フィードバック奏法
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フィードバック奏法(-そうほう)とは、エレクトリックギターを演奏する際、本来は演奏に有害であるとされる、フィードバックによって生じる発振音(ノイズ)を、楽音として積極的に取り入れる奏法をいう。「キーン」や「ギーン」などという擬音が最も近い音。一種の効果音でありハードロックやヘビーメタルでは、かなりの頻度で利用される。ギタリストの間では単に「フィードバック」と称する。
[編集] 電気弦楽器におけるフィードバック
エレクトリックギターやエレクトリックベースなどの電気弦楽器は、楽器単体で弦振動を演奏音へ増幅する機構を持たず、ピックアップにて弦振動を電気信号に変え、シールド線で接続されたアンプで増幅後、アンプに内蔵されたスピーカーから演奏音を発音する。フィードバックの発生原理は次の2種類がある。
- 音(空気振動)を介するフィードバック
- スピ-カーの演奏音>楽器の胴や弦への共振>アンプでの増幅>スピ-カーの演奏音 とのフィードバックループを辿る。マイクロフォンで起きるハウリングと同じ。奏法への用法は「音量を上げる」「アンプへ近づく」などが用いられる。ソリッドギターよりも、胴に共鳴用の空間を持つその他の種類のギターにおいて、より生じやすい。
- 磁気を介するフィードバック
- ピックアップおよびスピーカーは磁気を利用しており、互いを近付けることで電磁誘導の一種である電磁結合が起こりフィードバックループが形成される。 スピ-カーのボイスコイルからの漏洩磁束>ピックアップコイルへの電磁結合>正相信号の励起>アンプでの発振>スピ-カーボイスコイルへの電流 とのフィードバックループを辿る。マイクロフォンで起きるハウリングとは発生原理が異なる。弦や空気などの物理的な振動を介さないため、極端な場合は弦を張っていない楽器でも発生する。奏法への用法は「ピックアップをスピーカーに正対させる」などがある。ハムノイズを防ぐために正相信号の励起を抑止したハムバッキングピックアップでは、この原理によるフィードバックも起きにくい。
いずれの発生原理も奏法への用法は明確に区別されておらず、実際のフィードバックも二つの発生原理の複合によって生じるが、磁気によるフィードバック音は弦振動を止めても持続するため、奏法によってはフィードバック途中にその音質を変えることができる。
なおエレクトリックベースでも原理的には発生するが、奏法として用いられることは少ない。
[編集] 発祥と演奏例
「奏法」というが、初期のエレキギターには元来、演奏の一部として音をフィードバックさせる意図も大出力の機材もなかったために、偶然性が大きかった。
ビートルズの「アイ・フィール・ファイン」という曲のイントロの前には、エレキギターによる「グイーン」あるいは「ブーン」といった音が入っている。これもレコーディングされたものとしては初といっていいフィードバックではあった。
現在ギターで使われる、高音での一般的なそれは、イギリスのロックバンドであるザ・フーのギタリスト、ピート・タウンゼントがはじめて行ったというのが通説のひとつである。ただしタウンゼント以前にも、アメリカのジャズやブルースのミュージシャンがフィードバックを使用していたという話もある。つまりフィードバック奏法は、各地で平行し自然発生したと表現するのが正しい、とする説もあるわけだ。
たとえばフィードバック奏法の名手と言われるジミ・ヘンドリックスは、母国アメリカでの下積み時代からフィードバックを使用していたと言われるが、その当時まだザ・フーはレコードデビューしておらず、ヘンドリックスがザ・フーのサウンドを聞いていた可能性は非常に低い。
ビートルズのジョン・レノンも前記の「アイ・フィール・ファイン」を挙げて、「俺たちはザ・フーやヘンドリックスの前からフィードバックをやっていたんだよ」と述べている。もっともそれはスタジオ録音の場に限られていた。
タウンゼントやヘンドリックスの他、ジェフ・ベックもフィードバック奏法を早くから多用したギタリストの一人である。その後、ステージでの機材が大出力になるにつれ、多くのギタリストに取り入れられた。
クイーンのギタリスト、ブライアン・メイは、ギターオーケストレーションにおいてフィードバック音をサウンド中の倍音の要素として取り入れ、バイオリン属の楽器のシミュレーションにも使用した。
[編集] 関連項目
- フィードバック
- シングルコイル
- ハムバッキング
- エレクトリックギター(エレキギター)
- ザ・フー
- ジミ・ヘンドリックス