沖縄料理
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沖縄料理(おきなわ りょうり)は、沖縄県の料理。日本の郷土料理の中で、独自の食文化が発達した。
日本の他地域と異なる気候で食材の違いや、明治以前の独立した王国による歴史的土壌の違い、あるいは中国や東南アジア、朝鮮との独自交易から、各国から強い影響を受けたことが、食文化の違いの要因となっている。したがって今日に至るまで琉球料理(りゅうきゅう りょうり)という呼び方も使われている。
また、伝統的に医食同源の思想が強く、沖縄では食べ物を「クスイムシ」(薬になる体にいいご飯)、「ヌチグスイ」(命の薬)とも呼び、食事によって病気を予防し、治療するという風土が、長寿の秘訣になっているという指摘も[1]。
その一方で、戦後は米軍の軍政下に置かれ、占領軍から影響を受けている。
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[編集] 概要
[編集] 歴史
現在、沖縄料理として一般に親しまれているものの源流は、宮廷料理の流れをくむ料理と、一般庶民の家庭で食べていた料理とに大別される。琉球王国時代、宮廷では儀式や中国からの使節の饗応の必要から中国の影響を強く受けた豪壮華美な料理が発達した。一方、庶民の間では野草や自然の恵みを生かした素朴な味わいの料理が広まった。いずれも日本本土の郷土料理である薩摩料理と相互に影響を与えあいながら、日本料理とも中華料理とも異なる沖縄の食文化を形成した。それらは薬膳・長寿食としても有効で、今日に至る長寿県沖縄の形成に貢献している。これらに加えて、沖縄そばなど明治以降に沖縄に伝わった料理も現在では広く沖縄料理として認識されているほか、ポークランチョンミートやタコライスといった、戦後アメリカの影響で普及した料理も、新しい沖縄料理として独自の食文化の一翼を担っている。
[編集] 豚肉料理
沖縄料理の主眼とされるのは、豚肉を利用した料理である。中華料理同様に、沖縄料理ではブタを利用した料理が特に発達しており、「ひづめと鳴き声以外は全部食べる」と言われるほど、一頭の豚を文字通り頭から足先まで料理に使用する。中でも有名なのは豚の角煮であるラフテーやあばら骨の部分を煮込んだソーキであるが、耳の部分を切り取り、毛を剃ってその軟骨部分を食べるミミガーや、同様に頭の皮を利用したチラガーなども有名である。基本的に、豚肉を料理する際にはよく煮込んで、また料理によってはゆでこぼしてから用いる。このため、余分な脂肪が抜け出て健康的な料理になると言われている。例えば、豚足の部分を、毛を処理してから醤油やみりんでじっくりと煮込んだティビチ(テビチ)は、脂分が抜け出てコラーゲンが豊富に残留しているため、肌の美容に良いとされている。また、内臓は中身と呼ばれ、イリチーと呼ばれる炒め煮にされるほか、様々な内臓をコンニャクやコンブとともに入れた中身汁と呼ばれる吸い物などに利用されている。豚肉のかたまりを塩漬けにしたスーチカー、甘い味噌と脂身を合わせて作るあんだんすー(油味噌)などの保存性のある加工品にしたり、血液も固まりの状態をイリチーにしたチーイリチーとして食べるなど、沖縄における豚肉料理のバリエーションは非常に多彩である。
[編集] 山羊料理
沖縄の肉料理にあっては、ヒージャー(ヤギ)も特筆すべき動物である。沖縄には山羊料理の専門店が存在するほか、祝い事の際などに振る舞われることが多く、現在でも農家では「自家用」にヤギを買っている家庭が多い。乳は飲まず、主な料理法は生の刺身と汁物であるが、いずれもくさみが非常に強く、ショウガやフーチバー(ヨモギ)でくさみを消して食べる。山羊料理は沖縄では滋養強壮に良いともされており、ヒージャーグスイ(「グスイ」は「薬」の意)という言葉も存在する。 高血圧の人や妊娠中や病気療養中の人が食べると、症状が悪化することがある。また、体質により失神や鼻血などを起こすこともあるので注意が必要である。
[編集] 野菜料理
沖縄の野菜料理といえばチャンプルーが真っ先に挙げられる。沖縄独特の固い豆腐を中心にした炒め物であるが、そこに使われる野菜は一般的なキャベツ、ニンジン、モヤシなどの他にゴーヤー、パパイヤなど独特のものも存在する。ナーベラー(ヘチマ)を食用にするのも沖縄独特のもので、青い時期に収穫し、豆腐などとともに味噌煮にするナーベラーンブシーなどの料理がある。ジューシーはフーチバーなどの野草や野菜、ヒジキなどを米と一緒に炊き込む料理で、雑炊状のものと炊き込みご飯状のものとがあり、後者を特に区別してボロボロジューシーと呼ぶこともある。他に、シブイ(トウガン)は牛肉とともに汁物にされるなど、野菜料理においても沖縄独自の食べ方が多い。
[編集] 豆腐・麩料理
前述のように炒め物のチャンプルーに使うしっかりした島豆腐がある一方で、おぼろ豆腐よりも軟らかいゆし豆腐もよく食べられている。豆腐を紅麹や泡盛に漬け込んだ豆腐ようも沖縄名産として名高い。また、大豆ではなく、落花生を使った「じーまみ豆腐」(地豆豆腐)も風味豊かな郷土食である。
沖縄で小麦の栽培はされていないが、小麦粉から作る麩を使った料理も多く、宮廷料理から広がったものと思われる。車麩などを水で戻して炒めた、麩チャンプルー、麩いりちーは家庭の惣菜としてよく食べられている。
[編集] 魚介料理
沖縄周辺で獲れる魚の中には、グルクン(タカサゴ)など独特の魚も少なくない。魚料理のバリエーションは多くはなく、例えばグルクンは唐揚げにして食べるのが一般的であるが、素材の風味を生かして塩だけで煮込んだマース煮(「マース」は「塩」の意)などの料理も存在する。また、イラブー(エラブウミヘビ)を煮込んで汁物にしたものや、イカを墨ごと汁物にしたイカの墨汁(すみじる)、またハリセンボン料理なども、沖縄独特のものである。魚の加工食品としては、スク(アイゴの稚魚)を塩漬けにしたスクガラスや、沖縄風薩摩揚げのチギアギ(これを「カマボコ」と呼ぶこともある)などがある。 他に、沖縄の珍しい魚を使った刺身やにぎり寿司などもある。
[編集] 海藻・昆布料理
海草を用いた料理も盛んで、スヌイ(モズク)は酢の物にし、アーサ(アオサ)は味噌汁に入れるほか、いずれも天ぷらの具にしたりする。また、海ブドウも沖縄独特のものとして、土産物などとして珍重されている。また、クーブ(コンブ)を利用した料理が盛んで、だしに使うほか、締め昆布を煮物や炒め物に用いたり、千切りにしてクーブイリチーと呼ばれるイリチーになどにする。沖縄県のコンブの消費量は全国でも一、二を争う。沖縄で昆布が生産されないのに消費量が多いのは、江戸時代、日本と中国との交易の中継点として沖縄が利用されていた頃、日本から中国への輸出品として沖縄に運ばれた北海道産のコンブが用いられるようになったからだとされている。
[編集] 沖縄そば
沖縄そば(方言風に「すば」とも)は、明治以降に中国人が沖縄に伝えたとされ、沖縄では「そば屋」と言ったら沖縄そば屋を指すほどポピュラーなものになっている。麺は小麦粉を中心にしてそば粉を用いず、中華麺に近いもので、これをブタやカツオ、コンブのだしで取ったスープで食べる。具はチギアギや小口ネギなどであるが、ソーキを醤油とみりんで味付けしたものを乗せるソーキそばも最近では定着している。また、宮古諸島や八重山諸島のそばはそれぞれ違いがあり、「宮古そば」「八重山そば」として親しまれている。
[編集] アメリカの影響
戦後、アメリカの軍政下におかれた沖縄では、食文化においてもアメリカの影響を受けるようになった。まず、戦争直後の食糧不足の状況下で米軍の軍用食料から供出された豚肉の缶詰、ポークランチョンミートが一般に普及し、現在でもスパムをはじめ、輸入物だけではなく県産品も製造されるなど、大量に消費されるようになった。ビーフステーキ、ハンバーガー、ピザといったアメリカ風の料理も早くから普及し、1963年にはハンバーガーチェーン店のA&Wが進出した。これは、マクドナルドの日本進出より8年早い。こういったアメリカ文化の影響は、それまでの食生活に少なからず影響を与え、既存の料理と融合したタコライスやポークたまごといった新しい料理を生み出した。
[編集] 長寿食としての沖縄料理
沖縄県民は平均寿命が高いことで知られているが、これは現在既に高齢者となっている70代以上の年齢層が平均を上げているもので、アメリカ式食生活が普及し出した後に生まれた50代以下の平均余命を調べてみると、全国各県の平均と比べても中盤程度と、それ以上の年代に比べ明らかな低下が見られている。
同様の例が、沖縄県から世界各地、特にハワイや南北アメリカ大陸など牛肉食文化の地域への移民の間に見られ、沖縄系移民の生活習慣病発症率が、その土地の平均より低めである事が多い。
これらの統計からも、旧来の沖縄料理が長寿食として計り知れない影響力を持つ、琉球方言での名の通り「ぬちぐすい」(命の薬)であることがわかる。
[編集] ギャラリー
[編集] 文献
- 安里幸一郎『沖縄の海産物料理 海の幸を生かそう』新星図書出版、1985年4月、[7]
- 旭屋出版書籍編集部(編集製作)『ヘルシー!元気!おしゃれ!おいしいNEW沖縄料理 Elegant Okinawa cooking レシピ&レストランガイド』旭屋出版、1998年2月、ISBN 4751101242
- 石川幸千代『沖縄料理の新しい魅力 健康・長寿・美・癒しの創作レシピ』旭屋出版、2006年7月、ISBN 4751105892
- 岩谷雪美(編著)『しあわせの沖縄料理 アンマーたちの元気でおいしいオキナワン・レシピ』[2]PARCO出版、2000年7月、ISBN 4891946113
- 英知出版(編)『ちゅらごはん かんたん!おいしい!きれいになれる! 沖縄料理レシピ集』[3]英知出版、2002年1月、ISBN 4754253604
- NHK「ちゅらさん」制作班(編)『NHK連続テレビ小説ちゅらさんの沖縄家庭料理 沖縄の料理は命薬』双葉社、2001年8月、ISBN 4575473847
- 沖縄県観光文化局文化振興課(編)『琉球料理』沖縄県、1995年、[8]
- 沖縄ナンデモ調査隊『笑う沖縄ごはん オキナワ・スローフードの秘密』双葉社、2003年12月、ISBN 4575296236
- 沖縄マリン出版(編)『家庭の味らくらくレシピ 食べて生き生き沖縄料理』沖縄マリン出版、
- 翁長君代『琉球料理と沖縄の食生活』績文堂、1969年12月、[9]
- オレンジページ(編)『うちで楽しむ沖縄の元気料理』オレンジページ、2004年5月、ISBN 4873032911
- 岸朝子『沖縄料理のチカラ 健康になる、長生きする、きれいになる』PHP研究所、2003年10月、ISBN 4569629830
- 岸朝子と豊かな食を拓く会『岸朝子のおいしい沖縄の食卓』同文書院、2000年7月、ISBN 481037727X
- Kojun、比嘉京子(共著)『モダン・オキナワン・クッキング 沖縄料理』ICGミューズ出版、1999年5月、ISBN 4805306157
- 尚承、高良菊(共著)『おいしい沖縄料理』柴田書店、1995年7月、ISBN 4388057525
- 創英社(編)『全国沖縄料理店本』(季刊『カラカラ』増刊号)、創英社、2005年12月、ISBN 4990140796
- 日本の食生活全集沖縄編集委員会(編)『日本の食生活全集47 聞き書 沖縄の食事』農山漁村文化協会、1988年4月、ISBN 4540880071
- 生活情報センター編集部(編)『沖縄食堂』生活情報センター、2006年6月20日、ISBN 4861262623
- 太陽編集部・コロナ・ブックス編集部(編)『沖縄のうまいもの。』平凡社、2000年6月、ISBN 4582633803
- 棚原増美『ヘルシー沖縄料理 子どもと一緒に楽しくつくろう』沖縄出版、1996年11月、ISBN 4900668567
- 渡慶次富子(とけしとみこ)、吉本ナナ子『沖縄家庭料理入門 おいしさの秘密は「ティーアンラ」』[4]農山漁村文化協会、2000年3月、ISBN 4540993216
- 中村成子『沖縄元気料理』マガジンハウス、1996年9月、ISBN 4838707991
- 仲本玲子、小畑耕行(共著)『沖縄の食材・料理 長寿日本一を支える沖縄の食文化』プロジェクト首里実行委員会、2003年1月、ISBN 4809402967
- 夏梅美智子『沖縄野菜おかずレシピ 元気な島野菜たっぷり、沖縄のヘルシーごはん』双葉社、2004年5月、ISBN 4575476374
- 新島正子『琉球料理』新島料理学院、1971年4月、[10]
- 新島正子『琉球料理』(第3版)、琉球文教図書、1973年5月、[11]
- 新島正子『琉球料理及び食生活関係文献目録』(私家複製版)、[12]
- 新島正子『私の琉球料理』柴田書店、1983年3月、[13]
- 日出山みなみ『伝統の素材を生かす日出山みなみの新海菜料理 沖縄』料理新聞社、2003年3月、ISBN 4540022555
- 松本嘉代子『沖縄の行事料理』月刊沖縄社、1977年2月、[14]
- まぶい組(編)『波打つ心の沖縄そば 沖縄そばが食べたくなる本』[5]沖縄出版、1987年8月、[15]
- 安田ゆう子『沖縄琉球料理 身近な食材で伝統の味を 安田ゆう子料理の本』那覇出版社、1999年4月、ISBN 4890951202
- 吉村喜彦『食べる、飲む、聞く沖縄美味の島』光文社、2006年7月、ISBN 4334033636
- 山本彩香『てぃ-あんだ 山本彩香の琉球料理』沖縄タイムス社、1998年11月、ISBN 4871271323
- 渡口初美『琉球料理と御火の神様 ヒヌカンガナシー』[6]国際料理学院、1983年2月、[16]
- 渡口初美『琉球料理 その作り方と効用を徹底的に研究』国際料理学院、1978年5月、[17]
- 渡口初美『実用琉球料理』月刊沖縄社、1975年5月、[18]
[編集] 外部リンク
- あしたのもと AJINOMOTO: 沖縄料理特集
- Okinawa情報局: 沖縄料理まーさんレシピ[7]
- 沖縄タイムス: 沖縄の料理(執筆・山本彩香)
- 沖縄デジタルアーカイブ「Wonder沖縄」: 沖縄の食文化を探る てぃーあんだー [4](沖縄県が運営)
- ごーやーどっとネット: 沖縄料理レシピ
- 東京ふーどページ: 沖縄料理の店
- マイタウン沖縄 asahi.com: 沖縄の食卓(執筆・山本彩香)
[編集] 脚注
- ↑ 沖縄県サイト: 沖縄の食文化 [1]
沖縄デジタルアーカイブ「Wonder沖縄」: 沖縄の食習慣は医食同源の心なり [2](全二ページ) - ↑ 「アンマー」は「お母さん」を意味する沖縄方言。「アンマーの味」は「おふくろの味」。沖縄大辞典: アンマー [3]
- ↑ 「ちゅら」(「美ら」「清ら」)は「美しい」を意味する沖縄方言。「ちゅらさん」参照
- ↑ 4.0 4.1 「てぃーあんら」「てぃーあんだー」は「手の脂」を意味する沖縄方言。「アンマーのおにぎりが美味しいのはティーアンダーがあるからだよ」(お母さんのおにぎりが美味しいのは手の脂があるからだよ)
しまグルメ - 沖縄グルメ辞典 : 沖縄 食のあれこれ: ティーアンダー [4] - ↑ 「まぶい」は「魂」「霊魂」を意味する沖縄方言。沖縄大百科: マブイ [5]
- ↑ 「ヒヌカンガナシー」は「火の神」(ヒヌカン)「様」(ガナシー)を意味する沖縄本島の方言 [6]
- ↑ 「まーさん」は「おいしい」、「デリーシャス」を意味する沖縄の方言