気象
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気象(きしょう)とは、気温・気圧の変化などの、大気の状態のこと。また、その結果現れる雨などの現象のこと。広い意味においては、小さな旋風から偏西風のような大気の大循環までを含む。ただし、大気内で起こる全ての現象が気象ではなく、流星やオーロラなどいくつか例外がある。
気象と似た言葉においては、その日、その時などの特定の地域の気象のことを、特に天気・天候という。
これらの気象とその仕組みを研究する学問が気象学である。また、これから起こるであろう気象の予測を行うことを気象予報や気象予測と言うが、一般的には天気予報の語が使われる。
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[編集] 気象の仕組み
地球上に起こるほとんど全ての気象現象は、太陽の活動に由来している。もしも太陽の活動が無ければ、地球へのエネルギーの供給が途絶えて、熱は宇宙空間に放出され続けて次第に寒冷化していく事になる。この太陽活動によって供給される熱や光は、緯度や地面の状態、季節や時間などによって異なるため、大気の乱れが発生する。雨や風などの主要な気象現象は、この大気の乱れによって発生すると考えられている。気象学においてはこの乱れを擾乱(気象擾乱)とよび、「大気の定常状態からの乱れ」と定義している。
太陽放射(日照)など何らかの要因によってある場所が暖められたとする。すると地面や地面に近い大気が暖められ、体積が増えて上昇し、暖められた大気があった場所は気圧が下がる。これが典型的な擾乱である。気圧が下がると圧力勾配が生じて周囲から大気が集まり、その空気がもともとあった場所の気圧が下がり、さらに大気を集める。擾乱を引き起こす要因は無数にあるため、カオス理論で定義されるように科学的に予測できないような効果(この極端な例がバタフライ効果)をもたらし、連鎖を起こしたり周囲に影響を与えたりする。しかし、これに対して擾乱から定常状態に戻ろうとする働きも存在するため、最終的には乱れが元に戻ることになる。これら一連の過程で引き起こされる現象が気象である。
以上のように複雑な仕組みによって気象現象は発生するが、それぞれの現象の発生・経過・消滅はおおむね物理学における原則(例:気圧傾度力、熱力学第二法則など)に従っている。この原則を基に気象現象の仕組みを解明するが学問が気象学である。
ほとんどの気象現象は地上から6km~11km付近までの対流圏内で起こる。対流圏内ではハドレー循環、フェレル循環、極循環という3つに代表される大規模な大気の循環が起こっている。しかし、より高い成層圏の下層では非常に速い西風の循環があり、そのほかの大気圏内でも「気象」と呼べる現象がいくつかある。
[編集] 気象に影響を与えるもの
非常に多くの要因が相互に作用して気象現象が発生するが、ここでは主要なものを挙げる。
- 天体・天文学的要因
- 軌道要素と呼ばれる、地球の自転軸・公転などの状態。地球は約23.4°の赤道傾斜角があるため、太陽高度が変化して季節が生まれる。また、ミランコビッチ・サイクルのような赤道傾斜角の数万年単位での変化もある。
- 地球が球体であること。地球はほぼ球体をしているため、緯度によって太陽高度が異なる。北極や南極に近いほど太陽高度は低いため気温も低く、赤道に近いほど太陽高度は高いため気温は高い。
- 地表の状態
- 光や熱の反射率(アルベド)。地表の状態によってアルベドが異なるため、同じ量の太陽エネルギーから受けるエネルギーが異なる。アルベドが低いほど熱や光の吸収が多いため気温が高い。アルベドが低い順に、水(海面や湖面)、森林、草原、サバナ、乾燥土、砂漠、氷(氷床)、雪などがある。同じ土壌であっても、湿っているものはアルベドが低い。
- 大気の状態(2次的要因)
- 大気の状態は、前述の2種類の要因によって発生する2次的な要因である。
- 光や熱の反射率(アルベド)。大気の状態によってアルベドが異なるため、同じ量の太陽エネルギーから受けるエネルギーが異なる。前述と同じくアルベドが低い順に、雲がない状態(快晴)、層雲、高層雲、層積雲などがある。雲の厚さと密度が小さいほどアルベドが低い。また
- 温室効果。大気の成分によって温室効果係数が異なるため、宇宙空間に放出されるエネルギーの量が異なる。六フッ化硫黄や亜酸化窒素は温室効果係数が高いほか、地球に豊富に存在し得る二酸化炭素やメタンの量も温室効果を大きく左右する。温室効果が大きいほど気温は高い。
- 日傘効果。火山灰や砂ぼこりなどの浮遊粉塵が多いほど日傘効果が高まるため、同じ量の太陽エネルギーの反射率が大きく気温が低い。
- 気団と呼ばれる空気の塊。温度や湿度が異なる気団があり、どの気団に覆われているかによって地上の気象が異なる。気団の境界面には前線や低気圧が発生しやすい。
[編集] 気象と地球・人類
[編集] 気象がもたらすもの
雨が岩石を浸食したり、風化を促進するなど、気象が自然の地形にもたらす効果は、地殻変動や海洋による効果と並んで大きなものである。
[編集] 気象と人類
気象が人類の歴史において大きな役割を果たした例もある。1281年の弘安の役において神風と呼ばれる嵐が元軍の撤退に拍車をかけたことは日本では広く知られている。グリーンランドでバイキングの植民地が全滅した小氷期、冷害や大雨により発生した天明の大飢饉、高潮と大雨によってニューオーリンズが水没したハリケーン・カトリーナなど、異常気象と呼ばれるような災害も歴史上で多く発生している。
[編集] 気象の予測
- 詳細は天気予報を参照。
人間活動において、気象は生活に深く関わるため、天気予報と呼ばれる気象の予測は太古の昔から行われてきた。観天望気と呼ばれるような、自然現象などから気象を予測することは最も古くから行われている気象予測である。「朝焼けがあれば雨が降る」などの地域に根付いた伝承はその予報のために考え出された法則だといえる。長い間観天望気による予測が行われたが、物理学などの諸科学の発展により、ヨーロッパにおいては中世ごろから気象現象を科学的に解明することが始まった。19世紀に電報が発明されてから遠距離間で気象情報を伝達できるようになったことをきっかけに、本格的な科学的予測が始まった。20世紀初頭に数値予報と呼ばれる気象観測結果を基にした計算法が考え出され、1970年代の高性能コンピュータの普及によって大量計算が可能になってからは大きく科学的予測が発展した。
[編集] 気象の制御
近年、科学の力によって人工的に雨を降らせたり、台風(熱帯低気圧)を弱らせたりといった気象制御の試みがいくつか実行された。しかし、現在の技術ではいずれも明確な成功には至っておらず、技術が発展した未来でなければ制御は不可能だとされている。
サイエンス・フィクションの世界では、火星などの惑星をテラフォーミングして人間が生活できる環境を作るという話もあるが、これも遠い未来の技術でしか不可能だとされる。
[編集] さまざまな気象
[編集] 大気の状態
[編集] 気圧配置
[編集] 気象要素
- 天気 - 地上から見た大気の状態
- 気圧 - 大気の圧力
- 地上気圧(現地気圧)
- 海上気圧
- 上空気圧
- 気温 - 大気の温度
- 湿度 - 大気中の水蒸気量
- 風 - 気圧差によって起こる大気の流れ
- 降水 - さまざまな形で降る水
- 視程 - 大気の見通しの程度
- 最小視程
- 卓越視程
観測値
[編集] 気象現象
[編集] 天気
[編集] 降水現象
[編集] 凝結現象
[編集] 視程障害現象
霧、靄、煙霧、地霧、氷霧、スモッグ、黄砂、しぶき、地吹雪、風塵、異常透明(異常視程)
[編集] 風
[編集] 雲
[編集] 大気光学現象
虹、暈、光冠、幻日、彩雲、グローリー、環天頂弧、太陽柱、幻日環、蜃気楼
[編集] 季節現象
[編集] 異常気象
[編集] 気候
詳細は気候を参照。 地上から見た気象やその他の自然現象の特徴や傾向のことを気候と呼ぶ。気象が主に現象や状態を視点としたものであるのに対して、気候はある地域での現象や状態の傾向である。地域によりさまざまな気候があり、気候の区分としてはケッペンの気候区分が広く使われる。
[編集] 地球以外の気象
地球以外の天体でも、大気がある天体には気象現象が発生する。
土星の衛星であるタイタンは窒素とメタンの大気からなり、メタンの雨らしきものが降っていることがカッシーニの探査から分かっている。また、金星は二酸化硫黄の雲から硫酸の雨が降り、上空では秒速100mもの風が吹いていることが分かっている。火星の極地では大規模な二酸化炭素の昇華によって時速400kmもの風が吹いていることも分かっている。
木星では、大赤斑と呼ばれる高気圧の渦があり、長期的に安定して存在する大気の循環によってできたのではないかと考えられている。これに対して海王星では大暗斑と呼ばれるものがあるが、こちらは短期間で消滅するものしか観測されていない。
[編集] 外部リンク
- NASA Goddard Space Flight CenterWEATHER FORECASTERS MAY LOOK SKY-HIGH FOR ANSWERS成層圏の気象について
- 気象庁気象等の知識
- WEATHER PREDICTION . COM気象の仕組みと気象予測について
- イギリス気象庁National Meteorological Library and Archive気象学関連のライブラリとアーカイブ