ハーバート・ジョージ・ウェルズ
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ハーバート・ジョージ・ウェルズ(Herbert George Wells, 1866年9月21日 - 1946年8月13日)は、イギリスの小説家・SF作家。イングランドケント州ブロムリーの商人の家に生まれる。ジュール・ヴェルヌとともに「SFの父」と呼ばれる。歴史家としても、多くの業績を遺した。
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[編集] 人物
奨学金でサウス・ケンジントンの科学師範学校(Normal School of Science、現インペリアル・カレッジ)に進み、トマス・ヘンリー・ハクスリーの元で生物学を学ぶ。そこの学生誌「サイエンス・スクールズ・ジャーナル」にしばしば寄稿し、1888年4-6月号に掲載された「時の探検家たち」(The Chronic Argonauts)では、後の作品「タイム・マシン」のアイデアが述べられている。
教職を経てジャーナリストになる。初期の作品は、当時の科学知識に裏打ちされた文字どおりのSFすなわち「科学空想小説」であった。1902年に社会主義団体であるフェビアン協会に参加したころから、『近代のユートピア』(1905年)などの文明批評色の濃い作品を発表するようになった。さらに、第一次世界大戦を経験することにより、人類の前途に対する深い憂慮を背景にした作品が生みだされるようになった。
1934年に刊行された自叙伝 An Experiment in Autobiography: Discoveries and Conclusions of a Very Ordinary Brain (since 1866) は、自伝文学の白眉と評価されている。
国際ペンクラブ2代目会長を務めた(在任1933年~1936年)。
[編集] 主要作品リスト
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小説
- タイム・マシン (The Time Machine) 1896年
- モロー博士の島 (The Island of Dr. Moreau) 1896年
- 透明人間 (The Invisible Man) 1897年
- 宇宙戦争 (The War of the Worlds) 1898年
- (When The Sleeper Awakes) 1899年
- 恋愛とルイシャム氏 (Love and Mr. Lewisham) 1900年
- 月世界最初の人間 (The First Men In the Moon、『月世界旅行』とも) 1901年
- 神々の糧 (The Food of the Gods) 1904年
- キップス (Kipps) 1905年
- 近代のユートピア (A Modern Utopia) 1905年
- 彗星の時代 (In the Days of the Comet) 1906年
- 空の戦争 (The War in the Air) 1908年
- アン・ヴェロニカ (Ann Veronica) 1909年
- トーノ・バンゲイ (Tono-Bungay) 1909年
- ポーリー君の物語 (The History of Mr. Polly) 1910年
- ニュー・マキャベリ (The New Machiavelli) 1911年
- 結婚 (Marriage) 1912年
- 情熱的な友人たち (The Passionate Friends) 1913年
- 解放された世界 (The World Set Free) 1914年
- アイザック・ハーマン卿の妻 (Wife of Sir Isaac Harman) 1914年
- 崇高な探究 (The Research Magnificent) 1915年
- 神のような人々(Men Like Gods) 1922年
- ウィリアム・クリソルド氏の世界 (The World of William Clissold) 1926年
- (The Shape of Things to Come) 1933年
思想書・エッセイ
- 海の貴婦人 (The Sea Lady) 1902年
- ブリトリング氏は考察する (Mr Britling Sees It Through) 1916年
- 世界文化史 (その他の邦題として、「世界文化史大系」、「世界史概観」等)(The Outline of History) 1920年
- 誰でも参加できる陰謀 (The Open Conspiracy) 1928年
- 生命の科学 (The Science of Life) 1930年 (Julian Huxleyとの共著)
- 人間の仕事と富と幸福 (The Work, Wealth and Happiness of Mankind) 1931年
- 世界頭脳 (World Brain) 1938年(『世界の頭脳—人間回復をめざす教育構想』)
- 新世界秩序 (The New World Order) 1939年
- 人間の権利—われわれはなんのためにたたかうのか (The Rights of Man, Or What Are We Fighting For?) 1940年
- (The Conquest of Time) 1941年
- ホモ・サピエンス将来の展望 1942年
- 世界革命の危機における人間の取った行為に関する現代の回顧録 1942-1944 (‘42 to ‘44: A Contemporary Memoir) 1944年
[編集] 社会的影響
- 第一次世界大戦後ウェルズは、世界恒久平和の基盤となる新世界秩序のための知識と思想の集大成とすべく、1920-30年代に新百科全書運動を展開する。 これに関する1936-38年の講演を集めた『世界頭脳』では、世界百科事典では一見対立する記述も並記するものとされ、現在のウィキペディアの構造を予言していたとも言える。
- 第二次世界大戦勃発に触発され、1939年にウェルズは『新世界秩序』において概略を述べていた「人権宣言」についての書簡をタイムズとフランクリン・D・ルーズベルトに送る。この人権宣言と、それを基に1940年に作成されたサンキー権利章典は、1941年1月6日のルーズベルトの一般教書の中の「四つの自由」を包含しており、さらに後の世界人権宣言などに影響を与えたとされる。
- 1934年、糖尿病患者協会の設立をザ・タイムズ紙上で国民に呼びかけたことがきっかけで、国家規模での糖尿病患者協会が初めて設立された(糖尿病患者協会そのものはポルトガルが世界初)。ウェルズは1型糖尿病を患っており、他にも腎臓病、神経炎などさまざまな疾患と戦っていた。
- 小説「解放された世界」は、原子核反応による強力な爆弾を使用した世界戦争と、その戦後の世界政府誕生を描いた作品である。このうち、核反応による強力な爆弾は、原子爆弾を予言したものとされる。そして、ハンガリー出身の科学者レオ・シラードはこの小説に触発されて核連鎖反応の可能性を予期し、実際にマンハッタン計画につながるアメリカの原子爆弾開発に大きな影響を与えることとなった。
[編集] 参考文献
- 『トーノ・バンゲイ(下)』中西信太郎訳、岩波書店<文庫>、1960年、ISBN 4003227654
- 『解放された世界』浜野輝訳、岩波書店<文庫>、1997年、ISBN 4003227662 (著者紹介「ハーバート・ジョージ・ウェルズ」、リッチー・カルダーによる序説、ウェルズによる序文、訳者による「ウェルズと日本国憲法」、付録「人権宣言」「サンキー権利宣言」)
- 橋本槙矩他『裂けた額縁 H・G・ウェルズの小説の世界』英宝社、1993年、 ISBN 4269710470
[編集] 関連記事
- Category:透明人間
- 火星人
- オーソン・ウェルズ
- サイモン・ウェルズ
- タイムマシン