ブレンパワード
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『ブレンパワード』(BRAIN POWERD)は富野由悠季監督により制作され、1998年WOWOWで放送されたアニメ作品。全26話。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
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[編集] 作品内容
『ブレンパワード』の舞台は自然災害で荒廃した近未来の地球である。海底から浮上した謎の遺跡オルファン(孤児の意)を巡り、地球を捨てオルファンで銀河旅行に旅立つことが人類の遺伝子を残すことだと唱えるリクレイマーと、オルファンの飛翔は人類の滅亡を導くと考えるその他の人々の対立が物語の軸となる。
[編集] 作品概要
敵側であるリクレイマー・オルファンが比較的統一された行動理念を持つのに対し、明確な反リクレイマーといえる集団は存在しない。主人公宇都宮比瑪の乗る国連所属艦ノヴィス・ノアが一応のキーとなるものの、彼女らもまた対オルファンからオルファンへの理解に向かっていく。これは作品が否定対抱擁、反発対理解、抑圧対解放という一種メタなテーマをもつためである。特にもう一人の主人公である伊佐未勇は、当初リクレイマーの指導者を家族に持つコンプレックスから反抗的な態度を見せる少年だったが、中盤以降は彼らを許すまでに成長する。このような展開も含めてカタルシスに欠けるとする向きもあるが、監督の表現意図はそれなりの成功を見ていると考えられる。
本作は『機動戦士Vガンダム』以降、精神的な疲労により一線を退いていた富野由悠季が五年ぶりに制作したTVアニメシリーズである。めったに自作を褒めることのなかった富野由悠季が自ら「第二のデビュー作」と語る自信を見せ、『∀ガンダム』、『キングゲイナー』へと続く新たな富野作品の原型となった作品といえる。特に、疲労の影が残る作品初期話から、『∀』につながる力強さを見せる中盤から後半への物語の変化は監督自身の再生の過程でもあり、富野由悠季の創作への態度を知る上で興味深い。
しかしそれゆえ作品単体としてはまとまりが悪く、難解と言われる富野作品の中でもさらに理解の難しい部類に入る。全話を通した後に二度三度と視聴することで初めて感覚的に見えてくるものが多い風変わりな作品である。その一方で、それまでの富野作品に見られたような、殺伐とした雰囲気や残酷な描写は極力抑えられており、どこか暖かみを感じさせる作風は、本作を特徴づける要素の一つとなっている。
また作品内容と並んでしばしば語られるのが、オープニングの映像である。ロボットアニメのOPにも関わらず機体はほとんど登場せず(ましてや主人公の勇はワンカット、しかも手しか出てこない)、作品に登場する女性キャラが全員一糸纏わぬ全裸の姿で空中を飛び回るという異様な映像は、視聴者に強烈なインパクトを与えた。機体や登場人物、動物までもが激しく踊るという凄まじい映像の『キングゲイナー』OPと並び、富野の常人とは一線を画したセンスが伺える映像である。
一方で、エンディングではヌード写真で有名な荒木経惟による植物の写真が使われており、これもまたアニメのエンディングらしからぬ特徴的な映像といえよう。
声優陣についても意欲的な配置がされており、主要メンバーを演じる白鳥哲、村田秋乃、朴璐美、青羽剛らは全員舞台俳優からの抜擢で声優デビュー作にあたる。同時に川村万梨阿、渡辺久美子、塩屋翼といった富野作品と関係の深いメンバーも効果的に配されており、演技の方向性でも富野作品の転換点となっている。
キャッチコピーは「頼まれなくたって生きてやる」。当時社会現象になっていた『新世紀エヴァンゲリオン』の「だからみんな死んでしまえばいいのに」や、本放送時に公開されていた劇場用アニメ『もののけ姫』の「生きろ。」に対する、富野監督の返答にも感じられて興味深い。
[編集] ブレンパワードとは
「ブレンパワード」とは、作中に登場する有機とも無機ともつかない人型の存在「アンチボディ」の内の一つで、リクレイマーの使用する「グランチャー」と対をなしている。劇中ではブレンと略して呼ばれる。他の作品で言えばいわゆる「巨大ロボット」に当たるが、こちらはロボットではなく、生体に近い。ちなみに「アンチボディ」とは、本来「抗体」を指す医学用語である。
アンチボディは太古の昔、オルファン同士が衝突(この際、片方のオルファンは行方不明になっている)した際に誕生したプレートと呼ばれる物体から「リバイバル(再生)」することにより生まれる。ごく稀ではあるが双子も誕生する。行方不明になったオルファンから出たプレートからブレンパワードが生まれ、地球に落下したオルファンから出たプレートからグランチャーが生まれる。
誕生してから、適格者を判断して体内(人間の子宮の場所に当たる部分)に搭乗させる。以降、基本的に初めて搭乗した者がそのアンチボディの専任者となり、「ユウブレン」「ヒメブレン」のように個人の名前をつけて呼ぶ。
搭乗者判断はかなり甘く、一人で複数のブレンを所有したり、後から専任者となったり、同時に複数の人物を専任者とする例もあった。また、ユウブレンとネリーブレン(およびネリー・キム)が融合(再リバイバル)し、ネリーブレンを基本とする一体のブレンになった。ただしどんな要素が絡んでこの現象が起こったのかは分からない。 誕生後、ある程度の期間適格者を見つけることが出来ない場合には生態活動を停止し、作中で大量の活動停止したブレンパワード・グランチャーが出てきた。
ブレンパワードはグランチャーに比べて穏やかで他のブレンと協調性が高いが、自立的で人間の命令を無視することもある。それに比べてグランチャーは気性が激しい。また、グランチャーが突然変異したものに「バロンズゥ」があり、こちらは他の二つより大型でさらに攻撃的。作中では『聖戦士ダンバイン』の「ハイパー化」のようにさらに巨大化した。
ユウブレンは青色で勇猛、ナンガブレンは薄緑色で臆病など、各々体格や性格、体の色が異なり、同じ個体は存在しない。意志を持って自立行動をとり、時にはパイロットに逆らって行動する。逆に、デッキブラシで擦られ、手入れされて喜ぶという一面も見せた。
多少の怪我なら自己修復機能が働くが、足や腕を失うなどの大怪我を負った場合、元には戻らない。その場合義足や義腕をつける必要がある。人間で筋肉に相当する部分は、多層積層の板ばねのようになっており、弾性力を蓄勢させて行動する。
リバイバル時同時に出現し、斬る・突く・叩くなどの他、先端からチャクラを利用したと思われる、何らかの力を放射し射撃にも使える剣状の武器、ブレンバーとブレンブレード(グランチャーはソードエクステンション)を主に使う。ユウブレンとヒメブレン、ブレンチャイルドのコンビは、互いの機体を重ねて「チャクラ・エクステンション」という技(?)を編み出し、膨大な力の奔流により敵を退けた。
他に新たに開発された手持ちのミサイルランチャーなどを使うほか、ユウブレンはショーターと呼ばれる手持ち武器や、マイクロウェーブ発振器を使った。さらに空間を跳躍するバイタルジャンプ、あらゆる攻撃を(ある程度)防ぐチャクラシールドという特殊能力を持つ。
異存在コミュニケーションの要素をもった、作品のキーの一つであるこのようなアンチボディのあり方は、次作『∀ガンダム』で、前世紀の遺物という設定のモビルスーツを「機械人形」と呼ぶ捉え方へつながっていく。
[編集] アンチボディ一覧
- ブレンパワード
- ユウブレン
- 体色は青色で雄々しい。後にネリーブレン、ネリー・キムと融合するが作中のユウの台詞から『取り込まれた』ようである。
- ヒメブレン
- ラッセブレン
- 初代ブレンはオルファンに特攻。その際、ラッセにオーガニックエネルギーを分け与えた。二代目としてナッキィの連れてきた3体の内の1体に認められて譲り受ける。
- ナンガブレン
- ブレン・シルバレーと呼ばれたことがある。臆病な性格で、グランチャーとの戦いを嫌がることがあった。
- ブレンチャイルド(カナンブレン)
- ヒギンズブレンと共にダブルリバイバルした双子。僅かに早く誕生したために、ヒギンズブレンからは兄として認識されている。
- ブレンチャイルド(ヒギンズブレン)
- ダブルリバイバルした双子。カナンブレンを兄として認識している。
- ネリーブレン
- 後にユウブレンと融合、以後ユウの乗機となる。踊るのが好きで作中では氷の張った湖の上をスケートを滑る様に踊っていた。
- カントブレン
- 元はナッキィのブレン。
- ナッキィブレン
- 3体のうち1体はラッセ機に、もう1体はカント機になった。
- グランチャー
- グランチャー(ジョナサン・グレーン)
- 作中ユウブレンに斬られ、左腕に義手を兼ねた武器をつける。
- グランチャー(クインシィ・イッサー)
- 作中、左足を失い義足をつける。他のグランチャーと比べて自立的で、クインシィが搭乗することなしに行動することも出来るようになる。爪を伸ばしてノヴィス・ノア艦内を破壊したりもした。後に再リバイバルしてバロンズゥになる。
- グランチャー(シラー・グラス)
- グランチャー(カナン・ギモス)
- シラー・グラスに撃墜される
- グランチャー(エッガ・ブランガン)
- ブレンチャイルドのチャクラエクステンションで撃墜される。漫画版では登場しなかった。
- グランチャー(ケイディ・ディン)
- グランチャー(伊佐美勇)
- グランチャー(ナッキィ・ガイズ)
グランチャーで唯一オルファンに敵対した。
- クインシィ・イッサーに撃墜された。
- アーミィグランチャー(米軍パイロット)
- 戦車の塗装にあるような濃緑色が特徴。
- バロンズゥ
- クインシィ・バロンズゥ(『スーパーロボット大戦J』で依衣子が味方になった後は「イイコ・バロンズゥ」と表記)
- クインシィのグランチャーがリバイバルしたもの。
- バロンズゥ
- バロン・マクシミリアンおよびジョナサン・グレーン。特にバロンがバロンズゥに乗った際巨大化した姿は同じ富野作品である『聖戦士ダンバイン』のハイパー化を髣髴とさせ、「ハイパーバロンズゥ」と呼ばれる(但し、アニメ・漫画ともに巨大化したものの名称については作中には一切出てきておず、ハイパーバロンズゥの呼称は『スーパーロボット大戦J』が初出)。
[編集] スタッフ
- 原作: 矢立肇、富野由悠季
- 総監督: 富野由悠季
- キャラクターデザイン: いのまたむつみ
- メカニックデザイン: 永野護
- メカニックデザインサポート:沙倉拓実
- アニメーションデザイン: 重田敦司
- 美術監督:佐藤勝
- 音楽: 菅野よう子
- 音響監督:浦上靖夫
- メインロゴデザイン:熊川明久
- エンディングスチール:荒木経惟
- アニメーション制作:サンライズ
[編集] 主題歌
- オープニングテーマ「IN MY DREAM」
- 作詞・作曲・歌:真行寺恵里 編曲:伊藤真太郎
- エンディングテーマ「愛の輪郭(フィールド)」
[編集] 主要登場人物
- 伊佐未勇(いさみ ゆう) 声優:白鳥哲
- 宇都宮比瑪(うつみや ひめ) 声優:村田秋乃
- カナン・ギモス 声優:朴璐美
- ジョナサン・グレーン 声優:青羽剛
- クインシィ・イッサー(伊佐未依衣子(いさみ いいこ))/クマゾー 声優:渡辺久美子
- ラッセ・ルンベルク 声優:三木眞一郎
- ナンガ・シルバレー 声優:辻親八
- コモド・マハマ/アカリ 声優:沙倉祥子
- シラー・グラス 声優:田中敦子
- ヒギンズ・サス 声優:川村万梨阿
- ウィンストン・ゲイブリッジ 声優:佐古正人
- 伊佐未直子 声優:杉本るみ
- ユキオ 声優:浅川美也
- レイト艦長/士官 声優:中村秀利
- ナッキィ・ガイズ 声優:冬馬由美
- カント・ケストナー 声優:佐々木るん
- アイリーン・キャリアー 声優:名越志保
- モハマド(マンガ版では『ムハマド』) 声優:塩屋翼
- ノヴィス・ノア副官/桑原博士/副官 声優:中嶋聡彦
- 源野三尾(みなもとの みつお) 声優:日高奈留美
- ネリー・キム 声優:高荻晴子
- ケイディ・ディン/リクレイマー 声優:千葉一伸
- ヌートリア艦長/キメリエス副官/士官 声優:中博史
- フィジシスト:中村大樹
- 伊佐未研作 声優:堀部隆一
- 伊佐未翠 声優:叶木翔子
- 伊佐未勇(いさみ いさむ)
- 士官:松本大
- かえで先生
- オルファン(比瑪がオルファンと接触した際に登場した少女) 声優:大谷育子
[編集] 放映リスト
- 深海を発して
- 運命の再会
- 勇の戦い
- 故郷の炎
- 敵か味方か
- ダブル・リバイバル
- 拒否反応
- 寄港地で
- ジョナサンの刃
- プレートの誘惑
- 姉と弟
- 単独行
- 堂々たる浮上
- 魂は孤独?
- 一点突破
- 招かれざる客
- カーテンの向こうで
- 愛の淵
- 動く山脈
- ガバナーの野望
- 幻視錯綜
- 乾坤一擲
- スイート・メモリーズ
- 記憶のいたずら
- オルファンのためらい
- 飛翔
[編集] 関連事項
『機動戦士Vガンダム』以来、実に5年ぶりとなった富野作品だったが、WOWOWという媒体のせいもあってか、いまひとつ話題に上らなかった。しかし、声優の朴璐美はこの作品での演技力を認められ、次回作の『∀ガンダム』では、男性声優が主役を演ずる富野ガンダムにおいて、女性声優が初めて主人公の声を演ずることとなった。
また、WOWOWに於ける実質的な最初の有料アニメ(スクランブル放送)でもある。
この作品は同時期に大ヒットしたアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』に対する富野由悠季の解答と言われている。
この作品の企画は当初「20周年記念ガンダム=次作:∀ガンダム」としてスタート(イメージ)されていたようである。富野由悠季監督本人がイベント(1996年)中、リップサービスで「20周年記念でガンダムをやれないかという話はある。キャラクターデザインいのまたむつみ、メカデザイン永野護だったらみんなみたいでしょう」と発言している