建築士
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建築士(けんちくし)とは、建築士法(1950年(昭和25年)5月24日法律第202号)に拠って定められた国家資格。建物の設計、工事監理等を行う技術者であると定義されている。
年1回行われる建築士試験に合格し、管轄行政庁(国土交通大臣または都道府県知事)から免許を受け、名称を用いて設計、施工などの業務を行う者を言う。(小規模なものを除いて)建物の設計を行うには、建築士の資格を持っていなければならない。また、建物の規模によって、一級建築士でなければ設計できないもの、二級建築士・木造建築士が設計できるもの等と規定されている。
建築設計を行う者の中で、とくに作家性・作品性を持つ者を、建築家という。日本では一般に、受賞歴のある者や著名な作品を設計した者を特に建築家と呼び、ほとんどは一級建築士の有資格者である。しかし、自らは建物のコンセプトや空間デザインを手がけ、設計実務は建築士の資格を持つスタッフに任せる、というスタイルの「建築家」もごく例外的ではあるが、存在する。
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[編集] 資格の内容
建築士には、一級建築士、二級建築士、木造建築士の三種類がありその資格により設計監理できる建築物に違いがある。
[編集] 一級建築士
一級建築士は国土交通大臣の免許を受け、一級建築士の名称を用いて設計工事監理等の業務を行うものである。(建築士法2条2項)
- 一級建築士は次のような複雑・高度な技術を要する建築物を含むすべての施設の設計および工事監理を行うことができる。(建築士法3条)。
- 学校・病院・劇場・映画館・公会堂・集会場・百貨店の用途に供する建築物で延べ面積が500平方mを超えるもの
- 木造建築物または建築の部分で高さが13mまたは軒の高さが9mを超えるもの
- 鉄筋コンクリート造、鉄骨造、石造、れん瓦造、コンクリートブロック造もしくは無筋コンクリート造の建築物または建築の部分で、延べ面積が300m²、高さが13m、または軒の高さが9mを超えるもの
- 延べ面積が1000m²を超え且つ階数が二階以上のもの
[編集] 二級建築士
二級建築士は都道府県知事の免許を受けて二級建築士の名称を用いて設計工事監理等の業務を行うものである(建築士法2条3項)。具体的には、一定規模以下の木造の建築物、および鉄筋コンクリート造などの建築物の設計、工事監理に従事する。
- 二級建築士が設計・工事監理のできる限度範囲は以下のとおりである(当然ながら一級建築士も行うことができる)。
- 学校・病院・劇場・映画館・公会堂・集会場・百貨店などの公共建築物は延べ面積が500平方m未満のもの
- 木造建築物または建築の部分で高さが13mまたは軒の高さが9mを超えないもの
- 鉄筋コンクリート造、鉄骨造、石造、れん瓦造、コンクリートブロック造もしくは無筋コンクリート造の建築物または建築の部分で、延べ面積が30m²~300m²、高さが13mまたは軒の高さが9m以内のもの
- 延べ面積が100m²(木造の建築物にあっては、300m²)を超え、又は階数が3以上の建築物
(ただし、第3条の2第3項に都道府県の条例により規模を別に定めることもできるとする規定がある)。
- つまり、木造の住宅や、小規模な鉄筋コンクリート造などの建物(延べ面積300m²以内のもの)など(主に日常生活に最低限必要な建築物)の設計及び工事監理が可能である。
[編集] 木造建築士
木造建築士は都道府県知事の免許を受け、木造建築士の名称を用いて、木造の建築物に関し、設計、工事監理等の業務を行う者である。
木造の建築物で、延べ面積が100m²を超えるものを新築する場合においては、一級建築士、二級建築士又は木造建築士でなければ、その設計又は工事監理をしてはならない。 つまり、木造建築士は、木造建築物で延べ面積が300m²以内、かつ2階以下のものを設計・工事監理ができる。
[編集] 受験資格
専門教育を受けていない場合、二級建築士の受験資格を得るのでさえ7年以上の実務経験が必要であるが、専門教育を受けている場合はその程度に応じて必要な実務経験期間が短縮される。
[編集] 一級建築士の場合
試験では二級建築士の指導や法で定める設計・施工・工事監理に複雑高度な技術を要する建築に携わるのに必要な知識・技術があるか否かが問われる。
- 大学(新制・旧制)の建築または土木課程を卒業後、実務経験(大学院を含む)2年以上
- 3年制短期大学(夜間は除く)の建築または土木課程を卒業後、実務経験3年以上
- 2年制短期大学または高等専門学校(旧制専門学校を含む)の建築・土木課程卒業後実務経験4年以上
- 二級建築士取得後、実務経験4年以上
[編集] 二級建築士の場合
試験では個人住宅など日常生活に最低限必要な建築物の設計・施工・工事管理に必要な知識・技術があるか否かが問われる。
- 大学(旧制大学・短大を含む)又は高等専門学校(旧制専門学校を含む)の建築課程を卒業したもの
- 大学の土木課程卒業後、実務経験1年以上
- 高等学校(旧制中学校を含む)建築・土木課程卒業後実務経験3年以上
- 義務教育終了後、実務経験7年以上
[編集] 合格率
学歴や実務経験等で受験資格が制限されている(要するに素人・知識ゼロの者は受けられない。勿論この制度が良いかは別問題。それだけ建築士とは人の生命に携わる仕事だといえよう。)試験にも関わらず、一級建築士試験は合格率が低い。難関であるといえる。
- 一級建築士
- 2006年(平成18年) 学科合格率10.0% 製図合格率31.4% 総合合格率 7.4%
- 2005年(平成17年) 学科合格率25.0% 製図合格率30.3% 総合合格率11.1%
- 2004年(平成16年) 学科合格率25.2% 製図合格率33.5% 総合合格率10.5%
- 2003年(平成15年) 学科合格率14.5% 製図合格率40.3% 総合合格率 8.1%
- 2002年(平成14年) 学科合格率10.6% 製図合格率36.6% 総合合格率 6.4%
- 2001年(平成13年) 学科合格率12.7% 製図合格率33.0% 総合合格率 6.9%
- 二級建築士
- 2006年(平成18年) 学科合格率37.3% 製図合格率55.8% 総合合格率25.4%
- 2005年(平成17年) 学科合格率33.2% 製図合格率54.5% 総合合格率23.3%
- 木造建築士
- 2006年(平成18年) 学科合格率75.6% 製図合格率49.0% 総合合格率32.6%
- 2005年(平成17年) 学科合格率74.5% 製図合格率74.4% 総合合格率53.6%
[編集] 建築士の社会的責任
- 建築物は人々の社会活動や生活の場であり、風雨や災害、犯罪などから人命・財産を守ることが必要である。建築士はそうした要求に応えるとともに、施工業者が手抜きをしないようチェックする役割を持っている。施主の内情については守秘義務を持つなど、責任感や倫理観が求められる。2005年に発覚した建造物の構造計算書を偽造する事件は、建築士の社会的信用を傷つける事件であった。
- 建築士には構造物を利用する人々の人命を預かっているという自覚と強い倫理観、外部のよくない脅迫に屈しない態度が要求される。最近ではコストを重視する風潮から、顧客から「コストダウン」として鉄筋量を減らすことを要求されるなどの不当な要求に対しては、時には職を失う覚悟をしなければならないようにもなってきており、それらの要求に安易に従う建築士が建造物の構造計算書を偽造する事件も起こしており、建築士のみならず、建設業界全体に広がる背徳的な風潮も指摘されている。
[編集] 建築士が登場するテレビドラマ
- 阿部寛が建築家を演じた。
[編集] 豆知識
建築士第1号が田中角栄元首相である事はあまり知られていない事実である(法制定当時はクラス分けの規程はなかった)。また、一級取得者第1号とも言われているが、近年の建築士会会報「建築士」によって、一級建築士第1号は福島県在住の人物であると確認されている。
[編集] 外部リンク
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