原子力潜水艦
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原子力潜水艦(げんしりょくせんすいかん)、原潜(げんせん)とは動力に原子炉を使用する潜水艦のこと。欧米においては、atomic(原子力)に代わってnuclear power(核動力)という用語が使われており、近年では核動力潜水艦とも呼称される。
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[編集] 概要
原子力潜水艦とは、その名の通り推進動力に原子力を使用するものであり、原子炉を熱源として高温高圧の水蒸気を発生させ、この水蒸気で蒸気タービンを駆動することによって、スクリューを回し、推進力を得ている。原子炉の核燃料棒の交換は数年から十数年に一度でよいため、燃料切れの心配はまずなく、水中では蓄電池を動力とする在来動力の通常型潜水艦と異なり、潜航中でも動力の供給に制約が生じない。通常型潜水艦は、充電のために定期的に浅深度を航走してシュノーケルから酸素を取り入れ、内燃機関(ディーゼル・エンジン)で発電機を動かさなければならない。通常の潜水航行では充電したバッテリーとモーターしか使えないため、バッテリーを消耗すると潜水航行できなくなる(連続潜航時間の制約)。また、内燃機関の燃料が尽きればそれ以上の航海は不可能である(連続航海日数の制約)。一方、原子力潜水艦では、上記のような特徴から、これらの連続潜航時間および連続航海日数問題は生じず、これらの制約から原理的に自由になることが出来る。さらに、乗員に必要な酸素についても豊富な電力で海水を電気分解することにより、容易に作り出すことができるため、わざわざ浮上して空気を取り入れる必要もない。
通常型潜水艦の連続潜航時間および連続航海期間を延長する努力は長年にわたって行われてきたが、「可潜艦(submersible ship)」(潜ることも出来る)ではなく「真の潜水艦」(潜航状態を常態とする)が達成されたのは、上述の点を生かした原子力潜水艦が登場してからのことである。もちろん、連続航海日数の大幅な延長が可能になったとはいえ、乗員の健康面や精神面、食料、整備などの問題があるので、実際には2ヶ月程度の潜航しか行わないが、通常型に比べ制約はきわめて小さくなったと言ってよい。
また、原子力の導入は、潜水艦の水中機動の自由度を大きく増したことも指摘される。潜航中の通常動力潜水艦の動力は蓄電池に蓄えられた電力のみで、これによる水中速力は20数ノットが限界であり(注1)、またその速度で航行した場合にはごく短時間で動力(蓄電池)を使い切ってしまう。しかし、原子力潜水艦の場合、大きな熱出力を連続して取り出せるため、常時最高速度近くでの航行が可能で、溶融金属冷却原子炉を採用したロシアのアルファ級攻撃型原潜などは最高速度は40ノットを超えるといわれている。もっとも実際には、高速航行は騒音発生の原因となり、脆弱性(被探知)のもととなるので、それほど頻繁に行われるものではない。
- (注1)実際には、アメリカ海軍の実験潜水艦アルバコアの様に、30ノット以上を発揮することも不可能ではないが、費用便益比において現実的ではなく、同様の機軸を実現した例は他にはない。
逆に原子力潜水艦の欠点としては、通常動力の潜水艦に比べ静粛性が劣ることである。高速回転する蒸気タービンの軸出力で低回転のスクリューを回すため、減速ギヤを介在させる必要があり、この減速ギヤが大きな騒音発生源となる。また、原子炉作動中は、冷却水循環ポンプを常時動かしておかねばならず、ポンプも大きな騒音発生源となっている。
こうした弱点を克服するため、蒸気タービンで発電機を動かし、電動モーターでスクリューを駆動する原子力ターボ・エレクトリック方式による推進システムが採用された例がいくつかある。例えば、フランス海軍の原子力潜水艦はすべてこの方式を採用しており、他にもアメリカ海軍が2度(タリビー、グレナード・P・リプスコム (SSN-685))試用している。ただ、この方式は、蒸気タービン方式(ギアド・タービン方式)に比べて効率・整備性が悪く、水中速力も劣る。そのため、この方式を常用するのは、現在ではフランス海軍のみにとどまっている。
この他、開発・運用に非常に費用がかかる、用途廃止となったあとの原子炉・核燃料の処理の問題、メルトダウンの危険性などが挙げられる。このため最新の原子力潜水艦では、低出力時には冷却材の自然循環のみによる運転が可能になっており、ポンプの運転が不用になっている他、高濃縮ウランを用いた燃料棒を使用し、燃料棒の寿命を艦のライフサイクルと等しくして、艦の運用中の燃料交換を不用にし、稼動率の向上と放射性廃棄物の減少をはかっている。
[編集] 運用
原子力潜水艦は、当初、第2次大戦までの潜水艦の延長線上において対水上艦戦闘任務を主務とした。だが、水中性能の向上にともなって、潜水艦を水上や空中から探知することが困難になり、脅威の度合いが増すにつれて、潜水艦を潜水艦で「狩る」水中戦の重要度が増すこととなった。こうして、遅くとも1960年代末以降には、潜水艦に対する最も有効な兵器は潜水艦であるとの認識が一般化した。
また、その特性上、秘匿性が非常に高いことを活かし、核戦略の一端を担う海中ミサイル基地とでも言うべきタイプも登場した。こうした潜水艦を弾道ミサイル原潜、戦略ミサイル原潜や戦略原潜などと呼ぶ。初期のポラリス原潜では、核弾頭1発を搭載した長射程の弾道ミサイル16基を装備していたが、MIRV技術の進歩により、現在では、1発あたり10~14発の核弾頭を搭載した多弾頭式の弾道ミサイルを14~16基搭載するまでになっている。弾道ミサイル原潜はICBMの固定サイロよりも発見されづらいという特徴があるため、先制攻撃の手段としてではなく攻撃を受けたあとの反撃手段・第二次攻撃手段としての意味合いが強い。こうした潜水艦の登場は、冷戦を背景にしたものに他ならないが、アメリカ海軍のジョージ・ワシントン級(1番艦は1959年就役)を嚆矢として、はじめはアメリカ・ソ連、次いでイギリス・フランスが弾道ミサイル原潜を保有するようになると、弾道ミサイル原潜の護衛・捜索・追尾・攻撃が攻撃型原子力潜水艦の重要な任務になった。
そのほかにも対地攻撃や対艦攻撃用の巡航ミサイルを装備した型もありこのタイプのことを巡航ミサイル原潜などと呼ぶこともある。これは、旧ソ連海軍において、仮想敵たるアメリカ海軍の空母機動部隊への対抗上、特に大きく発展した。
[編集] 歴史
1940年代、ウラン核分裂反応の軍事利用に関する研究がなされた過程で、核エネルギーを利用した潜水艦の構想がナチス・ドイツや旧日本海軍等で考えられていた。
戦後、ドイツの原潜構想を知ったアメリカ海軍のハイマン・リッコーヴァー大佐は、その革新性に着目し、原潜開発を上層部に訴えた。当時の軍事的な核利用は爆弾が中心であり、巨大な原子力発電プラントを潜水艦に搭載することなど夢のまた夢と考えられていたため、リッコーヴァー大佐の提案はまともに取り上げられなかった。しかし、リッコーヴァー大佐がニミッツ提督に直訴までして実現を訴え続けた結果、最終的にはその熱意が認められ、合衆国海軍原子力部が設立され、リッコーヴァーはその長に就任した。大佐は偏執的ともいえる態度で、原潜開発を強力に推進した。
こうして、リッコーヴァーの指揮の下、世界最初の原子力潜水艦ノーチラス(1954年竣工)が開発された。このことからリッコーヴァーは「原潜の父」と呼ばれている。ノーチラスは世界ではじめて北極の下を潜航して横断したことでも知られる。また世界初の戦略ミサイル原潜は同じくアメリカが開発したジョージ・ワシントンで1959年に竣工した。ジョージ・ワシントン級戦略ミサイル原潜は、合衆国海軍のラボーン少将指揮の下で、搭載するポラリスミサイルを含めてわずか4年という短期間で開発された(この時、用いられたのが、マネジメント手法として今日でも知られるPERT(Program Evalnation and Review Technique)法である)。
[編集] 原潜一覧
2006年現在、原子力潜水艦を運用している国とその型(現用のみ)を下に挙げる。 略語は以下のとおり:
- SSBN:弾道ミサイル原子力潜水艦
- SSGN:巡航ミサイル原子力潜水艦
- SSN:攻撃型原子力潜水艦
- アメリカ合衆国
- オハイオ級原子力潜水艦 SSBNおよびSSGN
- ロサンゼルス級原子力潜水艦 SSN
- シーウルフ級原子力潜水艦 SSN
- ヴァージニア級原子力潜水艦 SSN
- ロシア
- デルタ級原子力潜水艦 SSBN
- タイフーン級原子力潜水艦 SSBN
- ボレイ級原子力潜水艦 SSBN
- オスカー級原子力潜水艦 SSGN
- ヴィクター級原子力潜水艦 SSN
- シエラ級原子力潜水艦 SSN
- アクラ級原子力潜水艦 SSN
- セヴェロドヴィンスク級原子力潜水艦 SSN
- イギリス
- ヴァンガード級原子力潜水艦 SSBN
- スウィフトシュア級原子力潜水艦 SSN
- トラファルガー級原子力潜水艦 SSN
- アスチュート級原子力潜水艦 SSN
- フランス
- ル・トリオンファン級原子力潜水艦 SSBN
- ランフレクシブル級原子力潜水艦 SSBN
- リュビ級原子力潜水艦 SSN
- 中華人民共和国