オランウータン
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オランウータン |
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分類 | ||||||||||||||||||||||
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Pongo pygmaeus |
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オランウータン |
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英名 |
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オランウータンは、類人猿の一種。マレー語で「森の人」を意味する。Orangが「人」、Utanが「森」である。なお、別名にショウジョウがあるが、これは中国の伝説の動物猩猩から来たものである。
他の類人猿がアフリカを生息地とするのに対し、本種は東南アジアのスマトラ島とボルネオ島の熱帯雨林にのみ生息する。現在東南アジアの熱帯雨林は急速に面積を失っており、絶滅が危惧されている。
目次 |
[編集] 種
かつてはボルネオ島に生息する個体群とスマトラ島に生息する個体群は「亜種」とされていたが、現在は「別種」とされることが多い。
- ボルネオ・オランウータン Pongo pygmaeus
- スマトラ・オランウータン Pongo abelii
両者は遺伝的、形態的、生態的に異なる点が多いが、飼育下では交雑可能である。
- 亜種
現在、ボルネオ・オランウータンはさらに3つの亜種に分類されている。
P.p.pygmaeus(サラワクから西カリマンタンに分布。野生での生態はほとんど研究されていない)
P.p.wurmbii (西カリマンタンから中央カリマンタンに分布。ボルネオでは最も研究されている)
P.p.morio (東カリマンタンからサバに分布。wurmbii に次いで研究されている)
(注)南カリマンタンには野生のオランウータンは分布していない。
亜種の間にも遺伝的、形態的に違いがあり、特に頭骨や歯の形態については、スマトラ-ボルネオ間の種間での差違よりもボルネオ島内での亜種間での差異が大きい、との報告が多い。
[編集] Status
全ての種 ENDANGERED (IUCN Red List)
[編集] 生態
ほぼ完全な樹上生活者であり、大きなオトナのオス以外は基本的に地面におりることはない(オトナのオスはときどき地面に下りて、短い距離を歩くことがある)。 天敵は中大型のネコ科(ウンピョウ、スマトラトラ)、ヘビなどが考えられているが、オランウータンが実際にこうした動物に襲われた例はほとんど知られていない。
果実を主食としているが、ボルネオ島では果実が少ない時期には樹皮や新葉もよく食べる。他にもキノコや花、シロアリやアリを食べるが、チンパンジーとは異なり、肉食(脊椎動物を食べること)の観察例はほとんどない。
類人猿の中では最も単独性が強く、グルーミングや遊びなどの社会交渉を行う頻度は、活動時間の1%以下である。しかし完全な単独性ではなく、3~7頭が同時に同じ木で採食したり、連れだって移動することもあり、緩やかなつながりをもつ社会を形成していると考えられている。
妊娠期間は270日で、1回に生まれるコドモの数は1頭、双子の報告はほとんどない。2歳半~3歳頃に離乳するが、6歳~9歳頃まで母親と一緒に行動する。メスは10歳頃、オスは15歳頃オトナになる(性成熟に達する)が、野生下でオスが最初のコドモを出産するのは13歳~18歳頃と言われている。出産間隔は6年~9年で、霊長類の中では最長である。コドモの死亡率は非常に低く、数%という報告がある。寿命はまだよくわかっていないが、スマトラでは少なく見積もっても53歳に達しているメスが乳児を抱えて元気に生きている例が報告されており、オスに関しても少なくとも58歳まで生きたという報告がある。
メスが生まれた場所(群れ)を離れて移動する(分散)する他のアフリカ大型類人猿とは異なり、(DNA解析の結果)雄も雌も同程度に分散している可能性が指摘されている。しかし長期研究が行われている調査地では、メスが母親の近くに留まる例も観察されている。
オトナのメスは通常、一頭のコドモ(赤ん坊)を連れて移動・採食し、オスも基本的には1頭で生活している。若いオスやメスは連れだって行動したり、オトナのメスについて歩くこともある。 夜には毎晩、1頭1頭が新しい巣を作って寝るが、まれに古い巣を再利用することがある。コドモは母親から独立するまでは母親と一緒の巣で眠ることが多い。
[編集] 研究
オランウータンの研究は他の類人猿研究に比べ、進んでいない。その理由として、
- 単独性が強いために、データ収集の効率が悪い(研究に必要なデータを集めるまでに時間がかかる)
- オランウータンは高さ10~60mの樹上を中心に生活しており、接近して生活の詳細を観察することができない。
といったことがあげられる。
日本人の研究者がほとんどいないために、日本語の情報が非常に少なく、日本では実際以上に「研究されていない」とのイメージが強い。 しかし海外の研究者による長期研究が数か所ですすめられており、多くの知見が蓄積されつつある。 以下では近年の主な研究成果を記述する。
[編集] 道具使用の発見
スマトラ島では、小枝を使って堅いドリアンの実を開けて、栄養豊富な種を食べる。また枝を木の洞に差し込んで、アリやシロアリなどを釣って食べる。オランウータンは飼育下やリハビリテーションセンターではよく道具を使用するが、野生での道具使用の例は、最近まで発見されていなかった。 ちなみにボルネオ島では道具使用の報告はほとんどない。
[編集] 採食生態の解明
東南アジアの熱帯雨林では一斉開花と呼ばれる現象があり、数年に1度だけ森の木々が一斉に開花・結実する。一斉開花の年以外は果実生産は低調で、イチジクをのぞくと、ほとんど果実がない時期もある。
特にボルネオ島ではこの果実がない期間が長く、オランウータンは一斉開花の年に「食いだめ」をして体内の脂肪を蓄え、果実が少ない時期はこの脂肪を消費しながら耐えている。一斉開花の年の1日の摂取カロリーはオトナのオスで 8000 kcal 以上になるが、非果実季には 4000 kcal 未満と半分以下に激減する。非果実季には、樹皮や新葉などを食べながらため込んだ脂肪を消費してしのいでいる。
ちなみにスマトラ島では非果実季でもイチジクの実が豊富にあるので、樹皮や葉を採食することは少ない。
[編集] オスの繁殖戦略
![天王寺動物園にて](../../../upload/shared/thumb/2/2c/Pongo_pygmaeus.jpg/250px-Pongo_pygmaeus.jpg)
オランウータンの最もおどろくべき生態は、オトナのオスが社会的地位に応じて、形態を大きく変えることである。
オランウータンのオスの顔の両脇にある張り出し(でっぱり)は「フランジ(Flange)」と呼ばれている(別名Cheek-Pad、頬だこ)。 フランジは強いオスの「しるし」で、弱いオスは何歳になってもフランジが大きくならない。しかしひとたび強いオス(フランジがあるオス)がいなくなると、フランジのないオス(アンフランジ)が急激にフランジを発達させて、1年以内にフランジのあるオスに変わってしまう。
スマトラでは20年以上、アンフランジだったオスが、フランジとケンカをして勝ったところ、急にフランジに変わってしまった、という報告もある。ちなみにフランジは一度大きくなると小さくなることはない。
またオス間の関係では、フランジをもつオス同士は非常に敵対的で、時には殺し合いに発展するような激しい闘争を行う。一方、フランジのオスはアンフランジに対しては非常に寛容で、同じ木で一緒に採食することもある。アンフランジ同士の間にも敵対的な関係はほとんどみられない。
フランジとアンフランジは繁殖戦略(メスとの関係)が大きく異なっている。
- フランジのオスは大きな「のど袋」を持っていて、「ロング・コール(long call)」と呼ばれる独特の音声を発し、発情したメスがやってくるのを待つ。
- アンフランジのオスはメスと変わらない小さな体でこっそりメスに近づき、交尾を試みる。アンフランジの交尾に対してメスが抵抗することが多いため、研究者によってはこうした交尾を「レイプ」とよんだりもする。
しかしボルネオではフランジのオスが「レイプ」をすることもある(スマトラではほとんどない)一方、どちらの島でもメスがアンフランジのオスと積極的に交尾する例も観察されている。
最近のDNA資料を用いた父子判定の結果からは、フランジもアンフランジも同程度コドモを残している例が報告されている。
[編集] 参考文献
- 鈴木晃 著 - 『オランウータンの不思議社会』岩波ジュニア新書
- ビルーテ・ガルディカス 著,杉浦秀樹・斉藤千映美・長谷川寿一 訳 - 『オランウータンとともに 上・下』新曜社
- C. ファン・シャイック 著 - 『オランウータンの道具の文化が示す知能の進化』日経サイエンス7月号(2006年)
[編集] 外部リンク
- オランウータン研究室
- ボス・ジャパン
- 日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会
- IUCN Red List of Threatened Species - Pongo pygmaeus
- オラン・エイド
カテゴリ: Endangered | サル目