バリンジャー・クレーター
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バリンジャー・クレーター (Barringer Crater) は、アメリカ・アリゾナ州フラッグスタッフの東約55キロメートルに広がる衝突クレーターである。北緯35度1分38秒、西経111度1分22秒に位置する。
バリンジャー・クレーターは今から約5万年前に地球に衝突した隕石によって形成されたクレーターであり、直径約1.5キロメートル、深さ約170メートルである。クレーターを取り囲む周壁が特徴的で、周囲の平原からの高さは30メートルである。バリンジャー・クレーターを形成した隕石が衝突した時代、バリンジャー・クレーターが位置するコロラド高原は現在よりも寒冷湿潤な気候であり、マンモスや地上オオナマケモノが生息する草原地帯であった。
バリンジャー・クレーターを作ったのは直径約50メートルの鉄金属隕石である。隕石は太陽よりも輝かしく燃えながら大気圏を通過し、時速4万キロメートルを超える速度で落下したと考えられる。そして地上に激突した隕石は凄まじい爆発を引き起こし、そのエネルギーはツングースカ大爆発の3倍を超えると推測される。爆発によって舞い上げられた岩石の総重量は1億7,500万トンと推定され、岩石は周囲1,200メートルに渡って降り注いだ。衝突地点に堆積した岩石は高さ170メートルにのぼる。周辺からは30トンもの隕鉄の破片が発見されており、周辺のディアブロ峡谷の名を取ってキャニオンディアブロ隕鉄と呼ばれている。
衝突地点ではあらゆる物質が融解・気化し、高温高圧によって炭素からダイヤモンドが生成された。衝突によって生成されたダイヤモンドはクレーターのごく近くと、ディアブロ峡谷でのみ発見されている。衝突はマグニチュード5.5以上の地震を引き起こし、クレーターの外側にあった30トンの石灰岩の塊を突き動かした。
衝突地点から半径3キロメートルから4キロメートル以内の生物は、衝突と同時に死滅した。その後、衝突によって発生した巨大な火の玉によって半径10キロメートル以内のあらゆる物質を焦がし、時速2,000キロメートルに及ぶ衝撃波が半径40キロメートル近くまで広がり、半径14キロメートルから22キロメートルまでのすべてを何もない荒野に変えた。しかしながらこの衝撃が地球の気候に大きな影響を及ぼすことはなく、100年ほどで動植物が再び根付いた。
[編集] 発見
バリンジャー・クレーターを最初に発見したのは、アメリカ西部への入植者であった。発見された当初、多くの地質学者はバリンジャー・クレーターが火山の火口であると勘違いしていたが、1903年に鉱山技師のダニエル・モロー・バリンジャーが巨大な鉄金属隕石の衝突によって形成されたクレーターであると指摘した。バリンジャーが経営する会社であるスタンダード・アイロン・カンパニーは1903年から1905年にかけてクレーターに関する研究を行い、バリンジャー・クレーターは隕石の衝突によって形成されたクレーターであるという結論を下した。1906年にバリンジャーは、共同経営者である物理学者のベンジャミン・チュー・ティルグマンと共にインパクト理論を裏付ける証拠を示した。彼らは米国地質調査所に最初の論文を提出し、この論文はフィラデルフィアの自然科学アカデミー会報で発表された。その後、衝突によって発生した高温高圧の痕跡がユージーン・マール・シューメーカーの研究によって示され、バリンジャーの仮説が証明された。宇宙からの飛来物の衝突によって形成されたことが証明された地形は、バリンジャー・クレーターが初めてである。(2004年放映:「NHKスペシャル 地球大進化 46億年・人類への旅」では、「バリンガー」と紹介された)
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