アナログコンピュータ
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アナログコンピュータ(analog/analogue computer)は、電子的現象や機械的現象を利用してある種の物理現象を表現し、問題を解くのに使われるコンピュータの一形態である。アナログコンピュータの基本コンセプトを理解するにはアナログの語源であるアナロジーの意味を調べてみるのがいいだろう。アナロジーにおいては目立った特徴を類似させる。しかし、アナロジーにおける違いも重要である。
たとえば、線形機械部品(バネ、制動装置)と電子部品(コンデンサ、コイル、抵抗)の類似は数学的にも表現できる。これらの動作は同じ形の方程式でモデル化される。しかし、両者には厳然とした違いがあるため、アナログコンピュータに意味がある。質量とバネを使ったシステムを考えてみよう。物理的にシステムを作るには、まずバネとおもりを買ってくる必要があり、これらを接続して適当な定着装置で固定し、適当な入力範囲に対応できる試験装置をつけて、最後に実測する。電気的に等価なものは少しの増幅装置(オペアンプ)といくつかの受動線形部品だけで構成される。計測にはオシロスコープを使う。回路内では、質量にあたるものはポテンショメータで調節可能である。この電気的システムは物理システムのアナロジーであり、そのためにアナログコンピュータと呼ばれる。これは構築が安価で安全で簡単に変更可能である。
電気機械式のアナロジーの欠点は変数の範囲が限られることである。これをダイナミックレンジと呼ぶ。それらは雑音レベルによっても制限される。
電気システムの「アナログ」と「デジタル」という言葉はしばしば正しく認識されておらず、混乱したあやふやな意味がまかり通っている。アナログシステムは連続的な時間によって変化する電気システムとしてしか理解されていない。上述のように、これは正しい理解とは言えない。これはアナログコンピュータが電気機械式アナロジーで構成されていた時代に意味が固定化したものと思われる。一般の「デジタル」という言葉の理解は、家電製品やパーソナルコンピュータに結びついている。もちろん、デジタルにも技術的な定義がある。回路を論じる際には、二進化回路(=デジタル回路)の利点は雑音の影響を受けにくいことが挙げられる。
中間的なグループとしてハイブリッドコンピュータがあり、そこではアナログ機器の入出力の生成と制御にデジタルコンピュータが使われている。また、アナログ機器が初期値を与えたり、デジタルコンピュータが解析不能な微分方程式の問題を解いたりする。
いくつかの例:
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[編集] アナログコンピュータの動作
アナログコンピュータでの計算は、電気抵抗や電圧などを測定することでなされることが多い。たとえば、二変数の加算器はふたつの電流源で構成される。第一の変数は第一の電流源を調整することで設定される(つまり xミリアンペアに設定)。そして第二変数は第二電流源を設定する(y ミリアンペア)。これを並列接続して一方を接地した上で抵抗器を接続すれば抵抗器に流れる電流が x+yミリアンペアとなる。他の演算もオペアンプや他の回路を使って同様に行われる。
電気の属性を使ってアナログコンピュータを構築するのは、計算が実時間で行われ、デジタルコンピュータのような遅延が生じないためである。この特性を使うとデジタルコンピュータにはやや難しい積分の計算なども簡単にできる。アナログコンピュータでは波形の積分はコンデンサを使って電荷を蓄積させることで計算する。
非線形関数とその計算はダイオード関数発生器(ダイオードと抵抗器を様々に組み合わせる装置)である程度の精度で実施することができる。電圧が増大すると全体の抵抗が増大し、ある時点でダイオードが電流を流し始める。
計算可能な物理プロセスはアナログコンピュータに翻訳可能である。たとえばアナログ計算の概念を示すものとして、スパゲッティをソートすべき数値の集まりとみなしたり、ゴムバンドを点の集合の凸包を探すのに使ったり、まっすぐな紐をネットワークの最短ルートを捜すのに使ったりといったことが挙げられる。
[編集] アナログコンピュータの部品
アナログコンピュータは複雑なフレームワークを持つことが多いが、計算に必要な根本的な電子部品は以下のようなものである。
電気を使ったアナログコンピュータで使われる主な数学的な操作は以下の通りである。
[編集] 限界
一般に、アナログコンピュータは(理論上ではなく)現実のいくつかの効果によって制限される。アナログ信号は四つに分解される。直流成分と交流成分と周波数とノイズである。これらの成分の現実の特性上の制限によってアナログコンピュータは制限される。その制限としてノイズフロアとか半導体部品の非線形性や寄生インピーダンス、電子の蓄積が有限であることなどが挙げられる。ちなみに一般に使われている電子部品はそのような入出力特性の範囲内で使われている。
アナログコンピュータはほぼあらゆる計算をデジタルコンピュータに譲ってきた。風洞によるシミュレーションをアナログコンピュータと言い張るには無理がある。というのはレイノルズ数やマッハ数などの数値は実験データをさらに加工して得られるものだからである。ある意味で物理学は情報処理にもとづいて物理的現象を計算にマッピングするものである。したがって、風洞実験はあくまでも実験であり、それに基づいた計算である。
[編集] 最近の研究
デジタル計算が非常に一般化しているが、アナログ計算に関する研究を行っている研究者は数えるほどしかいない。米国ではジョナサン・ミルズが拡張したアナログコンピュータを使った研究を行っている。ハーバード・ロボティクス研究所でもアナログ計算が研究分野となっている。
[編集] 実用的なアナログコンピュータ
以下は、実際に開発され実用に供されたアナログコンピュータの例である。
アナログシンセサイザーは一種のアナログコンピュータとみなすこともでき、その技術は電子式アナログコンピュータの技術から生まれたものの応用である。
[編集] 理想のアナログコンピュータ
理論家は理想のアナログコンピュータを実数計算機と呼ぶ(実数全体を扱えることから、そのように呼ばれる)。
この理想化されたコンピュータは「理論上」デジタルコンピュータで解けない問題も解けるはずである。しかし、実際のアナログコンピュータは雑音最小化問題があるため、理想にはほど遠い。