ワンステップバス
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ワンステップバスとは、乗客が乗降しやすいように乗降口のステップを1段だけとしたバス車両である。中ドアに車いす用スロープを設けることにより、車いすでの利用が可能となる。
日本の交通バリアフリー法では床面高さが650mm以下の車両をワンステップバスと定義している。これは初の本格的なワンステップバスである「京急型ワンステップバス」(後述)の床面高さが当初650mmだったためと思われるが、現在日本で製造されているワンステップバスは床面高さが530mm程度である。
また多くのワンステップバスは、エアサスペンションを採用することにより乗降時に車高を下げて歩道との段差を少なくするニーリング機能が装備されている。
なおワンステップバスをベースにして、ドアのステップを2段に変更し、段差を低くしたバスも東京都交通局(都営バス)や西日本鉄道に存在する。都営では「らくらくステップバス」と称される。
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[編集] 低床化への動き
日本における初の大型ワンステップバスは、1971年(昭和46年)に登場した三菱自動車工業(現・三菱ふそうトラック・バス)B820J型である。エンジンをオフセットするなど特殊な構造を採用し、床面高さは580mmを実現していた。
しかし特殊な構造が走行上の制約となり、実際の導入例は多くが空港ランプバスで、路線バスとしては大阪市交通局(大阪市営バス)と高松バス(現・ことでんバス)の2社局のみの導入であった。
1973年(昭和48年)、日野自動車工業は運輸省(現・国土交通省)のプロジェクトで大都市用モデルバスを試作する。RC系をベースにして車体は全長12mの3扉で、扁平タイヤを採用し床面650mmのワンステップ構造となった。
試験運行が行われたが、大きすぎる車体のため混雑した道路での機動性に欠け、その後の実用化にはつながらなかった。
同じく1973年に三菱自動車工業が床面を640mmに下げたバスを試作し、名古屋鉄道(現・名鉄バス)に納入している。1978年(昭和53年)には床面をさらに20mm下げたバスを試作し、同じく名古屋鉄道に納入している。
これらのパスは無理な低床化で前輪アクスルの構造に難があったらしく後に続かなかった。
[編集] 京急型ワンステップバス
本格的なワンステップバスは1988年(昭和63年)に京浜急行電鉄(現・京浜急行バス)が日野自動車工業と共同で開発したのが最初である。いわゆる「京急型ワンステップバス」である。
「京急型ワンステップバス」は、安価なワンステップバスを目指し、従来の都市型低床車(扁平タイヤ低床車)をベースとし、前ドアから中ドアまでの床を下げて床面高さ650mmのワンステップ構造として、中ドアよりも後部は1段上げ、後輪車軸などは通常のツーステップバスと同じ構造としたバスである。新規開発部分は前輪アクスルのみとなり、安価にワンステップバスが製造でき、現在日本で生産されているワンステップバスは基本的にこの「京急型ワンステップバス」に準じる。その後、日野自動車工業以外の日本の3メーカーも「京急型ワンステップバス」に対応している。
初期は改造扱いであったため首都圏では京浜急行電鉄、同じく京急グループの川崎鶴見臨港バス、川崎市交通局、京王グループ、東武鉄道(現・東武バスセントラルなど)、その他関西圏のごく一部の大手事業者のみの導入であったが、床面高さが530mmとなった1996年(平成8年)頃から正式に発売され、その他バス事業者も導入するようになった。床面高さが530mmとなったことにより、角度的にスロープでの車いす利用が容易になり、車いす用スロープが標準装備されるようになった。
[編集] リフト付超低床バス
1991年(平成3年)に東京都交通局向けに初めてワンステップ超低床車が4メーカー全てから「都市型超低床バス」の名称で試作車として登場した。後部までワンステップ低床構造で、床面高さは前扉部で550~560mm、後部扉部で580~590mmとなった。外観上は3ドアが最大の特徴であった。
1992年(平成4年)製からは2ドア化され、中ドアには車いす用のリフトを設置した、いわゆる「リフト付超低床バス」となった。全メーカーが製造したが、特注の高価な車両のため、都営以外の納入例はごくわずかである。1995年(平成7年)まで製造された。
各社とも、車体の構造が通常のツーステップバスと大幅に異なり、エンジン配置も日産ディーゼル工業と日野自動車工業は垂直配置となり運転席側にオフセットして搭載、三菱自動車工業は垂直横置きでTドライブを採用、いすゞ自動車はエンジンを従来の6気筒(V6)から8気筒(V8)に変更し前後長を短縮して、いずれも後部までの低床に対応している。
超低床バスは、以前はワンステップバス全般を指していたが、現在ではこれらの都営向きリフト付超低床バスおよびその派生車種を指す事が多い。
[編集] 中型車・中型ロング車
中型車の床は大型車に比べ低く、そのため若干の改造によりワンステップ化が可能で、ワンステップバスは古くから製造されている。
1988年から西日本車体工業製の日産ディーゼル工業中型車P-RB80系の製造が始まり、翌1989年(平成元年)に床面高さ630mmのワンステップ低床モデルが追加される。このバスが正式に発売された国内初のワンステップバスといわれている。P-RB80系は1990年(平成2年)に排気ガス規制対応に伴いモデルチェンジしU-JM210系となる。
このU-JM210系をベースにして1992年、西鉄北九州線代替バス向けの大型ワンステップバス日産ディーゼルU-JM210GTN改が、西日本鉄道(現・西鉄バス北九州)向けに製造された。この車両は、のちにJP系と称される事になる中型ロング車(中型長尺車)の原型で、中型車の車体を伸ばして全長10.5mと大型車並みにしたバスである。そのため車体断面は中型車と共通で、全幅は2.3mである。床面は試作当初は580mmであったが、改良が進み、1994年(平成6年)には530mmまて低床化が進んだ。
床面高さが530mmとなった事により、角度的にスロープでの車いす利用が容易になった。中型バスJM系も同様の構造となり、他社も中型車のワンステップ化に追随し、1996年頃には各社とも床面高さ530mmの中型ワンステップバスがラインナップに加わるようになった。