強迫性障害
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強迫性障害(きょうはくせいしょうがい、Obsessive-Compulsive Disorder、OCD)は、精神障害のひとつ。従来、強迫神経症と呼ばれていたもの。
アメリカの精神医学会によって策定されたDSM-IV(『精神失調の診断と統計の手引き』第4版)における精神の失調のひとつの分類であり、強迫症状と呼ばれる症状に特徴付けられる不安障害である。
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[編集] 強迫症状
強迫症状とは強迫性障害の症状で、強迫観念と強迫行為からなる。両方が存在しない場合は強迫性障害とは診断されない。強迫症状はストレスにより悪化する傾向にある。
強迫観念(きょうはくかんねん)とは、本人の意志と無関係に頭に浮かぶ、不快感や不安感を生じさせる観念を指す。強迫観念の内容の多くは普通の人にも見られるものだが、普通の人がそれを大して気にせずにいられるのに対し、強迫性障害の患者の場合は、これが強く感じられたり長く続くために強い苦痛を感じている。
強迫行為(きょうはくこうい)とは、不快な存在である強迫観念を打ち消したり、振り払うための行為で、強迫観念同様に不合理なものだが、それをやめると不安や不快感が伴うためになかなか止めることができない。その行動は患者や場合によって異なるが、いくつかに分類が可能で、周囲から見て全く理解不能な行動でも、患者自身には何らかの意味付けが生じている場合が多い。
大半の患者は自らの強迫症状が奇異であったり、不条理であるという自覚を持っているため、思い悩んだり、恥の意識を持っている場合が多い。また、強迫観念の内容によっては罪の意識を感じていることもある。そのため、自分だけの秘密として家族に内緒で強迫行為を行ったり、理不尽な理由をつけて誤魔化そうとすることがある。逆に自身で処理しきれない不安を払拭するために、家族に強迫行為を手伝わせようとする場合もある。これは巻き込みと呼ぶ(詳細後述)。
原則として強迫観念や強迫行動の対象は自身に向けられたものであり、これによって患者が非社会的になっても、反社会的行動に結びつくことはない。
[編集] 一般的な強迫症状
強迫症状の内容には個人差があり、人間のありとあらゆる心配事が要因となり得る。しかし、比較的よく見られる症状があるため、これを下記に記す。これらの症状についても患者自身の対処(強迫行為)の内容は異なり、一人の患者が複数の強迫症状を持つことも一般的である。
- 洗浄強迫 - 手の汚れが気になり、手や体などを何度も洗わないと気がすまない。体の汚れが気になるためにシャワーや風呂に何度も入る等。
- 確認行為 - 確認強迫ともいう。外出や就寝の際に、家の鍵やガスの元栓、窓を閉めたかが気になり、何度も戻ってきては執拗に確認する。電化製品のスイッチを切ったか度を越して気にするなど。
- 加害恐怖 - 自分の不注意などによって他人に危害を加える事態を異常に恐れる。例えば、車の運転をしていて、気が付かないうちに人を轢いてしまったのではないかと不安に苛まれて確認に戻るなど。
- 縁起恐怖 - 縁起強迫ともいう。自分が宗教的、もしくは社会的に不道徳な行いをしてしまうのではないか、もしくは、してしまったのではないかと恐れるもの。信仰の対象に対して冒涜的な事を考えたり、行ってしまうのではないかと恐れ、恥や罪悪の意識を持つ。例えば、教会で不信心な事を考えてしまうのではないか、赤ん坊の首を締めるのではないか、などの恐怖。ある特定の行為を行わないと病気や不幸などの悪い事柄が起きるという強迫観念に苛まれる場合もあり、靴を履く時は右足から、などジンクスのような行動が極端になっているものも見られる。
- 不完全恐怖 - 不完全強迫ともいう。物を順序よく並べたり、対象性を保ったり、きちんとした位置に収めないと気がすまないもの。例えば、家具や机の上にある物が自分の定めた特定の形になっていないと不安になり、これを常に確認したり直そうとする等。物事を進めるにあたって、特定の順序を守らないと不安になったりするものもある。
- 保存強迫 - 自分が大切な物を誤って捨ててしまうのではないかという恐れから、不要品を家に貯めこんでしまうもの。
- 数唱強迫 - 不吉な数やこだわりの数があり、その数を避けたり、その回数をくり返したりしてしまう。数字の4は「死」を連想するため、日常生活でこの数字に関連する事柄を避ける、などの行為。
- この他、些細であったり、つまらない事柄、気にしても仕方の無い事柄を自他共に認める状態にあっても、これにとらわれ(強迫観念)、その苦痛を避けるために生活に支障が出るほど過度に確認や詮索を行う(強迫行為)。
[編集] 強迫症状に付随するもの
強迫性障害は強迫症状によって構成されるが、個人差により、以下のような状態が付随することもある。
- 回避
- 強迫観念や強迫行為は患者を疲弊させるため、患者は強迫症状を引き起こすような状況を避けようとして、生活の幅を狭めることがある。これを回避と呼ぶ。重症になると家に引きこもったり、ごく狭い範囲でしか生活しなくなることがある。回避は強迫行為同様に患者の社会生活を阻害し、仕事や学業を続けることを困難にしてしまう。
- 巻き込み
- 強迫行為が自分自身の行為で収まらず、家族や友人に懇願したり強要したりする場合がある。これを巻き込み、または巻き込み型という。これにより、患者のみならず周囲も強迫症状の対応に疲れきってしまうことがある。
巻き込みのように、周囲が患者の強迫行為を手伝うこと(患者にかわって何かを洗ったり、誤りがないか確認するなどの行為)は患者の病状を維持したり、かえって悪化させることが明らかになっているため、避けなければならない。ただ、これを急にやめることは患者にとって苦痛が大きく、一時的に症状が悪化する場合があるため、患者と治療者や家族が必要性を話し合った上で、段階的に巻き込みをやめていく必要がある。
[編集] 強迫性障害の特徴
人種や国籍、性別に関係無く発症する傾向にある。調査によると全人口の2%前後が強迫性障害であると推測されている。20歳前後の青年期に発症する場合が多いといわれるが、幼少期、壮年期に発症する場合もあるため、青年期特有の疾病とは言い切れない。また、動物ではネコなども発症し、毛繕いを繰り返したりする。
この病気の興味深い点として、社会が戦争などの混乱状態にある場合、強迫性障害の患者は減少するといわれる。また、修道院や軍隊など、規律に基づいた生活を行う場所でも同様の特徴が見られるという調査がある。これは社会不安や規則や危機的状況が、患者の強迫症状に対応する時間を削り、結果それに振り回されなくなるうちに正常な機能を回復するためと推測されている。治療法の一つである行動療法はこの推測に基づくものである。
脳疾患や解離性障害など、別の病気により強迫症状があらわれることがあるが、これは一般的には強迫性障害とは認められない。
こうした障害を持っている著名人としてデビッド・ベッカムらがいるように、日常生活に顕著な影響が出ない場合もある。
[編集] 強迫性障害の原因
強迫性障害は脳の機能障害が関連しており、前頭前野や帯状回など、複数の要因が関連して起きる。しかし、完全な原因はわかっていない。
患者の共通点として、元来几帳面であったり、融通が効かずに生真面目な性格傾向が挙げられる事も多い。これらの性格と病気の関係はよくわかっていないが、このためから過去、完全に心の働きのみが原因となって起きる(心因性という)神経症の一種に分類されてきた経緯がある。
しかし近年、患者の脳を観察すると、セロトニンなど脳内の神経伝達物質のバランスに異常が見られることがわかった。このため、強迫性障害は脳内部の化学的な働きの不具合によるものと、心理的な要因および体質などが関係して発症するのではないかと考えられるに至った。また双生児研究から、遺伝的な要因を指摘するものもある。
[編集] 強迫性障害の治療
行動療法や認知行動療法,抗欝剤を用いた薬物療法が有効である。行動療法ではエクスポージャーと儀式妨害を組み合わせた、Exposure and Ritual Prevention(ERP)が用いられる。
エクスポージャーとは,恐れている不安や不快感が発生する状況に自分を意図的にさらすもので,儀式妨害とは、不安や不快感が発生しても,それを低減するための強迫行為をとらせないという手法である。これらを患者の不安や不快の段階に応じて実施する。行動療法は単独でも用いることができるが,強迫観念が強い場合,薬物療法導入後に行動療法を行う方が成功体験が得られ易い。
薬物療法としてセロトニン系に作用する抗鬱剤は強迫観念を抑えることが知られており,現在わが国では3種類の薬剤(塩酸クロミプラミン,塩酸パロキセチン,マレイン酸フルボキサミン)が使われている。海外の報告では最高用量で単剤投与が望ましいとされているため,塩酸クロミプラミンでは225mg,塩酸パロキセチンでは60mg,マレイン酸フルボキサミンでは300mgまで増量する。主治医の理由書があれば保険適応となる。
[編集] 強迫スペクトラム障害
自閉症、アスペルガー症候群、チック、トゥレット障害、抜毛症、自傷行為、醜形恐怖、摂食障害、依存症などの疾患は強迫性障害と広義で関連があるとされており、強迫スペクトラム障害(OCSD)と呼ばれる場合がある。