リーマン予想
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リーマン予想(Riemann Hypothesis,リーマン仮説,単にRHとも略される)とはリーマンのゼータ関数の零点の分布に関する予想。数学上の未解決問題のひとつであり、クレイ数学研究所はミレニアム懸賞問題の一つとしてリーマン予想の解決者に対して100万ドルの懸賞金を支払うことを約束している。
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[編集] 概要
リーマンは素数の分布に関する研究を行っている際に、オイラーが研究していた以下の級数をゼータ関数と名づけ、解析接続を用いて複素数全体への拡張を行った。
ゼータ関数を次のように定義する。
1859年にリーマンは彼の論文のなかで、複素数全体 (s≠1) へゼータ関数を拡張した場合、
ζ(s) の自明でない零点 s は、全て実部が1/2の直線上に存在する。
と予想した。
- 自明な零点は-2,-4,-6,...に存在する。
- Re(z)≥1 には零点は存在しない。
なお素数定理は、リーマン予想が正しければそこから導ける「リーマンの素数公式」の帰結であるが、素数定理自体はリーマン予想がなくとも証明できる(「リーマンの素数公式」は原理的には完全に素数の個数関数 π(x) を計算できる公式であり[1]、これに比べれば素数定理は非常に粗っぽい近似公式に過ぎない)。この注意は歴史的には重要なことで、実際リーマンがはっきりとは素数定理を証明できなかった理由はリーマン予想の正否にこだわっていたためであると思われている(素数分布とのゼータ関数との関係は、ゼータ関数や素数定理の項を参照のこと)。
現在もリーマン予想は解かれていない。数学における最も重要な未解決問題の一つである。リーマンのゼータ関数を特殊な場合に含むL関数に対しても、同様の予想を考えることができ、これを一般化されたリーマン予想(Generalised Riemann Hypothesis;GRHと略される)と呼んでいる。
最近では、虚部が小さい方から約15億個までの複素零点はすべてリーマン予想を満たすことが計算されており、現在までにまだ反例は知られていない。しかし無限にある零点からみれば、たかだか有限の数表などは零点分布の真の姿を反映するには至らないと、この計算結果に対して慎重な数学者もいる。とはいえ現在では多くの数学者が(当然のことだが、はっきりした根拠を持たずに)リーマン予想は正しいと考えているようだが、歴史上有名な数学者の中でもリーマン予想を疑っていた数学者はいる。
- ↑ リーマンの素数公式も近似式であり、その誤差はゼータ零点がクリティカル・ストリップの両端から遠ければ遠いほど小さくなる、という性質がある。この距離が最大限に遠い、即ち全てのゼータ零点がクリティカル・ストリップの中心線上に整列しており、リーマンの素数公式の誤差が事実上0になる(素数分布が完全に解かれる!)だろうということが、リーマン予想のそもそもの意味である。
[編集] リーマン予想の歴史
- 1859年にリーマンは、ゼータ関数の自明でない零点の実数部が 1/2 について対称であり、かつ 0 から 1 の間(境界を含む)にしか存在しないことを示していた。
- 1896年にド・ラ・バレ・プーサンとアダマールが独立に素数定理を証明したが、それはゼータ関数の自明でない零点の実数部が 1 になりえないことの証明によるものだった。よって自明でない零点の実数部の範囲は、境界を含まないところまで狭められた。この範囲をクリティカル・ストリップという。
- 1900年にパリで開かれた第2回国際数学者会議でヒルベルトは数学上の未解決の問題23題(ヒルベルトの23の問題)を提起した。リーマン予想はこの内、素数の分布に関する8番目の問題に含まれている。
- 1914年にハーディは Re(s)=1/2 上に零点が無限に存在することを示した。
- 2000年にクレイ数学研究所 (Clay Mathematics Institute) はリーマン予想の証明を含む数学の未解決問題7問に対してそれぞれ100万ドルの賞金をかけた(ミレニアム懸賞問題)。
- 2004年6月に米パデュー大学の数学者ルイ・ド・ブランジュがリーマン予想を証明したと発表した(論文のPDF)。しかし彼は既に幾度も証明を主張し反証されており(ブライアン・コンリーらによる反例)、今回も同様の手法をとっているため、見込みは薄いと考えられている。
[編集] 同値命題
以下の命題は、リーマン予想と同値である。
- すべて十分大きなxに対し、
が成り立つようなCが存在する。
- 自然数nの正の約数の和を σ(n) (約数関数)であらわすとき、
n > 5040 に対して
はオイラー定数。ロビン・ガイ
[編集] 参考文献
- Harold M. Edwards, Riemann's Zeta Function, Dover Publications, 2001. ISBN 0486417409
- 鹿野健編 『リーマン予想』 日本評論社、1991年。ISBN 4535781818
- カール・サバー 『リーマン博士の大予想 数学の未解決最難問に挑む』 黒川信重訳、紀伊国屋書店、2004年。ISBN 431400973X
- ジョン・ダービーシャー 『素数に憑かれた人たち~リーマン予想への挑戦~』 松浦俊輔訳、日経BP社、2004年。ISBN 482228204X
- 日本数学会 『岩波数学辞典(第3版)』 岩波書店、1985年。ISBN 4000800167
- 松本耕二 『リーマンのゼータ関数』 朝倉書店、2005年。ISBN 4254117310