ディオニュソス
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ディオニュソス (ディオニューソス Διόνυσος)はギリシア神話に登場する豊穣とブドウ酒と酩酊の神である。
この名は「若いゼウス」の意味(ゼウスまたはディオスは本来ギリシア語で「神」を意味する)。オリュンポス十二神の一人とされることもある。
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[編集] 神話
ゼウスとテーバイの王女セメレの子。ヘラは、夫の浮気相手であるセメレを大変に憎み、彼女をそそのかして、雷電を持つ 神本来の姿のゼウスと会わせ、その光輝で焼死させてしまう。このため、まだ胎児だったディオニュソスは、ゼウスの腿の中に埋め込まれ、臨月がくるまでかくまわれたという。
生まれてすぐヘラに追われる身となったディオニュソスは、ギリシアやエジプト、シリアなど、地上で長い間逃亡生活を送り、その間にブドウ栽培などを身につけてこれを伝え、民衆の支持を得る。また、自分の神性を認めない人々を狂わせたり 動物に変えるなどの力を示し、神として畏怖される存在ともなった。
エウリピデスの悲劇『バッコスの信女』の中では次のような物語がある。テーバイの王ペンテウスは、従兄弟であるディオニュソスの影響を憂いて、信仰を禁止し、彼を捕らえようとする。しかし、ディオニュソスは市中の女性達を帰依させ、山中でペンテウスを殺させる。そのディオニュソスの狂信女たちの中には、ペンテウスの母親もいた。
こうして熱狂的な信者を獲得し、世界中に自分の神性を認めさせたディオニュソスは、死んだ母セメレを冥界から救い出し、晴れて神々の仲間入りをしたという。
また、次のような神話もある:穀物神デメテルの娘ペルセポネとゼウスの間には隠し子ザグレウスがいた。ところがザグレウスはティターン族に襲われ、数々の動物に変身して闘うも、牛になったとき捕らえられ、八つ裂きにされ、食われてしまった。アテナがその心臓を救い出し、ゼウスがこれを飲み込んだ。後に生まれたセメレーとの間の子の心臓は、本来ザグレウスのものであった。この神話はディオニュソスがかつて農耕神であったことを反映していると考えられる(→死と再生の神)。
ワインの伝来については、次のような神話がある:各地を遍歴したディオニュソスはアテナイの近くイカリア村で農夫イカリオスのもてなしを受けた。イカリオスは返礼として葡萄の栽培と、ワインの製法を伝授された。イカリオスは出来上がったワインを山羊皮の袋に入れ、村人たちにふるまったが、初めて飲む酒に村びとは興奮、毒を盛られたと誤解してイカリオスを殺害してしまった。その死体を見た娘エリゴネーは悲嘆の余りその場で首を吊った。事の次第を知ったディオニュソスは怒り、村の娘全員を狂気に陥らせ、集団縊死に及ばせた。やがて誤解と知った村人たちの手で哀れな父と娘は供養され、ここにディオニュソスの怒りも収まり、同地は葡萄の産地として名を知られるようになった。
[編集] 信仰
本来は、集団的狂乱と陶酔を伴う東方の宗教の主神で、特に熱狂的な女性信者を獲得していた。この信仰は その熱狂性から、秩序を重んじる体制ににらまれていたが、民衆から徐々に受け入れられ、最終的にはディオニュソスをギリシャの神々の列に加える事となった。
この史実が、東方を彷徨いながら信者を獲得していった神話に反映されている。またザクレウスなど本来異なる神格が添え名とされることにもディオニュソス信仰の形成過程をうかがわせる。
とはいうものの、実際にはミケーネ文明の文書からゼウスやポセイドンと同様にディウォヌソヨ(Διϝνυσοιο)という名前が見られ、その信仰はかなり古い時代までさかのぼる。ギリシア人にとっては「古くて新しい」という矛盾した性格を持つ神格だったようである。
アテナイを初めとするギリシア都市ではディオニュソスの祭りのため悲劇の競作が行われた。ローマ神話ではバックス(バッカス)と呼ばれ、また豊穣神リベルと同一視されている。
[編集] 哲学
フリードリヒ・ニーチェは、ディオニュソスを陶酔的・激情的芸術を象徴する神として、アポロンと対照的な存在と考えた(『音楽の精髄からの悲劇の誕生』もしくは『悲劇の誕生』)。このディオニュソスとアポロンの対比は思想や文学の領域で今日でも比較的広く知られており、「ディオニュソス的」「アポロン的」という形容、対概念は、ニーチェが当時対象としたドイツ文化やギリシア文化を超えた様々な対象について用いられる。
[編集] 劇場
ギリシアのアテネのアクロポリスの南斜面には、ディオニュソス劇場がある。1万5千人以上を収容できる、すり鉢状の野外劇場で、紀元前6世紀頃の建造物とされる。紀元前4世紀(ローマ時代)に改築された当時のものが現在でも残っており、ディオニュソスの生涯をモチーフとしたレリーフなども見ることができる。この劇場は、毎年春の大ディオニュシア祭において、ディオニュソスに捧げる悲劇(ギリシア悲劇)を上演するために用いられたことで特に知られる。劇場の概念図は劇場を参照のこと。