住民基本台帳ネットワークシステム
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住民基本台帳ネットワークシステム(じゅうみんきほんだいちょう-)通称:住基ネットは、日本において、地方自治体と行政機関で個々の日本国民を特定する情報を共有・利用することを目的として構築され稼働したシステム。市区町村の住民基本台帳に記録されている者(=日本国民)に11桁の住民票コードが割り当てられる。準備期間の間に総務省によるe-Japan重点計画の一環と位置付けられて稼働開始した。
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[編集] 住基ネットの構成
市区町村、都道府県、全国センター、および行政機関を結ぶ形で構成される。全国センターは指定情報機関である地方自治情報センターが運営している。
[編集] 市町村
コミュニケーションサーバ(CS)という中継用のサーバが設置され、既存の業務ネットワークと住基ネット回線にそれぞれ個別のファイアウォールを介して接続する。既存住基システムとは業務ネットワーク側のファイアウォールを通して通信を行う。また、CS端末と呼ぶ検索用端末があり、CSと通信して住基ネット上の情報を検索・表示することができる。CS端末はCSと同一のネットワークセグメントに置く場合と、業務ネットワーク内に置いてファイアウォール経由でCSにアクセスする場合と、両方ある。
[編集] 都道府県
都道府県サーバが設置されており、ファイアウォールを介して住基ネット回線に接続する。
[編集] 全国センター
業務/DBサーバと情報提供サーバが設置されている。業務/DBサーバは、住民票コードを割り当てられた者全ての情報を保持するものであり、情報提供サーバは行政機関からの検索に対して情報提供するものである。住基ネット回線と行政機関との通信回線の双方にファイアウォールを設置。なお、全国センターの所在地は公開されていない。
[編集] 回線
住基ネットの回線は専用回線であるとされている。具体的には専用線ではなく、IP-VPNが今のところ用いられている。
[編集] 住基ネット内で管理される情報
住基ネット上で管理する情報は、本人確認情報と呼ばれる個人を特定するための情報、および付随情報と呼ばれる、本人確認情報の変更履歴である。本人確認情報は住民票コードおよび4情報(氏名、生年月日、性別、住所)からなり、付随情報は変更年月日と変更理由を含む。
[編集] 住基ネットを利用する手続・方法
- 住民票コードがあれば利用できるもの
- 住民基本台帳カードの交付を受けると利用できるもの
- これらはコードの割り当てを受けていない者・市町村サーバが接続されていない市区町村に居住している者は、ネットワークを利用できないため、サービスを受けることが出来ない。
なお、住民票コードを民間が利用することは禁止されている。
[編集] 住基ネットに対する問題提起
住基ネットが導入される時期に、福島県岩代町(現在の二本松市)で個人情報の入った磁気テープの盗難事件が発生したが、これは直接住基ネットと関係しない個人情報保護の問題である。しかし、相前後して、コンピュータウイルス対策が行われていないなどと、セキュリティやプライバシーの不安が取りざたされた。しかし、住基ネットが既存のインターネットと同一の技術で構成されていながらも、かなりの精度で孤立したネットワークとなっているため、多くの不安は誤解を基に形成されたものである。
それでも、法的には関連する個人情報保護法関連五法が成立するまでは施行を「違法」ととらえ接続しない自治体が相次いだ。また、反対運動が起こったことにより、一部の自治体(東京都杉並区等)ではコードの割り当てを行なっていなかったり、希望者のみ割り当てを行なっている。
又住基ネットにより、なし崩し的に国家があらゆる個人情報を抱え込む事への布石ではないかとの指摘もあり、反対運動や接続しない地方都市も複数見られる。
そして専門家の間では、次のような批判的な指摘もなされている。
- 住民票の写しの取得は必ずしも頻繁に利用されるようなサービスではなく、膨大なコストをかけてシステムを構築するメリットがあるか疑わしいこと。
- 東京にあるサーバにデータを集め、それを全国に送信できる体制にするという形をとっているが、それがネットワークセキュリティ上、望ましい形式であるか疑わしいこと。
- 全国どこでも住民票を取得できるとされるが、遠隔地から住民票を取得できることには、ほとんどの国民にとってメリットがないと考えられること。
- 住基カードが市町村単位の発行であるため、転居時などに転出元への返還・転入先での新規取得を要し、住居異動の多い人にとっては恒久的な身分証明書としてのメリットが少ないこと。
しかし、住民票の写しの利用頻度については、地域差・個人差があり必ずしも上記の指摘は当たらない場合もある。
また、長野県がネットワークへの侵入実験を実施し、田中康夫知事(当時)は侵入可能であると公表したが、実際には住基ネット内部に侵入することは出来ず、住基ネットに接続された庁舎内ネットワークに侵入したに過ぎなかったことが後日発表された資料により明らかとなった。
2006年3月29日には、北海道斜里町の職員がAntinnyに感染し住基ネットの情報がWinnyのネットワークに流出したと発表した。 住民基本台帳ネットワークの接続パスワードなどのほか水道料金や町税の未払い者など642人分の個人情報も流出。(住基ネットに登録されている個人情報は流出していないものの、ずさんな管理が行われていることが明らかとなった。)
2006年10月21日に、東京都足立区が住基ネットの取り扱い窓口業務16種類を足立区の独自の判断で民間の人材派遣会社に委託させていたことが判明。総務省はこの対応に対し「民間委託は想定外だ」と発言し、厚生労働省はこの扱いについて足立区に対し説明を求めることとなった。
[編集] 接続しない自治体や市民選択制を導入する一部自治体
現在も住基ネットに接続していない自治体は、東京都杉並区、東京都国立市、福島県矢祭町などがある。また、2006年4月に「住基ネット凍結」を主張していた元衆議院議員の阪上善秀が兵庫県宝塚市の市長に当選したことから、同市も近く住基ネットを切断するのではないかと言う見方が出ている。
将来は段階的に住基ネットに参加することを前提にする市民選択制度をとっている自治体は横浜市のみで、この接続方法を報道などでは「横浜方式」と呼んでいる(杉並区長の山田宏は個人情報保護法成立後に横浜方式の市民選択制度を求めていたが実現しなかったため、法の下の平等に反する等として2004年8月24日に国及び東京都に対して訴えを起こした。プライバシー侵害については、神奈川県藤沢市、東京都目黒区などの個人情報保護審査会で選択制の導入などを求める答申が出された)。横浜市はその後、2006年5月10日に、住基ネットの総合的な安全性が確認できたとして2006年7月から全ての住民の本人確認情報を住基ネットに送信する全面参加に移行することを発表した。
[編集] 国側などの主張
完全に接続していない市区町村は違法状態であり、それら職務に従事する職員にも地方公務員法違反ではないかとの疑義もある。また、横浜方式の接続も一方的に始めたものであり、上記の未接続自治体と同様に違法状態であることには変わりは無い。現に、札幌市も市民選択制度を取ろうとしたが違法状態を作り出すことになるとして断念しているし、住基ネット反対をマニフェストに掲げ当選した、埼玉県の上田清司知事、神奈川県の松沢成文知事も当選後に方針を翻している。その他、埼玉県志木市、北海道ニセコ町など同様に断念しているケースは多い。
[編集] 不接続・選択制を選ぶ、ないし求める自治体や反対派の主張
住民基本台帳法における市区町村の業務は法定受託事務ではなく市町村自治事務である。さらに、住民票コードの記載を定めた第三十条の二や、都道府県知事への通知を定めた第三十条の五などは「するものである」条項であり「しなければならない」条項とは違って実施にあたっては自治体の裁量の余地が大きい。従って、扱われる個人情報の安全性への法的・技術的な問題点や不安が払拭されていないという正当な理由のもとで、自治体が不接続や選択制を選ぶのは適法である。
[編集] 住基ネットに関する訴訟
現在も、住基ネットを巡って各地で憲法訴訟が提起されているほか、関係経費の費用返還を求める住民監査請求、個人情報を外部に提供しないよう求める提供中止請求、個人個人に割り当てられた住民票コードの削除請求などの行政訴訟等が提起されている。
なお、2004年2月27日、プライバシー侵害として慰謝料を求めていた裁判で、大阪地方裁判所は原告敗訴判決を行った(原告の一部は控訴している)。
2005年5月30日、金沢地方裁判所は、住基ネットはプライバシーの保護を保障した日本国憲法第13条に違反する、と判断した。翌日、名古屋地方裁判所は、住基ネットはプライバシーの侵害を容易に引き起こす危険なシステムとは認められない、との判断を下した。相次いで相反する二つの判断が下された形となり、住基ネットの法的な位置づけの難しさが浮き彫りとなった。
- 石川県・愛知県の訴訟ともほぼ共通の訴えとなっており(細部では異なる部分もある)、「住民基本台帳ネットワークシステムはプライバシーの権利などを侵害し憲法違反である」などとして、石川県のケースでは同県の市民団体メンバー28人が、愛知県のケースでは住民13人が、それぞれ国や県・市などに個人情報削除や損害賠償などを求めた訴訟である。
2006年11月30日、前記の大阪訴訟の控訴審判決として大阪高等裁判所は、住基ネットは個人情報保護対策に欠陥があり、拒否する人への運用はプライバシー権を著しく侵害し憲法13条に違反する、として箕面市、守口市、吹田市に原告の住民票コードの削除を命じる原告勝訴判決を言い渡した。
- うち箕面市は2006年12月7日に箕面市議会で、上告を断念したと藤沢純一市長が表明し、判決が確定することになった。上告を断念した箕面市の総務部情報政策課によると、勝訴した原告(1人)の住民票コードを削除するためには市のサーバー内のデータだけでなく、府や国のサーバー内のデータも削除する必要がある。また、現行システムでは、データを削除できるのは住民が死亡した場合か、日本国籍を離脱した場合だけであるところ、どちらの入力もないまま1人少ないデータで府のサーバーと交信すると、市のサーバーがダウンしてしまう恐れがある。さらに、削除できたとしても、その後の運用方法は原告のデータを削除して原告だけ文書で管理するか、原告を除く全市民のシステムを作り直し改めて接続する、の2通りであり、前者では住民票や納税通知書の交付について原告の分だけ手作業で行う必要があるし、後者では1500-3500万円の費用が発生する、とのことである(読売新聞12月9日)。2006年12月15日午前0時、上告しなかったことにより、箕面市に対して判決が確定した。
- 守口市と吹田市は最高裁判所に上告した。
2006年12月11日、名古屋高等裁判所金沢支部は、正当な理由による公共の福祉による制限として許されると判示し、2005年5月30日の金沢地方裁判所の判決を取消し、原告の請求を棄却した。
[編集] 住基ネットに関する年表
- 2002年8月5日 - 第一次稼動
- 住民基本台帳ネットワークシステムが稼動し、住民票の写しを全国どこの自治体でも取れるサービスや、住所移転時の転入転出届が1回でも可能などのサービスが受けられるようになった。
- 2002年8月30日 - 総務省により住民基本台帳ネットワークシステム調査委員会が設置された。
- 2003年6月7日 - 行政手続オンライン化関係三法が閣議決定され、その後可決成立した。
- 2003年8月5日 - 長野県と総務省で住民基本台帳ネットワークシステム公開討論会が行われた。
- 2003年8月25日 - 第二次稼動(本格稼動)
- 住民基本台帳カード(住基カード)の発行が開始され、希望者には500円で公的個人認証サービスに利用できる電子証明書が交付できるようになった。
- 2004年1月29日 - 公的個人認証サービス開始
- 公的個人認証サービスは住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)を基にしており、現時点で利用できるカードは市区町村が発行している住基カードに限定されている。
[編集] 関係省庁
- 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT推進本部): e-Japan計画を推進。
- 経済産業省
- 総務省
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 住民基本台帳ネットワークシステム(総務省)
- 住民基本台帳法(総務省行政管理局)
- 長野県本人確認情報保護審議会(長野県)
- 「住民基本台帳ネットワーク」関連リンク集(impress)
- 反住基ネット連絡会