コオロギ
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コオロギ上科 Grylloidea | ||||||||||||
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灯火に飛来したエンマコオロギのメス |
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分類 | ||||||||||||
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本文参照 | ||||||||||||
英名 | ||||||||||||
Cricket |
コオロギ(蟋蟀)は、バッタ目・(直翅目)・キリギリス亜目(Ensifera)に分類される昆虫のうち、地上性か地中性で、体が黒っぽいものの総称である。
おもにコオロギ上科(Grylloidea)に属する昆虫を指し、日本ではコオロギ科・コオロギ亜科に分類されるエンマコオロギやツヅレサセコオロギなどが代表的な種類として挙げられる。ただし人によって「コオロギ」の概念は異なり、コオロギ上科の中でもスズムシ、マツムシ、ケラなどを外すこともあれば、コオロギ上科でないカマドウマやコロギス、ヒメギスなどを含むこともある。
目次 |
概要
成虫の体長は1cm-数cmほどだが、アリヅカコオロギ、マダラスズ、シバスズなど数mmしかないものもいる。日本に分布するコオロギで最大種は体長3cm前後のエンマコオロギやケラだが、日本以外には5cmを超える種類も多い。
「世界最大のコオロギ」は、ニュージーランドに分布するウェタ(Weta)という一群が挙げられる。中でもジャイアントウェタ Deinacrida spp. には体長15cmを超えるものがいる。ただしこれらはコオロギ上科ではなく、カマドウマ上科かコロギス上科に分類される。
体の構造
体は黒-茶色のものが多く、太短い円筒形か紡錘形の体つきをしている。頭部には体長以上はある毛髪状の触角を持つ。また、尾部にも後ろ向きに2つの尾毛があり、これも触角同様周囲の様子を探る感覚器である。
脚の中では後脚が特に長く太く発達し、移動や逃走の際には後脚を利用して跳躍するものが多い。また、前脚脛節のつけ根に耳を持ち、これで周囲の物音や他個体の鳴き声を聞き取る。
成虫には昆虫の翅があり、翅を使って飛翔する種類がいる。その一方で前後の翅が鱗状に退化したものもいる。
オス成虫の翅にはやすり状の発音器や共鳴室があり、発音器をこすり合わせて「鳴く」ものが多い。翅を使って鳴く種類のオスとメスを比べた場合、メスの前翅の翅脈は前後に直線的に伸びるが、オスの翅脈は複雑な模様を描く。中にはメスに翅がなく、オスに鳴くための前翅だけがあるカネタタキのような種類や、オスは羽化後に後翅が取れてしまう種類もいる。
また、メスの尾部には長い産卵管があり、産卵の際に土中や植物の組織内に産卵管を差しこむ。
生態
田畑、草原、森林、人家の周囲などの地上に生息するが、乾燥地、湿地、山地、海岸など環境によって見られる種類は異なる。ほとんどのコオロギは夜行性で、昼間は草地や石の下、穴など物陰に潜むことが多い。中には洞窟性のものやアリヅカコオロギのようにアリの巣に共生するものもいる。触角、尾毛、耳などの感覚器や鳴き声はこれらの暗い空間に適応したものである。夜間に地上を徘徊する種類には飛翔して灯火に飛来するものもいる。
完全な草食や肉食もいるが、ほとんどが雑食で、植物質の他にも小動物の死骸などを食べる。小さな昆虫を捕食したり、餌が少ない場合は共食いをすることもある。飼育下でも雑食性の種類は植物質と動物質の餌を適度に与えた方がよい。
天敵はカマキリ、クモ、ムカデ、カエル、トカゲ、鳥類などである。このような天敵に遭遇した時は後脚で大きく跳躍して逃走する。また、湿地に適応した種類は水面に落ちてもよく水に浮き、人間の平泳ぎのように後脚で水面を蹴ってかなりの速度で泳ぐ。
オスが鳴く種類は同種個体との接触に鳴き声を利用し、メスと出会って交尾するか、他のオスと戦って排除する。交尾が終わったメスは土中や植物の組織内に一粒ずつ産卵する。温帯地方に分布するものは秋に成虫が発生し、卵で越冬するものが多い。孵化する幼虫は小さくて翅がない以外は成虫によく似た体型をしており、成虫と同じ食物を摂って成長する。
利用
日本ではコオロギは身近な昆虫の一つで、「枕草子」の昔からその鳴き声を趣があるものと捉えていた。日本で多く聞かれるコオロギは「コロコロ…」「ヒヨヒヨ…」などと表現されるエンマコオロギだが、童謡「虫の声」に登場するコオロギの泣き声は「キリキリキリキリ」という擬態語で表現されており、カマドコオロギだと云われる。
その一方、大型種は食用や民間療法の薬として利用されることもある。日本では20世紀後半以降一般的ではなくなったが、21世紀に入ってもこれらの利用が行われる地域は世界各地に存在する。
コオロギの飼育は容易で、愛玩用や食用以外にもカエルやトカゲ、大型肉食魚など肉食動物のための手軽な餌として大量に繁殖、販売されている。
闘蟋
中国では闘蟋(とうしつ)と呼ばれ、秋にコオロギの雄同志を喧嘩させて楽しむ昆虫相撲競技がある。かつて唐の宮廷で始まったともいわれ、宋代には宰相の賈似道がコオロギ相撲のための飼育書を著している。その後、宮廷のみならず民衆の間にも娯楽として普及した。映画『ラストエンペラー』でも描写された娯楽である。
分類
コオロギ上科(Grylloidea)の分類群を以下に示す。コオロギ科(Gryllidae)が最大の科で、多くの亜科に分かれる。亜科を独立した科として扱うこともあれば、他の科をコオロギ科の亜科として組み込むこともある。
- †Baissogryllidae - 化石種のみ
- コオロギ科 Gryllidae
- Brachytrupinae
- Cachoplistinae - スズムシをここに分類する説あり
- Eneopterinae - マツムシ
- Euscyrtinae
- コオロギ亜科 Gryllinae - エンマコオロギ、ツヅレサセコオロギ、ミツカドコオロギ、オカメコオロギなど
- Gryllomiminae
- Gryllomorphinae
- †Gryllospeculinae - 化石種のみ
- Hapithinae
- Itarinae
- Landrevinae
- Luzarinae
- Malgasiinae
- マダラスズ亜科 Nemobiinae - マダラスズ、シバスズなど
- カンタン亜科 Oecanthinae - カンタン、ヒロバネカンタンなど
- Paragryllinae
- Pentacentrinae
- Phaloriinae
- Phalangopsinae - スズムシ
- マツムシモドキ亜科 Podoscirtinae - アオマツムシ
- Pteroplistinae
- Rumeinae
- Sclerogryllinae
- Tafaliscinae
- クサヒバリ亜科 Trigonidiinae - クサヒバリ
- 亜科不明 - 化石種を中心に15属
- ケラ科 Gryllotalpidae - ケラなど
- カネタタキ科 Mogoplistidae - カネタタキ
- アリヅカコオロギ科 Myrmecophilidae - アリヅカコオロギ
- †Protogryllidae - 化石種のみ