シルバー事件
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シルバー事件(―じけん)は日本のゲーム制作会社グラスホッパーマニファクチュアが制作したゲームソフト。サウンドノベル形式。1999年発表。ディレクターは同社代表の須田剛一。
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[編集] 物語
物語は[Transmitter]と[Placebo]の2サイドがあり、それぞれの物語にそれぞれの主人公がいる。前者が本筋であるが、後者は前者を別の視点から考察するような構成になっており、全編を貫く謎を解き明かす上でも重要になっている。
- [Transmitter]
- 市場経済主導型社会主義国家「カントウ」の中心部であり、新興都市「24区」の警察署、24署の凶悪犯罪課を舞台する。
- 24区で伝説なっている事件「シルバー事件」の犯人ウエハラカムイが収容中の病院から脱走した。主人公はカムイ捕獲に向け出動した公安特殊部隊の一員である(ゲーム上では一度もセリフがなく、姿を見ることもできない)。その後凶悪犯罪課に配属されることになった主人公は、凶悪犯罪課の面々と共に奇妙で不条理な数々の事件に遭遇する。
- [Placebo]
- 24区に住むフリーライター、モリシマトキオは幼少時の記憶を持たない。郊外のマンションでペットの亀と共に自堕落な生活を送っているが、ある日かつての職場の上司から伝説の犯罪者ウエハラカムイについて調査するように依頼される。折りしもその時、カムイが収容中の病院から脱走。公安特殊部隊の隊員数人を殺害、市街地に潜伏する。
- 街に出ていたトキオは深夜の閉店後のショッピングセンターでウエハラカムイと邂逅、恍惚な体験をする。それ以来彼は自分の中で誰かが囁くような声を聞くようになる。
基本的にはウエハラカムイと伝説の事件「シルバー事件」の謎を解き明かしていく過程を描いたものであるが、中盤には直接的に関係ないと思われる事件もいくつかある。しかし、間接的には関係しているものと思われ、作者に何らかの意図があるものだと思われる。
[編集] 舞台
舞台は架空の国カントウの架空の新興都市24区。首長はハチスカカヲル。人口10万人。複数の政党や市民団体が存在し、それらの勢力が両立、拮抗して街を形成しているため、一見穏やかに見えるが、市民それぞれに(凶悪犯罪課の面々も例外ではない)先鋭的な政治的対立が存在している。それに反映されるように治安維持機構なども複数存在し、裏では反目しあっている。階級差が歴然と存在し、7割の低級情報層と3割の高級情報層に分裂している。所得云々よりも情報差が階級を形成する。近年、凶悪犯罪が激増しており、それらはマスコミを伝って「伝染」するため、その中で凶悪犯罪課は「処分」と呼ばれる被疑者射殺の権利を有しており、ゲーム中にも登場する。
[編集] 政党及び市民団体
FSO・・・フロンティア派。環境保全を軸とした非営利組織である。24区成立当初、権力闘争に敗れ、政権中枢から追い出され。事実上の過激派として非合法組織となっている。
TRO・・・テクノ派。分子生物学系の技術を背景に資源育成を主たる活動としている。現在政権でCCO(後述)と勢力を二分する。中央警察部と通産局、財政局を掌握している。
CCO・・・シビック派。介護、教育、シビリアンパトロールなど、市民活動を主たる活動の場とする団体。現在TROと24区政権を担っている。公安警察部と資産運用局と環境局を掌握している。
※現在TROとCCOが連立政権を担当しており、FSOが完全に駆逐された格好になり、市民の政治的対立をあおっている。TRO/CCO連合主席はカイ ダイザブロウ。
[編集] 治安維持機構
※「行政監査警察局」内に二つの治安維持機構が存在する。
中央警察部・・・旧TROを中心に形成されており、舞台となる第24署を初め凶悪犯罪課を含む四課設置されている。主に犯罪捜査を担当。
公安警察部・・・旧CCOを中心に形成されており、四課設置されている。広域公安を担当。
[編集] 登場人物
ウエハラ カムイ・・・[Transmitter][Placebo]両サイド通してゲーム全体の肝となる男。かつて24区で起こった伝説の事件"シルバー事件"の被疑者。ただ、"シルバー事件"の詳細自体は殆ど公表されていない模様。逮捕当時から精神的な問題を抱えているとして、精神病院に入院していた。近年は強度の精神症との診断を受け、もはや単独での社会的生活は不可能な状況であり、発話はおろか動作すらままならない状態であったが、一瞬の隙を突いて警備員など複数人を殺害し、逃走。公安特殊部隊の追撃を振り切り、市街地に潜伏した。
[編集] [Transmitter]
主人公・・・名はプレイヤーの任意。当初、公安に所属する特殊部隊員として登場する。ウエハラカムイ脱走事件に際し、その捕獲作戦に参加。その後の事情聴取で24署凶悪犯罪課の面々と出会い、しばらくして凶悪犯罪課特別捜査官に推挙される。全編通して全くセリフがない(或いはプレイヤーは聞くことができない)。姿を見ることもほとんどないため、主人公というよりはプレイヤーの分身、観客としての役割が付与された人物だといえる。途中からクサビ(後述)によって「デカチン」とニックネームをつけられ、以後デカチンと呼ばれる。
クサビ テツゴロウ・・・24署凶悪犯罪二課特別捜査官。40代後半の自他共に認めるオヤジである。かつて"シルバー事件"に関り、「カムイを逮捕した男」として生ける伝説となっている。"シルバー事件"の真実を知っているものと思われる。その豊富な経験からコトブキシンジ(後述)とともに凶悪犯罪課を立ち上げた。足で捜査するタイプの刑事で、その独特のスタイルは周囲から評価されているが、私生活はなおざりになっていて、ギャンブルに伴う慢性的金欠に陥っている。世の中で一番恐怖するのは娘に嫌われることで、そのために本気で禁煙を考えている。実質上の主人公といっていい。
コダイ スミオ・・・24署凶悪犯罪二課特別捜査官。痩身のイケメンで、クサビと行動を共にする。主人公(デカチン)に指示を与える場面も多く、非常に的確。しかし奇妙な幼児性の癇癪癖をもっており、大先輩のクサビに対して暴言を吐く場面もしばしばある。また、女に対してもフェティッシュな感情を持っており、彼の過去の秘密はストーリーに大きく絡んでいくことになる。
コトブキ シンジ・・・24署凶悪犯罪課を統べる犯罪本部本部長。通称"オヤジ"。大きなサングラスを常時かけており、独特の風貌はまるで一昔前の刑事ドラマにも比せられる。前線で捜査することはないが、組織の何たるかをしり、後方で強力なバックアップを行う傍ら、時に冷酷な判断も下す信頼できる指導者である。
モリカワ キヨシ・・・24署凶悪犯罪一課特別捜査官。サングラスと革ジャンを着こなすナイスガイである。凶悪犯罪課設立前からクサビやコトブキと行動しており、初期からのメンバーの一人である。その独特のコネクションや非合法の情報屋などから独自の情報を集め、捜査を行う。"シルバー事件"に関しては当時、多くを知らなかったようであり、現在コトブキにシルバー事件を再捜査するよう命じられており、徐々にその謎に近づきつつあるようだ。
ハチスカ チヅル・・・24署凶悪犯罪一課特別捜査官。25歳。24区長ハチスカカオルの娘である。科学捜査研究所出身で、科学捜査、プロファイリングなどを得意とするが、その手法は周囲から煙たがられている。父の名を出されることを嫌う。成熟して理性的な意見を述べる一方で、非常に感情の起伏が激しく、周囲を戸惑わせる場面もある。
ナカテガワ モリチカ・・・24署凶悪犯罪一課特別捜査官。公安出身。様々な顔を持ち、多くの組織に関わっていた経歴から、組織内に強力なコネクションを構築。凶悪犯罪課において年輩のクサビやモリカワを差し置いてコトブキにつぐ実力者としての地位を確保している。髪は常にオールバック、ブランド物のスーツを着こなす都会派であり、基本的にはクールな大人の男である。しかし一転、女性に対する言動が分裂症的で、自称国際フェミニスト連合書記長を名乗っており、女性に対する言動も基本は理性的である傍ら、急に下劣で変態的な行動をとってはしゃぐなどちょっとした理性のほころびが独特の魅力を形成している。ネット上での人気が高い。
サカグチ ダイキチ・・・中央警察捜査相談室直事相談役。やたら長い肩書きだが、旧体質な捜査しか知らず、使い物にならなくなった者が送り込まれる窓際職である。壮年の男性で独特の禿頭ともパーマともつかない髪形で、周りから「アフロ」といわれる。そして彼はそのことを極度に嫌っている。古い体質の捜査に固執し、コトブキら凶悪犯罪課とは対立関係にあるが、自身は確固たる信念を持っており、一身に代えても守るべきものがあると確信しており、コトブキとは互いに牽制しあっている。
コウサカ ミチル・・・中央警察捜査相談室直事管理官。中年の男性。一本気で筋を通すところがあり、サカグチを古い体質の人間だとわかっていながらそれでも慕っている。
ムナカタ リュウ・・・デスファイリング特別捜査官。"デスファイリング"とは未だ発展途上の捜査方法であり、結構暇らしい。"シルバー事件"の際、クサビとも同僚であったらしく、いまだに交流を持っている。バッティングセンターでクサビと落ち合い、情報交換をすることが多く、かなり重要な情報を握っているようだ。大事件が起こる直前になると、治療済みの奥歯が痛み出すという超能力(?)を持っていると称して憚らない。
[編集] [Placebo]
モリシマ トキオ・・・24区在住のフリーライター。幼少時の記憶がなく、そのことは事件に関わっていくことになる。元々大きな通信社に勤務していたが「言うのも情けないような」理由で退社。そのあとは郊外のマンション「タイフーン」でペットの亀「アカミミ」とともに自堕落な日々を送っている。自分の編集日誌を日記のように記すのが癖であり、その日記はこのシナリオにおいて大きなウェイトを占める。24区内のバー「ジャック・ハマー」には常連。
ユカワ エリカ・・・モリシマの元同僚であり、恋人でもある。現在はモリシマの元上司イノハナの妻である。事件の途中で再びモリシマと出会い、時折行動を共にする。かつてはモリシマの冷酷な自分勝手さに呆れて別れたという。
エンザワ カイジ・・・モリシマがショッピングセンターでカムイと邂逅する前に、カムイを街中で目撃した男。情報提供を受けてモリシマと接触する。中年のサラリーマンでカムイのことを半ば信奉しているため、モリシマからは気味悪がられており、信用されていない。カムイのことを「新月のようでした」と表現する。
[編集] 特徴
「フィルムウィンドウ」と呼ばれる独特の形式を採用しており、場所と時間と映像と話者などがプレイヤーに一度に認識でき、躍動感のある画面が特徴的。また、より特徴的なのはゲームオーバーやシナリオ分岐といったものが一切存在せず、謎解きの場面もいくつかあるが付属説明書にヒントが記載されているなど、従来のゲームとは明らかに一線を画した実験的試みが施されている。 それを補うためというわけではないが、設定とストーリーが非常に複雑に構成されており、一度プレイをしただけでは理解に難解を極め、何度もクリアを重ねる者も多い。 また登場人物のセリフにも遊び心が加えられていて時に哲学的であり時に喜劇的な会話は魅力的である。劇中の音楽も高い人気があり、サウンドトラックが重版されている。 このような全編を通してハイクオリティでスタイリッシュな作品として一部で非常に高い人気を誇っている。
[編集] 関連項目
- 花と太陽と雨と
- シルバー事件25区