ケイ酸塩
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化学において、ケイ酸塩(ケイさんえん)は、1個または数個のケイ素原子を中心とし、電気陰性な配位子がこれを取り囲んだ構造を持つアニオンを含む化合物を指す。シリケート (silicate) とも呼ばれる。この定義ではヘキサフルオロシリケート [SiF6]2− などの化学種も含まれるが、一般的によく見られるケイ酸塩は酸素を配位子とするものである。ケイ酸塩アニオンは他のカチオンと結合し、電気的に中性な化合物を形成する。
シリカ(二酸化ケイ素) SiO2 はケイ酸塩の一種と考えられることもある。これはケイ素周りが負電荷を帯びないため追加のカチオンを含まない特別な例である。シリカは水晶やその多形などの鉱物として自然界に見られる。
ケイ酸塩鉱物に代表される大多数のケイ酸塩では、ケイ素原子は4個の酸素原子によって囲まれた四面体構造をとる。鉱物の種類によってこの四面体が連なる度合いは異なり、単独、対、クラスター、環状、鎖状、二本鎖状、層状、3次元網目状など多岐にわたる。ケイ酸塩鉱物はこのアニオン構造の違いによって分類される。
ケイ素原子は非常な高圧下では6個の酸素原子が配位した八面体構造をとることもある。1961年にソ連のS.M.StishovとS.V.Popovaが1200℃、160kbarという条件下で人工的な合成に成功したスティショバイト (stishovite) である。これは隕石が地表に衝突した際にも生成する。例えば、バリンジャー隕石孔から発見されている。遷移層から下部マントル程度の高圧条件下ではシリカはスティショバイト構造をとると考えられている[1][2][3]。酸素原子周りの空間が少ないため通常の圧力条件では6配位のケイ酸塩はまれにしか見られないが、ソーマス石 (thaumasite) などにヘキサヒドロキシシリケートイオン [Si(OH)6]2− として含まれる。
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[編集] ケイ酸塩岩石
地質学や天文学におけるケイ酸塩は岩石の種別の一種であり、ケイ酸塩鉱物を主成分とするものを示し、火成岩、変成岩、堆積岩の多くがこれに含まれる。地球のマントルや地殻は主にケイ酸塩によって構成されており、他の地球型惑星についても同様である。
地球では、地殻の形成、および部分的な融解、結晶化、分画、変成作用、風化、続成作用などの過程によって多種多様なケイ酸塩鉱物が生成してきた。地表付近においては生物もケイ酸塩の生成に寄与している。プランクトンの一種である珪藻はケイ酸塩からなる被殻を作り出す。深海の沈降物は主に珪藻の被殻からなっている。
[編集] 鉱物学
鉱物学ではケイ酸塩鉱物はそのアニオン部分の構造によって以下のようなグループに分類される。
- ネソケイ酸塩鉱物(四面体単体) — [SiO4]4−、カンラン石など。
- ソロケイ酸塩鉱物(四面体2量体) — [Si2O7]6−、緑簾石など。
- サイクロケイ酸塩鉱物(環状) — [SinO3n]2n−、トルマリン類など。
- イノケイ酸塩鉱物(単鎖状) — [SinO3n]2n−、輝石類など。
- イノケイ酸塩鉱物(2本鎖状) — [Si4nO11n]6n−、角閃石類など。
- フィロケイ酸塩鉱物(層状) — [Si2nO5n]2n−、雲母や粘土など。
- テクトケイ酸塩鉱物(3次元網目状) — [AlxSiyO2(x+y)]x−、水晶、長石、ゼオライトなど。
テクトケイ酸塩鉱物はアルミニウムなど価数の小さい原子でケイ素が置き換えられ、全体として負電荷を帯びる場合にのみカチオン種を含む。このような置換は他のケイ酸塩でも起こる。
いくつかの希少な鉱物では、結晶構造中に複数種のアニオンが共存していたり、上に挙げた種別の中間の構造を持つ複雑なアニオンを含んでいる。
[編集] 参考文献
- ↑ Funamori, N.; Jeanloz, R.; Miyajima N.; Fujino K. (2000). "Mineral assemblages of basalt in the lower mantle". J. Geophs. Res. - Solid Earth 105 (B11): 26037–26043. 要旨
- ↑ 参考: http://www.geo.arizona.edu/xtal/geos306/fall06-11.htm, http://www.esc.cam.ac.uk/~gbro04/SZ%20processes.html, http://www.suken.co.jp/subject/rika/sc_net/25/Sc25_3.pdf
- ↑ 八木健彦、近藤忠、宮島延吉、亀卦川卓美、"下部マントル深部条件下における高温高圧X線回折実験" , PHOTON FACTORY NEWS Vol.20 No.3 NOV. 2002 PDF