避する」ことが目的ではない。現実には、たとえ弾丸がボディアーマーでストップしても、人体には着弾時の衝撃がかなり伝わる。これは、厚手のジャンパーを着ている人間を勢い良く指で突けば、指がジャンパーを貫通することはないが、相手は突かれた衝撃を感じるのと同じ理屈である。したがって、かなり低性能の弾丸でも当たった場所にアザが出来たり軽い打撲を負うことはあり、エネルギーの大きい弾丸では肋骨が折れたり内臓が破裂することさえある。ボディアーマーの内側に、衝撃を分散するパッド(トラウマプレート)を装着することで、幾分か衝撃を緩和できるが、性能への過信は禁物である。
[編集] 使用感
元々、アメリカ西部開拓時代に保安官が着用していたが当時の製品は衣類にしては重すぎ、活動的ではなかったので改良が幾度となく行われた。今現在のものは軽量化・高性能化に富み、活動的なデザインと密着感のあるものとなった。ただし、普段全く着用しない者が簡単に着こなせるほど手軽なものではなく、さらに軽量化されているとはいえやはり普段の服装に比べればはるかに重い。
着用する場合は着用者の他にそれを着させる者が一名いると着易い。警察では二人がかりで着用させることと規定されているが、緊急時など止むを得ず独りで着なければならない事もあるわけで、無理すれば一名で着用することができないわけではない。
なお、防弾チョッキではないが、ボディーアーマーの一種として、刃物で刺されても影響がないような耐刃防護服が存在する。警視庁は2005年6月27日に新型の耐刃防護服を報道発表し、その後、都内全域にこれを配備した。それまでの耐刃防護服は内側に着用する白いものであったが、夏は蒸れるなどの欠点があった。新型は夏でも着やすいように通気性を良くしてあり、出動服の外から着ることもできる、などの特徴がある。