ホット・ジュピター
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ホット・ジュピター(Hot Jupiter)は、太陽系外の恒星をめぐる 太陽系外惑星のうち、中心の恒星から地球 - 太陽間の十分の一以下という至近距離にある軌道上を、高速かつ非常に短い周期で公転(公転周期は数日。これに関しては後述)する木星級の巨大ガス惑星を指す。恒星に極めて近く、強烈な恒星光を浴びるため表面温度は高温になっていると予想されている。このような系外惑星は1995年頃から続々と発見されつつある。
他にも、離心率の大きい彗星のような楕円軌道を描き、灼熱期と極寒期をめまぐるしく繰り返す巨大惑星エキセントリック・プラネットも発見されている。両者はこれまでに発見された百数十個の系外惑星のうち大半、百個ほどを占めているが、後者の方が圧倒的に多い。いずれも、太陽系にある惑星の様子からは予想もつかない、異形といえる惑星である。
本来、地球から数光年より先にある惑星の明るさは、光年単位の距離を隔てて観測するにはあまりにも暗すぎて、光による観測はほぼ不可能である。これらの「異形の惑星」の存在は、惑星の光を直接観測したものではなく、公転する惑星の質量によって中心の恒星が周期的にふらつく現象をドップラー偏移法によって間接的に検出された。ただし1999年には、ペガスス座で恒星の前を横切る巨大惑星の影が直接観測されている。
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[編集] 概要
我々の太陽系においては、比較的小型な地球型惑星が内惑星として太陽に近い軌道をめぐっている一方、木星・土星のようなガス巨星は外惑星として太陽から数天文単位の距離を隔てて回っている。これらの外惑星は、太陽の熱を十分に受け取ることができないため、表面温度零下百数十度の極寒の世界となっている。
しかし、ホット・ジュピターは時には中心の恒星からわずか0.05天文単位しか離れておらず、ほとんど恒星表面をかすめるように周回しているため、惑星表面は熱せられて摂氏数百度を超える高温となっている。「ホット・ジュピター」は直訳すれば「熱い木星」となるが、このような特徴に由来したものである。これまでは、太陽系の外の恒星系も惑星の配置・構成は太陽系とさして変わらないだろうと思われてきたが、実際の系外惑星はほとんどの学者が予想だにしない形で発見され、大きな衝撃を与えた。
こうした惑星は恒星に極めて近い軌道を持つため、潮汐力によって自転と公転が同期し、常に同じ面を恒星に向けていることになる。当然、一方の面が常に恒星光で熱せられているので、反対側にあたる影の面に向かって摂氏数百度を超える強烈な熱風が吹いていると予想されている。そのため、ホット・ジュピターの外観は木星のような横縞模様ではなく、恒星の光が最も強く当たる点から影の面へ向かう気流により縦方向の縞模様が形成され、スイカの模様のようになっているとも推定される。また、惑星自体の色は、あまりの高温のために固体成分が蒸発して透明なガス成分のみになっているため、深い青い色に見える可能性も指摘されている。これは本来透明な海水や大気が日光の散乱によって青く見えるのと同じ現象である。
[編集] 発見
従来、太陽系以外の恒星にも惑星は存在するだろうと言われており、1940年代から様々な系外惑星探査(プラネット・ハンティング)の試みがなされてきた。しかし、バーナード星など幾つかの星に有力候補が想定されてきたものの、いずれも否定されており、また観測能力の限界から実際には発見されず、太陽系の外の惑星は幻のままであった。SFの世界では多種多様な系外惑星が頻繁に登場するが、初めて現実に太陽系以外の恒星に惑星が発見されたのはようやく1990年代になってからである。(詳細は太陽系外惑星の項を参照)
1995年10月6日、ジュネーブ天文台のミシェル・メイヤー、ディディエル・クエロッツらスイスの観測チームによって、ペガスス座51番星 (51 Pegasi) に木星の半分の質量を持った巨大惑星の存在が確認された。この惑星の軌道は、中心の恒星からわずか0.05天文単位、約750万kmしか離れておらず、水星軌道よりも遙かに内側に入り込み(水星の軌道半径の八分の一)、恒星のまわりを4.2日で周回していることも確認された。この発見は様々な検証を経て間違いなく系外惑星であると確かめられ、これをきっかけとして系外惑星探査に火がついた。すると、他の恒星にも木星型惑星が続々と発見された。ペガスス座の系外惑星は決して特殊な例ではなく、同様のホット・ジュピターの発見が相次いでいる。従来の系外惑星探査は、ほとんどの観測者が太陽系に似た恒星系を想定して探していたため、観測データには既にかかっていたのに、思わぬ盲点となって見落としてしまったようである。
これまでに発見された系外惑星は、先述したように大半がホット・ジュピターあるいはエキセントリック・プラネットであるが、これは宇宙に散らばる恒星のほとんどがそうした灼熱巨大惑星を擁しているというわけではなく、巨大惑星の重力による恒星のふらつきを検出するという方法で観測されているため、恒星に近い、木星クラスの質量を持つ巨大惑星でなければ、地球からの観測が非常に困難であるという事情に起因している。
[編集] ホット・ジュピターの形成理論
ホット・ジュピターの発見は、従来の太陽系を対象にした惑星系形成理論がそのまま他の恒星系にも適用できるものではないことを示し、ホット・ジュピター、エキセントリック・プラネットなども含む多様な系外惑星の形成も含めて説明できるような理論へと書き直しを余儀なくされた。
恒星系の成立については、まず原始恒星を取り巻く円盤のガスや微粒子が集積して惑星を形成し、次第に恒星を取り巻く幾つかの惑星という系ができあがっていくというモデルが考えられている。このモデルでは、木星のような巨大ガス惑星は恒星の近くでは生まれにくいとされている一方、これまでに発見されたホット・ジュピターはほとんどが恒星に至近距離まで近づいているので、「惑星落下モデル」が提唱されている。こうした楕円軌道の巨大惑星は、元は比較的外側の領域で形成されたものであったが、後に何らかの原因で本来の軌道から外れ、恒星の重力に引かれて内側に移行していったのではないか、という説である。円軌道のホット・ジュピターよりも細長い楕円軌道のエキセントリック・プラネットの比率が大きいことが傍証とされているが、一方で、惑星がそんなに簡単に落下するものであれば、すべての惑星が恒星に落ち込んで惑星系はほとんど存在しなくなるのではないか、という異論もある。そのため、落下した惑星が現在観測されている軌道で安定するようなブレーキ法や、円盤のガスの密度などをめぐって、シミュレーションを駆使した様々な考察がなされている。
[編集] ホット・ジュピターと見られる天体
[編集] 参考文献
- 井田茂、『異形の惑星-系外惑星形成理論から-』、NHKBOOKS、2003年。
[編集] 関連項目
[編集] 関連SF作品
- 楕円軌道を持つエキセントリック・プラネットに棲息する生命体を描いた短編SF作品。