性別
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性別(せいべつ)は、生命体の生殖特性を指す。一般的な種類として、「雄」(オス)、「雌」(メス)がある。人間を指すときは、特に「女性」、「男性」などと称する。両方の性別を総称して両性と言い表す。
動物の多くは性別を持つ。植物にも性別を持つものがあることが確認されている。
人間の場合は、生物としての性別を核としながら、精神的・文化的に、あるいは社会的な立場としても異なったものとして成長する。この意味での性の別を生物学的なそれとは区別してジェンダーと呼ぶこともある。なお生物的な性と社会的な性別が反転しているケースが、性別不快症候群や性同一性障害である。
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[編集] 生物学的性別
配偶子が異形である場合、大きい方の配偶子を雌性、小さい方の配偶子を雄性という。そして、ある個体が雄性の配偶子のみを作る場合を雄、雌性配偶子のみを作る個体を雌という。そして、その生物の個体が雄性と雌性に分かれる場合に、この状態を「性別がある」という。ヒトの場合、男性は精子のみを形成するから雄であり、女性は卵だけを形成するから雌である。動物の多くはこれとほぼ同じだが、カタツムリなど一部の動物には同一個体が卵と精子を形成する雌雄同体がある。
植物でも同じである。種子植物の場合、便宜的に雄蘂と雌蘂をもって雌雄の配偶子嚢のように見なす。多くの花は同一の花に両方を持つ。それらを別の花につけるものがあり、それぞれ雄花と雌花という。この、雄花と雌花を別の株につけるものが雌雄異株で、その場合は個体に性別がある。
[編集] 人間の性別分化
人間の性別は、根本的には男性化を促す遺伝子の有無に由来し、受精の瞬間にほぼ決定される。
胎児の状態では、遺伝的性別に関係なくその外見は男性の外性器が未発達である事から女性のそれに近い。これをもって、女性こそ人間の本質であると唱える説がある(一時は女性の地位向上の理由とされた)が、科学的根拠に欠ける。なぜなら、男性の精巣・女性の卵巣などの生殖器官はもともと同じ細胞群から分化した相同器官であり、胎児の一段階においてはこれらの細胞群が未分化状態であるため、一見すると男児も女児と同じように見えるということにすぎないからである。男性に乳首があり、女性に陰核があるように、両性は本来その性に必要のない異性の特徴を備えているのである。
ここでは主に性別分化の発達機序を追いながら説明し、非典型例についても触れることとする。
[編集] 染色体
人間の23対の染色体のうちの1対は性染色体と呼ばれ他の常染色体とは区別される。
この性染色体の型(X染色体とY染色体の組み合わせ)によって、性別発達の機序は大きく左右される。 これは、Y染色体の上に、女性化を抑制し男性化を促すきっかけとなるSRY遺伝子が載っているためである。
[編集] 典型例
性染色体の型としては、次の2つが典型的である。
- XX型
- 性染色体としてX染色体を2つ有する。通常、女性として発育する。
- XY型
- X染色体とY染色体をそれぞれ1つずつ有する。通常、男性として発育する。
[編集] 非典型例・異常例
非典型的な例として、次のようなものがある。これらの多くは、精子・卵子の生産時に減数分裂に失敗したことによる。染色体異常も参照。
- XO型(ターナー症候群、ターナー女性)
- 性染色体としてはX染色体を1つだけ持つ。まれに破損したY染色体のかけらを持っていることもある。発生率は2000人~3000人に1人である。
- 発現形質は女性であり、外性器に形成変異はない。
- 全体に低身長であり、月経不順などがあることもある。腫瘍・糖尿病の危険性が高い。
- XXX型
- X染色体を3つ持つ。発現形質は女性。多くは異常はない。
- XXY、XXXY、XXXXY型(クラインフェルター症候群、クラインフェルター男性)
- 過剰なX染色体を持っている。発生率は1000人に1人。
- 多くは発現形質は男性であり、外性器はほぼ正常な男性に見える。無精子症のため不妊。思春期に乳房が発達することもある。
- 骨粗鬆症になりやすく、女性の更年期障害に似た症状を呈することもある。
- XYY、XYYY、XYYYY型
- Y染色体が過剰である。発生率は1000人に1人。
- 外性器は完全に男性であり、生殖能力もある。XY型男性に比べて精子が少ないという説もある。
- XXYY型
- クラインフェルターの一種とも、スーパー男性の一種とも言われる。
- XX型男性
- 性染色体はXX型であるが、変異したY染色体のかけらが他の染色体に結合し、その上のSRY遺伝子が働いている。発生率は数十万~数百万人に1人と見積もられている。
- 外性器はほぼ男性であるが、尿道下裂が見られることもある。生殖能力はない。
- 思春期には女性としての二次性徴をすることもある。性ホルモン投与により男性化を促さなければ、次第に女性化していく。
- カルマン症候群
- X染色体の一部が欠損している。嗅覚に異常が見られる。
- モザイク型
- 通常、個体の全ての細胞は全く同一の遺伝子セットを持っているが、まれに細胞ごとに異なっている場合がある。これが性染色体に関して発生すると、XO/XY混在型, XO/XX混在型などとなる。
- クラインフェルター男性のうちの特殊なものとしてXY/XXY混在型があるが、彼らは精子を生産することができ、生殖能力を有する。
- 3種類以上の性染色体型が混在している場合もある。
- 極めてまれであり、その状況も多様であるため、発生率は10億人~100億人と推定されている。
なお、X染色体は生命維持に必須であるため、YO型(Y染色体1つのみを持つ)の個体は出生されず流産となる。
また、上ではSRY遺伝子を重視して述べたが、Y染色体上の他のいくつかの遺伝子も男性化の引き金として重要だという説もある。
[編集] 性腺
妊娠第4週ほどに卵黄嚢に発生した原始生殖細胞は、第6週には下腹部の生殖隆起に移動して原始生殖腺を形作る。この時点では原始生殖腺は精巣にも卵巣にもなりうる。
第7週になって、SRY遺伝子が存在して正常に機能する場合には性腺原器は精巣に分化する。
同遺伝子が存在しなかったり正常に機能できないために精巣への分化が起こらないままであると、第11週以降卵巣に分化していく。
この際、多数の因子とその受容体が作用しているので、何らかの障害により精巣決定性遺伝子の有無と性腺分化が食い違うこともある。上に挙げたような染色体変異により、精巣と卵巣の中間的な形に分化したり、2つの原始生殖腺のうち一方は精巣に他方は卵巣にと分化することもある。
[編集] 化学物質生産
精巣が形成されると、その中のライディヒ間細胞は活発にテストステロンを生産し、セルトリー細胞はミューラー管抑制因子を生産する。
卵巣は、エストラジオールなどを生産する。
[編集] 生殖細胞
原始生殖腺が精巣に分化した場合、原始生殖細胞は思春期まで休眠する。 思春期になると、これらは活発に分裂を始めて精子を生産する。
卵巣に分化した場合、妊娠第3ヶ月から7ヶ月にかけて原始生殖細胞は減数分裂を始め、一次卵母細胞が作られていく。ここから9ヶ月までの間に原始卵胞が形成され、原始卵胞は思春期まで休眠する。
思春期までに99.9%の原始卵胞は卵胞閉鎖する。残ったもののうち、いくつかが月経周期ごとに何らかの機構によって選択され成長し、その内の1つがグラーフ卵胞へと成長して排卵を起こす。
この機構が卵巣や脳下垂体の間のフィードバックによって調整される種種の化学物質に支配されていることは知られているが、詳細な機構は不明な点が多い。
[編集] 生殖管
性腺形成と平行して、中腎管(ウォルフ管)に沿った形で中腎傍管(ミュラー管)が形成される。妊娠第7週以降、性腺の分泌する物質に依存してこれらの管が生殖管に分化していく。
典型例は次の2つである。
- 性腺が完全に男性型(精巣)である場合
- テストステロンによってウォルフ管は発達を促され、精巣上体・輸精管・精嚢に分化する。
- また、ミュラー管抑制因子によってミュラー管は退化・消失する。ただし、一部は精巣輸出管となり、ウォルフ管に開口する。
- 性腺が男性型でない場合
- テストステロンが十分でないことによりウォルフ管は退化・消失する。また、ミュラー管抑制因子が存在しないので、ミュラー管は発達し子宮・輸卵管に分化する。
- このことから、女性の内性器分化に卵巣は直接的には必要でない。
非典型例としては次のような場合もある。
- 遺伝子変異により、上記のような両性の生殖管発達が混在したり、不完全になる場合もある。
- 精巣を有するがミュラー管抑制因子が十分でなかったり、あるいは抑制因子の受容体が不全である場合には、ウォルフ管・ミュラー管の両方が発達し、両性の内性器を併せ持つ場合もある。
- 外部からの化学物質の影響により、生殖管が性腺とは異なった形に分化する場合もある。流産防止のための母親へのホルモン投与などが影響するという説もある。
[編集] 外性器
外性器の分化はテストステロンの有無に従う。原始生殖腺が精巣に分化してテストステロンを生産している場合には男性型に、そうでない場合には女性型に分化する。
- テストステロンのある場合
- テストステロンは酵素によって還元されジヒドロステロンとなる。それに曝露された外性器は第10週から第12週にかけて男性型に分化する。
- 生殖結節は急速に発達して亀頭・陰茎となり、生殖隆起は癒合して陰嚢に、尿道ヒダは尿道海綿体となる。陰嚢表面に見られる縫い目状の構造はこの癒合の痕跡である。
- ない場合
- ジヒドロステロン曝露が起こらないまま第20週になると、これらは自然に女性外性器へ変化する。生殖結節は僅かに発達して陰核に分化、生殖隆起は大陰唇、尿道ヒダは小陰唇をとなる。
- また、尿生殖洞の上皮がミュラー管由来の子宮管と結びついて増殖、内部に空洞を生じて膣が形成される。
- これより、女性外性器の形成に卵巣は必要でない。
非典型的な例としては、次のようなものがある。
- 染色体異常
- 染色体異常により、生殖結節が活発に増殖する一方で生殖隆起の癒合は十分に起こらない場合がある。外見上男女両方の外性器を有するように見える。
- 性染色体はXX型であることが多いがXX/XYモザイク型の場合もある。
- 膣の形成は十分でないことが多い。
- 真性半陰陽
- 真性半陰陽では、その性器の状態は人それぞれであり、またその要因は未だ解明されていない。人体に2つある性腺のどちらか一方が睾丸、もう一方が卵巣である場合と、睾丸または卵巣が左右揃い、さらにそれらとは逆の第三の性腺を持つ場合とがあるとされる。
- 染色体構造は46,XXについで46,XYが多く、46,XX/46,XYモザイクも多い 男性型では尿道下裂、女性型では陰核肥大、陰唇癒合
- 性腺異形成症:外陰部は女性型となる。
- 混合性性腺異形成症:染色体分析で45,XO/46,XYなどのモザイクを示す外性器が男女中間型を示す
- 女性仮性半陰陽
- 性腺が卵巣に分化した場合であっても、先天性副腎皮質過形成などによってテストステロンが過剰に分泌され、結果として外性器が男性化する場合がある。
- 陰核がやや肥大する程度のものから、外性器が完全に男性型になるものまで多様である。
- 尿道下裂がみられる場合も多い。
- 男性仮性半陰陽
- 性腺が精巣に分化した場合であっても、テストステロンを還元する酵素が欠けていたり、受容体が十分でない場合には外性器の男性化は発生しない(精巣性女性化症候群)。そのまま第20週になると、外性器は女性型に分化する。その他、遺伝子変異により生じる場合もある。
- 還元酵素の遺伝子はX染色体上にあるため劣性遺伝である。
- 陰核の肥大が見られることもあるが、外見上はほぼ女性型である場合も多い。ただし膣は奥行きが十分でないこともある。また二次成長期になっても陰毛は生じない。
- 通常はミュラー管の退化は起こっており、子宮・卵管は持たない。
- 精巣は、子宮にあたる部位にある場合と、脚の付け根付近まで降りてきている場合がある。
- 卵巣や子宮を持たないため、無月経。
- 男性仮性半陰陽(不完全型)
- 男性半陰陽のうち、思春期になると男性化を生ずるものがある。出生時には男性とみなされることもあるが、多くは女性として扱われる。
- 思春期に精巣のテストステロン生産が活発化することによって陰核が急速に発達して陰茎のようになり、変声・髭の発毛が起こる。このため、見掛け上は女児が男性に変わったように見える。
- このケースの発生率は民族による差異が大きく、日本人では殆ど見られない。1954年にインドネシアで発見されたほか、1980年代にカリブ海の島で多数発見された。
- カリブの例では全員がある1人の人物の子孫であったことから、何らかの遺伝的な要因があるものと考えられている。
[編集] 脳
脳にも性差が存在する。脳の性分化を決定するのはアンドロゲンである。脳科学の研究成果によると、男児は生まれた直後の2日目ぐらいから生後6ヶ月ぐらいまでの間、成人の半分ぐらい量のアンドロゲンが分泌され、またテストステロン受容体の脳内での分布上の性差がエストロゲンと同じく、海馬・扁桃体内側核・腹内側核等などに見られることが明らかになっている。さらには男性の脳は女性の脳に比べて約12~3%大きい。
[編集] 二次性徴
乳児期以降では視床下部のネガティブフィードバックにより性ホルモンの分泌が抑制されているが、思春期になるとこの抑制能が低下し始め、これにより男女それぞれに特徴的な身体の発達を生じる。
典型例としては次のものがある。
- 精巣を有する場合
-
- 精巣容量の増大
- 陰茎の発達
- 陰毛の発毛
- 精通
- 変声
- 卵巣を有する場合
-
- 骨盤の発達。皮下脂肪の増大。これにより、丸みを帯びた体格となる
- 乳房の発達
- 陰毛の発毛
- 月経の開始
非典型例としては前述の仮性半陰陽などの他、次のようなものがある。
- 思春期早発症
- 8歳以前に二次性徴を生ずるもの。脳腫瘍や生殖腺腫瘍が原因の場合もあるので注意が必要である。
- 思春期遅発症
- 思春期を過ぎても二次性徴を生じないもの。ターナー症候群・クラインフェルター症候群によるもの、腫瘍が原因のもの、他がある。
[編集] 性指向
性指向は男性を好きになるか、女性を好きになるかの別である。「好きになる」は「恋愛感情を抱く」「同棲したいと思う」「性交したいと思う」などの感情であるが、そのレベルは人によって様々である。単に「性交したい」だけの人もいる。
一般的には、男性は女性を好きになり、女性は男性を好きになる事が多いが、男性で男性を好きになる人、女性で女性を好きになる人もおり、古くから同性愛(homosexual)と呼ばれて来ており、これに対して男性が女性を好きになる場合・女性が男性を好きになる場合は異性愛(heterosexual)と呼んで区別する。日本では男性が男性を好きになるケースをホモ、女性が女性を好きになるケースをレズと俗に呼んでいたが、この言葉はいづれも差別的であるとして避けられる傾向もある。特に最近女性の同性愛者達は自分たちの性指向をビアンと呼んでいる。同性愛の気がない人をノンケと言う(non+気、で日本語)。アメリカでは男女区別せずにゲイと呼ぶ。一般的に身体的特徴と社会的な性自認が一致している者が、自分と異なる性の者を愛する事をヘテロと言う。
なお世の中には男性でも女性でも好きになる人も多く両性愛(bisexual)と呼ばれている。両性愛の人の中にも男女等しく愛するタイプと、どちらかというと異性愛だが、同性でも魅力的な人がいれば好きになるというタイプもあり、その程度は様々である。また、自分では異性愛と思っている人も実際に機会が無かっただけで、両性愛の素質がある場合も多いのではないか、という説もある。
基本的には異性愛である者が異性を得られない環境下(戦場や刑務所、同性のみの学生寮など)で同性を恋愛とセックスの対象に選択する場合は機会的同性愛と言う、この場合除隊、釈放、卒業などにより、異性を得られる環境が回復すれば、直ちにこの同性愛傾向は消滅する。つまり、機会的同性愛は根源的な性的指向自体によるものではなく、環境において一時的に形成される性的嗜好と見なす事が出来る。
そもそも性別が曖昧な人を好きになる場合(手術前のニューハーフが好きという男性など)もあるが、これは「性指向」としての同性愛とは微妙に異なるかも知れない。
また男性および女性のどちらをも性愛の対象としない人、もしくは性的欲求そのものがない人、およびその性的指向は無性愛(asexuality)と呼ばれている。無性愛の人の中には性的欲求は無く、恋愛感情も無いタイプと、特定の人に対して恋愛感情を抱くことはあるが、それは性的欲求に基づくものではなく、また性的関係を求めないタイプもあり、その程度は様々である。後者は特定の人を彼女・彼氏とするが、性行為(人によっては身体的接触なども含む)は望まないか拒絶する。
なお性指向と次項の性自認は独立のものなので注意したい。詳しくは次項参照。
[編集] 性自認
性自認は自分の(心の)性別を男性と考えているか女性と考えているかの別。普通は生物的な性(出生時の性)と一致することが多いが、一致しないケースが性同一性障害(Gender Identity Disorder,略してGID)である。
「障害」とまで行かなくても自分の生物的性を不快に感じている人たちもおり「性別不快症候群」と呼ばれる。この状態から性同一性障害の段階まで進行する場合も多い。また「男性」「女性」ではなく「中性」「無性」や男女のいずれとも異なる第3の性の状態でありたいという人も少なくない。
現代の日本では多くの人は生まれた時に性器の外観で性別を判定されてそれで戸籍に記載され、その性に合わせて育てられるが、しばしば物心付く頃から自分の性が反対のものであったら良かったのにと思ったり、自分の本来の性は反対のものであると確信していたりする人がいる。この人たちはやがて親の目を盗んで時々異性の服を身につけたりするようになり(異性装)、やがてひとり暮らしするようになるとプライベートでは完全に異性の姿で過ごすようになったりする。しかし社会的には出生時の性で生きることを強要されるため、そこに強いストレスが生じて劇的な変化を求めていく人たちも多い。
現代では性自認と性指向は区別されて考えられるが、昔は混同していた人たちも多かった。出生的に男性である人が性自認は女性である場合に、昔は多くの人が、それなら性指向としては男性を好きになるのであろうと考えていたようであるが、実際には女性しか好きになれないという人もけっして少なくはない。もちろん、性自認が男性で出生が女性である人の性的指向が男性に向いているケースも多い。
ことばの上でも「ゲイ」は本来同性愛を意味するのに、日本で「ゲイボーイ」というと酒場で女装して給仕をする人のことを指すのが普通であるし、また「おかま」という言葉(この言葉は差別的なので使用しない事が望ましい)も女装者の意味で使用したり男性の同性間性交の意味で使用したりして、やはり言葉の混乱が生じている。
そもそも出生的な性、性指向、性自認は「連動しやすい」ものではあるが「完全に連動する」ものではないのである。条件を「出生の性と性自認はそれぞれ独立しており男、女いずれかである」「性指向は男、女どちらか一方を持つ」「性嗜好を考慮に入れない」とすれば下記の8種類のパターンが存在すると考えられるが実際にはこれ以外にも様々なバリエーションがあって状況は複雑である。(出生の性-半陰陽 性自認-中性、無性、第3の性 性指向-両性愛、無性愛 性嗜好-機会的同性愛、手術前のニューハーフが好き)
出生の性 | 性自認 | 性指向 | 概要 |
---|---|---|---|
男 | 男 | 男が好き | 男性同性愛 |
男 | 男 | 女が好き | 一般的な男性 |
男 | 女 | 男が好き | MTFで異性愛 |
男 | 女 | 女が好き | MTFで女性同性愛 |
女 | 男 | 男が好き | FTMで男性同性愛 |
女 | 男 | 女が好き | FTMで異性愛 |
女 | 女 | 男が好き | 一般的な女性 |
女 | 女 | 女が好き | 女性同性愛 |
[編集] ジェンダーパターン
「社会表現上の性」である。その性別の人が社会で生きていく時に使用する生活様式であり、その性別の人ならこうするのが普通であると期待され、またしばしば強要される様式。具体的にはたとえば下記のようなものがある。(自称・語尾は首都圏方言のもの。日本語の方言には性差がもともとほとんどなかったものもある。)
観点 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
服装 | ワイシャツにネクタイ、背広にズボン | ブラウスにスカート、ジャケット、又はワンピース |
ボトム | ズボンしか穿かない | スカートが基本だが、カジュアルな場面ではズボンでもよい。 |
下着 | シャツとブリーフ又はトランクス | ブラジャー、キャミソールまたはスリップ、ショーツ、ガードル、パンスト |
化粧 | しない | する |
頭髪 | 短くする | 極端に短くはしない |
性格 | 強くなければならない | 優しくなければならない |
態度 | しゃっきっとした態度 | 柔らかい態度 |
自称 | ぼく・おれ・わし | わたし・あたし・うち |
語尾 | ~だな。~だぜ。 | ~わね。~だわ。 |
こういった文化には歴史的・生物学的根拠がないわけではない。例えば、男性がズボンをはくのは馬に乗り戦をする際、生殖器を守るためであった。近年のジェンダーフリー思想から派生した思想は、こういった違いは無くしていくべきであるとする。一方で、それに反対する声もある(ジェンダーフリーは性別にこだわらない選択を認める考えであり、これはどちらかというとジェンダーレス思想に分類される)。
頭髪などもベリーショートの髪型を選択する女性などまで出てきている一方で、比較的服装その他に緩やかな職種では長髪の男性も出てきており、垣根は次第に低くなりつつある。会社員は「身だしなみ」として男性はスーツにネクタイの着用、女性は化粧をすることを事実上強制される傾向が強いが、男性でもコロン程度は使う人も少なくないし、営業系の仕事の人や政治家が軽いメイクをするケースなどもあり、また若い男性たちの間でも眉を整えている人は多く、これも少しずつ垣根は低くなっている。
服装でもユニセックスな服装は増えてきており、多く場合で女性が「男性的な服装」を着る事は許されている。一方、「女性的な服装」であるスカートや下着を男性が着る事はあまり認知されていない。男性のスカート姿は、美形の男性歌手のステージ衣装などを除けば、前衛的なファッションが許容される一部の街角や業界(ファッション業界や美容業界等)でしか見ることは少ない。そのため逆に「スカートを穿いて外出できるようになる」ということがMtFの性同一性障害の人にとってひとつの大きな心理的なステップともなっている。
近年の日本では、TPOに応じて、男女とも柔らかな態度で、はっきりした表現をするのが好ましいとされる。女性語としての語尾表現は失われ、男女とも「〜だね」「〜だよ」といった語尾を使うようになっているが、男性語を好んで使う男性や、話し方で女性らしさをアピールする女性も存在する。
[編集] ジェンダーロール
いわゆる「社会的な性別」で、「性役割」とも訳される。
男性は会社などに勤めて仕事をして収入を得て、女性は家庭で子育てと家事をするなどというのが基本的な思想で、又、職場でも男性がすべき仕事、女性がすべき仕事が分けられている会社は多い。又、社会的にこういう作業は男性がする、女性がすると分けられているものは多い。
ただこのような基準は地域的または歴史的に見ると随分ぶれがある。例えば日常の食料品の買物は日本などでは女性の役割と考えられがちだが、アラブ地域では男性が財布を握っているため、男性の役割になっている。
そもそも西洋では騎士文化の流れから男性は家庭の外で、女性は家庭の中でという考え方が強かったが、近代に入ってからの大規模な戦争の連続で職場の人手不足から女性の社会進出が推進された経緯があり、そこからフェミニズムの運動が起きて、社会通念上の性役割はかなり垣根を取り払われてきた。
日本では教師・看護師・電話交換手・事務員といった限られた職種から女性の社会進出(労働者化)が始まった。1980年代以降は女性が医師・パイロット・電車の車掌など男性向きと考えられた職業に進出してきている。しかし、日本では会社の中の役職者や幹部における女性の比率、国会議員の女性比率(女性政治家)が西洋諸国などと比べると格段に低い。
世界各国の男女差別の度合いを指標化した世界経済フォーラムの「男女格差報告」によると、格差が最も少ないのは北欧諸国の国々で、日本は途上国並みのレベルだった。これは日本女性が仕事に就いている割合や、また国政への参加率が低いといった実態を反映している。
しかし、最近では管理職として雇用される女性は増加している。結婚したら女性は家庭を中心に暮らすという考え方は若い世代ほど希薄になっている。若い男性の場合はこういう伝統的性別役割分担にこだわらない男性と、逆に保守的に女性の社会進出を認めない男性とがいる。しかし不況の長期化もあって、全体としては下の世代になるほど女性にも仕事をしてお金を稼ぐことを求める人が増えている。
また一方で、男性ではこれまで女性の仕事とされてきた保育士・事務員などの職業を志す人もおり、主夫(女性でいう主婦に相当する)となる人も近年は散見されるが、未だ有配偶男性の0.1%未満に留まるため、これらはさほど認知されておらず社会的対応が充分ではないケースも多い。
[編集] 参考文献
- セクシュアルマイノリティ, セクシュアルマイノリティ教職員ネットワーク, ISBN:4-7503-1695-4
- 後期発生学講義ノート, 寺島俊雄, 2003