保存食
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保存食(ほぞんしょく)とは、比較的長期間(数か月から長いもので数年程度)にわたって貯蔵するため、腐敗を抑制する加工や処理がされた食品をいう。
気候や風土の関係で冬季、長期にわたり食料の確保に困難を抱える地方や、遠洋航海、戦争などの食料の確保や貯蔵、調理に大きな制約をうける状況下で、その代案として工夫されてきた生活の知恵である。また、災害や飢饉の際の非常食としての役目もあり、現代社会においても備蓄が奨励されるべき物であると言える。近年では、調理の不要なインスタント食品としての需要も大きい。
原料、保存方法ともに多岐にわたる。海産物なら昆布、魚の干物、塩漬け、酢漬けなどがあり、農産物なら野菜の漬物や寒干しから、高野豆腐などの大豆加工食品、果物のジャムまで千差万別である。
保存の手法も様々であるが、容器による密閉(缶詰、瓶詰め)をはじめ、いずれも腐敗菌の繁殖を抑え、長期間の保存を可能にする工夫がみられる。通常であれば食品に一定の加工を施すが、蜂蜜、ナッツ類等そのままで長期の保存性を持つ食品もある。保存食とは、通常、常温で長期保存ができる食品をいうが、広義では冷凍食品等も含める。
食品の多くは常温で保管すると、急速に鮮度が低下し腐敗する。冷凍や冷蔵技術の発達により、近年では多くの生鮮食品が比較的長期間、新鮮な状態のまま貯蔵できるようになった。しかし、一般家庭に冷蔵庫が普及したのは1970年代であり、それ以前は生鮮食品を長期保存することは困難であった。
多くの食品(特に野菜、果物や魚介類)にはいわゆる旬があり、決まった時期にしか手に入らなかった。季節を問わず野菜や果物類が手に入るようになったのは、最近のことである。このため生鮮食品を加工し、常温での保存性を高める工夫が行われてきた。
保存食の歴史を考える場合、2つの大きな転換点がある。缶詰の発明と、冷蔵(冷凍)技術の発達である。
保存食のはじめは手作りの時代である。この時代の保存食は、天然の素材と自然の力を最大限に利用して保存を高める工夫がされていた。塩蔵、乾燥、燻製、発酵などである。保存のための技法により、良い意味でも悪い意味でも食品の性質は大きく変化してしまう。また、加工後の食品を食べるには特殊な調理が必要となる場合も多い。
次は、缶詰の時代である。1804年にフランスで広口ビンに食品を詰める「ビン詰め」が発明され、1810年金属容器が発明されて「缶詰」が生まれる。これにより加熱殺菌と密封によって、食品の風味をあまり損なわない長期保存が可能となった。しかも、これらは調理済みであるため、容器を開ければ、そのまま食べることが出来る。当初、軍用食として開発された缶詰であったが、その有用性・利便性が知れ渡り19世紀の中旬以降、現在に至るまで量産され続けている。
最後は、冷凍保存の時代である。低温で腐敗菌の繁殖を抑え長期の保存を可能にした。調理済みのもの、半調理済みの素材、生の素材(食品による)、いずれも冷凍により保存が可能である。缶詰よりも更に食品の性質変化は少なく、生の食品と区別が困難なほどである。
この他にも、缶詰の技術を応用したレトルト食品や乾物(凍結乾燥)の技術を応用したフリーズドライも保存食の歴史を変える大きな技術革新であった。
[編集] 保存方法
- 塩蔵-新巻鮭、塩豚
- 乾燥-干し椎茸、高野豆腐(凍り豆腐)、干し魚(棒鱈など)、乾麺、糒(炊いた後に乾燥させた飯)
- 燻煙-燻製
- 発酵-チーズ、塩辛、ザワークラウト
- 糖蔵-ジャム、コンポート
- 酢漬け-ピクルス、しめさば
- 香辛料の添加 - ワサビ漬け
- 脱気(脱酸素剤の利用)
- 食品添加物(保存料の添加)
- 缶詰
- 瓶詰め
- レトルトパウチ食品(レトルト食品)
- 冷凍(冷凍食品)
[編集] 参考文献
- スー・シェパード 『保存食品開発物語』 赤根洋子訳 ISBN 4167651157