ベルカント
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ベルカント(イタリア語 Bel Canto 、「美しい歌」「美しい歌唱」の意)は、声楽用語のひとつ。以下に述べるように定義付けの乏しい用語であるが、大体においてイタリア・オペラにおけるある種の理想的な歌唱法を指す。
目次 |
[編集] 初出について
この言葉自体、もともと「美しい歌・歌唱」という一般名詞に過ぎず、声楽の特定の様式を表す用語としての初出ははっきりとしていない。「オックスフォード・オペラ大事典」ではヴェネツィアで活躍した声楽教師ニコラ・ヴァッカイが『室内アリエッタ集(Ariette da camera )』(1840年以前の編纂)で用いたのが最初ではないかとしている。
[編集] ロッシーニの嘆息
「ニュー・グローヴ・オペラ事典」では、1858年にパリで聞かれたある会話中、ジョアッキーノ・アントニオ・ロッシーニが「残念なことには、我々のベルカントは失われてしまいました」と発言した、という逸話を引いている。その逸話によれば、ロッシーニにとってのベルカントは「自然で美しい声」「声域の高低にわたって均質な声質」「注意深い訓練によって、高度に華麗な音楽を苦もなく発声できること」にあり、知識として教えられるというよりは、最高のイタリア人歌手の歌唱を聴くことではじめて吸収・理解しうる名人芸であるとされていた。また後年1864年の書簡でロッシーニは「イタリアのもたらした最も美しい賜物の一つであるベルカント」とも述べており、少なくとも彼の意識の上ではベルカントは(単に美しい歌という形容でなく)「イタリア性」と結びついていたことは確かである。
ロッシーニのこういった嘆息の背景には、19世紀半ばのイタリア・オペラにおける大きな時代変化の波があった。1830年代以降、コロラトゥーラなどの歌唱装飾技巧に多くを求めず、力強い歌唱でドラマを表現することが好まれるようになってきていたのである。
1831年初演のベッリーニ『ノルマ』はすでに、女主人公ノルマに歌唱装飾だけに頼らずドラマティックな唱法でドラマを展開することが求められている点で、ロッシーニ以前のオペラよりはやがて来る19世紀央のヴェルディなどの新進作家のオペラにより近いということができる。
1829年に初演されたロッシーニ自身の傑作オペラ『ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)』でも、アルノール役を歌った初演時のテノール、アドルフ・ヌーリが高音を美しい頭声(ファルセット)で歌っていたのに対して、1837年にパリ・オペラ座に颯爽と現れた新進テノール、ジルベール・デュプレは同役で最高音まで全てを胸声で押し通した。ロッシーニはデュプレの表現方法を大いに嫌悪したにもかかわらず、その力強い声にオペラ座の聴衆は熱狂したのだった。
[編集] 現代における「ベルカント」の用法
現代では「ベルカント」なる語は一般的にはその歴史的・地域的背景は無視されオペラ歌手が用いるある種理想的な発声法・歌唱法(様式)といった文脈で用いられるのが現状であるが、オペラ研究家にとってこの用語は15世紀末から18世紀にかけてイタリアで発達し、19世紀前半のロッシーニオペラでほぼ完成の域に到達した、高度な歌唱装飾を伴うオペラ歌唱の一様式を示すことが多い。 日本では特に90年代頃から(?)ポップスのトレーナーなどにも使用されるようになり一般にも広まったようだが、その多くがコーネリウスリードの著書「ベルカント唱法」の解釈を踏襲するものである。voce de finte や messa di voce等ベルカント特有の言葉の意味も同様で、これらは「リードのベルカント」と呼んで分けたほうが無難ではある。
[編集] ベルカント・ルネッサンス
[編集] 様式的概要、特徴
発声法としては音域に合わせて声区を使い分けるのが最大の特徴で、原則のようにいわれる。 両の声区はそれぞれ独立したまま徹底的に鍛えあげられ音色的な統一が図られる。 結果として広い音域で無理のない発声となり技巧的自由度が大きく、消耗しない。また息の効率が良く、長い連続的なフレージングが容易で音量の幅も広い。 音色的には丸くほっそりとしたこえで、いわゆるドラマティックな声は目的としない。このため歌唱スタイルとしては決して大衆受けし易いものではない。
様式としてはレガート唱法などといわれるような、声を長く伸ばして連続的に歌う。声の出し始めや終わりにも注意が払われる。頭声由来の柔軟性を生かして細かな装飾的なフレージングも多用される。一般的な声種の分類の中ではリリコとかコロラトゥーラの範疇にあるといえる。
[編集] 関連項目
- オペラ
- ヴォーチェデフィンテ
- メッサディヴォーチェ
[編集] 参考文献
- John Warrack and Ewan West, "The Oxford Dictionary of Opera", Oxford Univ. Press (ISBN 0-1986-9164-5)
- Owen Jander and Ellen T. Harris: 'Bel canto', Grove Music Online ed. L. Macy (Accessed 30 March 2006), <http://www.grovemusic.com>
- 水谷彰良「プリマ・ドンナの歴史 II ――ベル・カントの黄昏」東京書籍(ISBN 4-487-79332-7)
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