車椅子
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車椅子(くるまいす)は、身体の機能障害により歩行困難となった者が利用する移動手段、福祉用具である。
いすの両側に自転車に似た車輪が一対ついており、足元にキャスター(自在輪)が一対ついている。 電動車椅子は自重に対する安定性維持のため、転倒防止車輪を含めて、二対以上の車輪がついている。
従来は「車椅子」と表記することが多かったが、近年では椅子に車輪がついたものという概念から、身体の一部、生活の基盤へと意味合いが変化してきていることもあり、「車いす」という表記がされるようになっている。
非電動の一般的な車いすは、福祉用具取扱店など専門業者のほか、ホームセンターでも販売されている。電動型は障害者個人の特性に合わせ、専門業者からカスタマイズ販売されることが多い。
価格は手動車いすで1万円前後~50万円超、電動車いすでは30万円~300万円超と幅広い。なお、分類上、福祉機器であるため、本体について消費税非課税である。
おもな助成制度としては、以下のものがある。
なお、厚生年金による給付事業は2004年に廃止されており、修理についても2005年はじめに打ち切られている。またスポーツなどに特化した車椅子は制度の対象とはならない。
1990年以降、通称「ハートビル法」などの制定によりバリアフリーが推進され、ノーマライゼーションの観点から車いすを用いての利用、移動を考慮して床面のフラット化(段差解消)、ゆるやかなスロープ、車いすの幅を考慮した開口部の広いドアなどを設備した施設が増えている。
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[編集] 種類
[編集] 駆動方式による分類
[編集] 自走式(身障法では“車いす普通型”に分類)
- 車いすの後輪外側にあるハンドリムを搭乗者が操作して、前進・後退・方向転換を行う。
- 後輪のサイズは24インチ~20インチ程度。身体状況に応じて選択されるが、動作性などから大口径のものを選択するユーザーも多い。
- フレームを折りたたみできるものと折りたたみできないものが存在する。折りたたみタイプは収納や移動の際にコンパクトになる反面、折りたたみ部分(クロスメンバー)部分がゆがみ・たわみの原因となる。その結果、座位の不安定をもたらすこともある。また可動部分が動力伝達の障害になり、手こぎの力が車輪に100%伝わりきらない。
- 折りたたみできないもの(固定:リジット)は、可動部品が少ない=車体のゆがみ・たわみが少なく、座位の安定性が得やすい。また固定フレームにより駆動効率が高く、折りたたみ型に比べて少ない力で駆動できる。収納性は低いため、コンパクトに持ち運ぶ用途には不向きである。
- 片麻痺など、両手が使えず片手片足が利用できる場合は、座面を低く、座奥を短く設定して足こぎ駆動を行う。(HEMIタイプ)。
- 特殊な形として大車輪が前にある前輪駆動、左右いずれかに配置された2本のハンドリムが左右それぞれを制御する片手駆動、自転車のペダル状のグリップを手で回転させるクランク駆動式もある。
- スポーツ型も自分で駆動するので、自走式に含まれる。
- ※6輪車は、日本特有のせまい室内で移動するために開発された自走式車いす。駆動輪が車体のほぼ中央に位置し、その場での転回が可能で、小回りに優れる。構造上、後方転倒しやすいバランスであるため、転倒防止のための後部キャスターが取り付けられており、車輪数から6輪車と呼ぶ。現在の分類上は普通式に含まれる。
[編集] 介助用車いす(身障法では“車いす手押し型”)
- 介助者が後方からグリップ(ハンドル)で手押し操作する。
- 後輪サイズはおおむね16インチ程度で小径。
- 段差乗り越えなど屋外での移動を考慮して20インチ以上の大径のものを製作する場合もある。
- したがって自走式と異なるのは、車輪径の大きさではなくハンドリムの有無である。
- 介助者が坂道などでのスピードコントロールをしやすいようにブレーキをつけることが多い(このブレーキは車椅子自体が駐車するためのブレーキとは別系統である)。
[編集] 自走介助兼用型
- 自走式であるが、介助用のグリップもあるもの。
[編集] 電動車いす(身障法では、普通型、手動切替式A・B、電動三輪・四輪、リクライニング式に分類)
- 操作方法はおもにジョイスティック。障害によってはチンコントロール(あご)や、足部で行うこともある。
- 道路交通法上の歩行者扱いとするため、日本製のモデルは最高速度が時速6km/h以内となっており、実際には4.5km/hと6km/hの2種類が設定されている(最高速度が10kmを超えた場合は「車両等」になる)。
- 外国製の車いすでは10kmを越える車いすもあり、輸入され、利用しているユーザーもいる。
- 補装具交付制度では最初に電動車いすの交付を受ける場合には4.5km/h仕様が交付されることが多い。
- 近年はトルク(登坂能力、駆動力)や加速度、応答性などの面で性能が向上している。
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- 簡易型(手動切替式A・B)
- 車いすに後付けのモータードライブを取り付け、人力以外での駆動を可能にしたもの。
- クラッチを解除すれば手動走行もできる。
- バッテリー容量が小さく走行距離が短いが、2006年に大容量バッテリーを搭載したものが登場している。
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- 普通型
- シート下に大容量のバッテリーと電気モーターを内蔵し、小径で幅の広いタイヤ・キャスターをもつ。
- 障害等級2級以上が審査対象となり、車いすの形状やコントロール方法も障害に応じてカスタマイズを行うことがある。
- 数年前までは液式バッテリーが主流であったが、現在はシールドバッテリーが標準である。(液式バッテリーのタイプも受注生産できるが、完成まで数ヶ月を要する)
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- ロボット型
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- スタンドアップ車椅子
- 電動で座面と背もたれを一直線に延ばし、やや後方に傾いた姿勢ながら立ち上がる機能をつけたもの。
目線の高さは尊厳維持に重要な要素である。
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- 三輪・四輪
- 一般にシニアカーと呼ばれ、高齢者が介護保険レンタルや自費購入しているものと基本的には同一。
- 車いすというよりは、むしろ低速な電動スクーターといった形状である。
[編集] 車体構成・使用目的による分類
[編集] レディメイド(既製品)
- いわゆる”車いす”がこれにあたる。鉄製の車いすは大量生産され、ホームセンター等で安価に販売されている。調整個所が限定される。あらかじめ用意されたいくつかのサイズから選択する。背シートは平面であるため、重度の身体障害者、体幹の変形が著しい者には適合が困難である。
[編集] オーダーメイド
- 医師の処方により、身体寸法(手足の長さ)や四肢の可動範囲、使用目的を鑑みて、メーカーで受注生産されるものをさす。本人の身体に合わせて製作されるため、良好な適合が得られる。ただし調整機構をもたない部分は、身体の変化に適応できない。”個別”製作であるため。完成までの期間が長い。理学療法士(PT)・作業療法士(OT)の助言を受けることが望ましい。
[編集] 片手駆動型
- 脳卒中による片麻痺、あるいはその他疾病により、片手しか使えない人でも自走できるよう、左右どちらか一方の側で駆動できるようしたもの。ハンドリムは片方に2本ついており、それぞれが左右いずれかを制御する。
[編集] モジュール型(セミオーダー)
- 車輪の取付位置や車体の幅、レッグレスト、アームレストなどの高さ・位置・形状などを後に変更できるよう、あらかじめ製作された各パーツモジュールにより組み上げたもの。ほとんどの箇所を調整可能としたフルモジュールと車輪位置など限られた部分のみ調整可能にした簡易モジュールがある。パーツ交換により自走式から介助式へ変更したりもでき、モデルによっては現場で調整・仕様変更が可能。調整部位が増える事により、調整機構のない車いすに較べると重くなりやすいのが欠点である。
- なお、車いす交付の際には「オーダーメイド車いす」に分類される。
[編集] スポーツ型(競技用)
- フレーム・車輪にカーボン、チタンなど、競技用自転車(→ロードレーサー)と同様に軽量・高剛性な素材・技術を導入し、車いすで行う各スポーツに特化させた様々な形状をもつ。主なものは、室内競技用(バスケット、バドミントン、テニス)、陸上競技用(トラック、マラソン)、スキー用など。タイヤ破損時の交換を容易にするため、クイックレリーズシステムが搭載されている。また、専用に強化された固定式フレームの剛性・駆動効率は一般の車いすとは比較にならないほど高い。
[編集] チルト型・リクライニング型
- チルト型は座面角度を斜傾(チルト)調整できる機能を備えた車いす。筋力低下や変形、あるいは麻痺などにより長時間端座位がとれず、姿勢のくずれが起きやすい人に適用する。ロッキングチェアのように重力を利用して、長時間の安楽な座位姿勢をとらせることができる。寝たきり防止や手足の拘縮予防も期待でき、余暇活動へも参加しやすいため本人へのメリットは大きい。ただしチルト機構の制約から、折りたたむことはできても、さほどコンパクトにならない。
- 最近では座にかかる圧力をチルトによって背に逃がす目的で使用することも多い。その場合には30度以上のチルト角度が必要となる。30度以下では座にかかる圧力が背に逃げきらない。
- リクライニング型は背面角度のみを調整できる。以前は離床を促すためによく使われたが、実際には背中をたおすだけでは姿勢くずれを助長させやすいことが指摘されている。とくに臀部(おしり)へ前後方向の負荷がかかることにより、組織がひっぱられたままとなり褥瘡(床ずれ)を誘発することがある。背を完全に倒してフルフラットにすれば力の方向が水平になり、この問題は解消できるが、それでは寝たきりと同じく臥床姿勢となってしまう。
[編集] 電動車いす
- バッテリーを搭載し、モーター駆動による走行が可能な車いす。
- 道路交通法で歩行者として扱われるために、国内で生産されるものの最高時速は6km/hまでである。しかし、アメリカやオーストラリアでは最高時速が10km/hを超えるものもあり、日本国内でも利用しているユーザーが存在する。
- 後輪駆動がほとんどだが、前輪駆動型、中輪駆動型もある。
- 参考速度 普通型6km/h 普通型4.5km/h
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- 電動車いす リクライニング型
- 上記電動車いすに、モーター駆動による背もたれリクライニング機構をつけたもの
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- 電動車いす 昇降型
- 上記電動車いすに、モーター駆動による座面昇降機能を備え、床面まで座面を下げることができるもの。
[編集] 電動車いす 手動切替式
- 手動型車いすの車輪に、モーター駆動するユニットを取り付け、電動化した車いす。
- 標準的な電動車いす(80kg程度)に対し、軽量(おおむね40kg以下)で折りたたみ機能を損なわないことから、自動車への積載に有利。ただバッテリーも小型軽量であるため、後続距離もほぼ半分以下である。
- ベースとなるフレームが手動車いすのため、衝撃に対する強度は特別にはない。
- 手動-電動切り替え装置により、自力駆動も可能である。
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- 手動切替式A
- コントロールボックス上のレバー(ジョイスティック)で操作するため、電動車いすと同じ操作感覚。モーターつきの車輪に丸ごと換装するタイプと、タイヤを強制的に回転させる外部ユニットを取り付けるタイプがある。
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- 手動切替式B
- アシスト型とも呼ばれる。ハンドリムをこぐときだけスイッチが入る仕組みになっており、少ない筋力で手動車いすと同じ操作を可能にする。
[編集] 電動3輪・4輪
- 3輪型は、前輪に1輪、後輪に2輪を配置する。特性としては、前輪が1輪だけであることから、ハンドルの切れ角が大きく、小回りに優れる。
- 4輪型は、回転半径が多少増える代わりに安定性に優れている。また、4輪駆動型(4WD)も存在し、段差乗り換え走破性は高い。
[編集] 素材
鉄は、加工性に優れるが、重い。アルミは、軽量だが、車輪のハンドリムに使用すると外部からの接触で傷つきやすい。 チタンは、軽量で放熱性に優れ、身体アレルギーを引き起こさないなど利点が多いが、高価。 色については、パイプをコーティングや塗装で装飾することが可能である。
[編集] シーティング
障害児・障害者や高齢者が椅子・車いす、又は座位保持装置を適切に活用し自立的生活を築くための支援や、介護者の負担を軽減する技術のこと。1989年に身体障害者福祉法の補装具交付基準の対象品目になった。シーティングシステムは、普通の椅子や車いすでは姿勢を保つことが難しい重度身体障害者に安定した座位姿勢を確保し、また上肢機能へ配慮した適切な作業姿勢や活動姿勢を提供する概念である。
ベースとなるフレームは車いすや木製の椅子などさまざまだが、クッションやバックレストを変更して身体バランスの改善、筋緊張の軽減、座圧の減少などによって褥瘡(じょくそう=床ずれ)のような2次障害を防止し、快適さを追求していくことで、長時間の座(=生活の基礎姿勢)を維持する。
[編集] 車いすメーカー
- カワムラサイクル
- オーエックスエンジニアリング(OX)
- 日進医療器(NISSIN)
- 松永製作所
- ブリヂストンサイクル
など