イグノーベル賞
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イグノーベル賞 (Ig Nobel Prize) とは「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して与えられる賞である。ノーベル賞のパロディ的な賞で、1991年に創設された。 イグノーベルの名は、「ノーベル賞」に反語的な意味合いの接頭辞を加えたもじりであると共に、「卑劣な、あさましい」を意味する"ignoble"と掛けている。
同賞には、工学賞、物理学賞、医学賞、心理学賞、化学賞、文学賞、経済学賞、学際研究賞、平和賞、生物学賞などの部門がある。 毎年10月、風変わりな研究を行ったり社会的事件などを起こした10の個人やグループに対し、時には笑いと賞賛を、時には皮肉を込めて授与される。
同賞を企画運営するのは、サイエンス・ユーモア雑誌「風変わりな研究の年報」(Annals of Improbable Research)と、その編集者であるマーク・エイブラハムズ。 共同スポンサーは、ハーバード・コンピューター協会、ハーバード・ラドクリフSF協会など。 授賞式は毎年10月、ハーバード大学のサンダーズ・シアターで行われており、「本物の」ノーベル賞受賞者らも出席する。本物のノーベル賞は式の初めにスウェーデン王室に敬意を払われるがイグノーベル賞ではスウェーデン風ミートボールに敬意を払う。受賞者の旅費、滞在費は自己負担で式のスピーチでは聴衆から笑いをとることが要求される。制限時間が近づくとヌイグルミを抱えた少女が受賞者の裾を引っ張り壇上から下ろそうとするが、この少女を買収することによってスピーチを続けることが許される。授賞式の間、観客が舞台に向かって投げ続ける紙飛行機の掃除夫は、例年ハーバード大学の物理学者ロイ・グラウバー(2005年のノーベル物理学賞受賞者)が勤めている。
同賞の性質上、名誉と考える受賞者もいれば、不名誉と考える者もいる。また、受賞者を皮肉り、諷刺している側面もある。 例えば1996年の平和賞は、「広島への原爆投下50周年を記念して太平洋で核実験を行った」ことに対しフランスのシラク大統領に贈られたほか、1999年の科学教育賞は進化論教育を規制しようとしたカンザス州教育委員会ならびにコロラド州教育委員会に贈られた。 また、疑似科学の研究者に対しても賞が贈られており、ホメオパシーの信奉者ジャック・ベンベニストには2度もイグノーベル賞が贈られている。
一方で、脚光の当たりにくい分野の地道な研究に人々の注目を集めさせ、科学の面白さを再認識させてくれるという点も指摘されている。
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[編集] 2006年の受賞者
2005年以前の受賞者は、イグノーベル賞受賞者の一覧にて。
- 鳥類学賞
- アイヴァン・R・シュワブ(Ivan R. Schwab, カリフォルニア大学デービス校)
- 故フィリップ・R・A・メイ(Philip R.A. May, カリフォルニア大学ロサンゼルス校)
- 栄養学賞
- ワスミア・アル=フーティー(Wasmia Al-Houty, クウェート大学)
- ファテン・アル=ムッサラーム(Faten Al-Mussalam, クウェート環境庁)
- 平和賞
- 十代の若者には聞こえるが大人には聞こえない不快な高周波ノイズを発する電子式ティーンエイジャー撃退機を発明したことに対して。また同じ技術を、十代の学生には聞こえるが大人の教師には聞こえない携帯電話呼び出し音に応用したことに対して。
- 店にたむろする少年達に対し、「モスキート」と名づけられた機械を使うことで店内から追い払うことに成功したニュースが世界で報じられたが、この技術は若者によって授業中の電話に逆用されている。
- 音響学賞
- D・リン・ハルパーン(D. Lynn Halpern, ハーヴァード・ヴァンガード・メディカル・アソシエイツ、ブランダイス大学、ノースウェスタン大学)
- ランドルフ・ブレイク(Randolph Blake, ヴァンダービルト大学、ノースウェスタン大学)
- ジェームズ・ヒレンブランド(James Hillenbrand, ウェスタンミシガン大学、ノースウェスタン大学)
- 数学賞
- ニック・スヴェンソン(Nic Svenson)とピアス・バーンズ(Piers Barnes)(オーストラリア国立科学技術研究機構)
- 集合写真を撮る際に誰も目をつぶっていない写真を撮るためには、何人いる場合何枚撮れば確実か、計算したことに対して。[5]
- 文学賞
- ダニエル・オッペンハイマー(Daniel Oppenheimer, プリンストン大学)
- 彼のレポート、『博学な専門的用語の使用は必要性とは無関係なこと:必要なく長い単語を使用することにおける問題(Consequences of Erudite Vernacular Utilized Irrespective of Necessity: Problems with Using Long Words Needlessly.)』に対して。[6]
- 書き方・話し方の入門書では、難しすぎる言葉を使うことは避けるよう薦めているにもかかわらず、大学生の多くは自らを知性的に見せるために複雑な語彙の使用を増やしている。これは本当に知性的に見えるかどうかの実験を行ったレポートであるが題名自体が不必要に複雑である。
- 医学賞
- フランシス・M・フェスミア(Francis M. Fesmire, テネシー大学医学部)
- マジェド・オデー(Majed Odeh)、ハリー・バッサン(Harry Bassan)、アリエ・オリーベン(Arie Oliven)(イスラエル・ハイファ、ブナイ・シオン医学センター Bnai Zion Medical Center)
- 彼らが続けて発表した医学事例に関する同様の報告、『直腸に対する指を使ったマッサージによる、止まらないしゃっくりの停止』(1990年)に対して[8]
- 物理学賞
- バジル・オドリ(Basile Audoly, フランス・パリ、ピエール・アンド・マリー・キュリー大学)
- セバスティアン・ノイキルヒ(Sebastien Neukirch, フランス・パリ、ピエール・アンド・マリー・キュリー大学)
- 乾燥したスパゲティを曲げると、二つに割れずそれ以上の数の破片になってしまうのは何故か、についての洞察に対して。(参考文献:『カスケード状のひび割れによる棒の分裂:なぜスパゲティは半分に割れないか Fragmentation of Rods by Cascading Cracks: Why Spaghetti Does Not Break in Half』、2005年、詳しい映像)
- 化学賞
- アントニオ・ムレット(Antonio Mulet, スペイン、バレンシア大学)
- ホセ・ハビエル・ベネディト(José Javier Benedito, スペイン、バレンシア大学)
- ホセ・ボン(José Bon, スペイン、バレンシア大学)
- カルメン・ロッセリョー(Carmen Rosselló, スペイン、パルマ・デ・マヨルカ、バレアレス諸島大学)
- 生物学賞
- バルト・クノルス(Bart Knols、オランダ・ヴァーゲニンゲン農業大学、タンザニア・イファカラ・センター内国立医学研究所、オーストリア・ウィーン・国際原子力機関)[9]
- ルールド・デ・ヨン(Ruurd de Jong, オランダ・ヴァーゲニンゲン農業大学、イタリア・サンタ・マリア・デッリ・アンジェリ)
[編集] 日本人の受賞一覧
- 1992年
- 医学賞:「足の匂いの原因となる化学物質の特定」という研究に対して - 神田不二宏(資生堂研究員)ら(参考文献 F. Kanda et al., "Elucidation of Chemical Compounds Responsible for Foot Malodour," British Journal of Dermatology, Vol. 122, No. 6, pp. 771-6 (1990).)
- 1994年
- 1995年
- 1996年
- 1997年
- 1999年
- 化学賞:夫のパンツに吹きかけることで浮気を発見できるスプレー「Sチェック」を開発した功績に対して - 牧野武(セーフティ探偵社)
- 2002年
- 2003年
- 2004年
- 2005年
- 生物学賞:131種類の蛙がストレスを感じているときに出す特有のにおいを全部嗅ぎ分けてカタログ化した、骨の折れる研究『においを発するカエルの分泌物の機能と系統発生的意義についての調査』に対して - 早坂洋司(オーストラリアワイン研究所)(参考文献 B. P. C. Smith et al., "A Survey of Frog Odorous Secretions, Their Possible Functions and Phylogenetic Significance," Applied Herpetology, Vol. 2, No. 1-2, pp. 47-82 (2004).)
- 栄養学賞:34年間、自分の食事を撮影し、食べた物が脳の働きや体調に与える影響を分析したことに対して - 中松義郎(ドクター中松)
[編集] 批判
イギリス政府の主任科学アドバイザー、ロバート・メイは1995年、「大衆がまじめな科学研究を笑いものにする恐れがある」と、イグノーベル賞の運営者に対しイギリス人研究者に今後賞を贈らないよう要請した。この主張に対し、イギリスの科学者の多くからは反発・反論が起こった。メイの要請にもかかわらず、1995年以後もイギリス人にはイグノーベル賞が贈られ続けている。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
[編集] 参考文献
- マーク・エイブラハムズ 『イグ・ノーベル賞』 阪急コミュニケーションズ。 ISBN 4-484-04109-X
- マーク・エイブラハムズ 『もっと!イグ・ノーベル賞』 ランダムハウス講談社。 ISBN 4-270-00091-0