イクラ
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イクラ(ロシア語:икраイクラー;ikra)とは、筋子の卵巣膜(卵を包む薄い膜)を取り除き、産卵前の熟した卵を1粒ずつに分けた物。 塩漬けや醤油漬けにして火を通さずに食べる事が多い。
ロシア語に由来する名称で、原語では魚の卵一般のこと、日本でいういわゆるイクラはロシアでは「赤いイクラ」(красная икраクラースナヤ・イクラー)と呼ばれる。一方、「黒いイクラ」(черная икраチョールナヤ・イクラー)はキャビアのことである。ウクライナ語では「ікра」。
[編集] 概要
元々はロシア語で、「魚卵」・「小さくて粒々したもの」という意味であり、ロシアにおいてはキャビアもたらこもすべてイクラであるが、日本においてはサケ科の卵をばらした物のみを限定的に指し示す。
また、日本語における「イクラ」の本来の意味は「サケ科の卵をばらした物の塩漬け」であり、本当は生やしょうゆ漬けは「イクラ」とはいえない(広辞苑第五版には「サケ・マスの卵を塩漬けにした食品」と書いてある)。しかし、実際には「ばらしたサケ科の卵」のことを「イクラ」とよぶ人も多い。
日本に伝わったのは大正時代で、ロシアから伝えられた製法を樺太庁水産試験場が保存の利く塩蔵品を試験的に製造したのが始まりであったが、現在ではやや甘口の醤油漬けが主流になり、イクラ丼やイクラの寿司が、特に子供の人気メニューとなっている。
日本においては白鮭の卵が主流であるが、ロシアで使用されるのは樺太鱒(ピンクサーモン)の卵であり、これを原料とした物を日本では特にマスコ、マスイクラとして区別する場合がある。その他の魚卵を使った際の別名は名称は「筋子」の項を参照の事。
筋子はたらこの様に粒が薄膜に包まれているのではなく、すべての粒がごく薄い膜でつながっている。 この為、これをイクラに加工するには、テニスラケットのような目の粗い網の上に抑えつけて揉む必要がある。 未熟卵はまだ皮が弱く、この工程に適しておらず、ある程度成熟した物がイクラの加工に適した物となる。 ただし、すでに河川に入り遡上をはじめた魚の物は、ほぼ完全に卵がほぐれて、ゴムまりのように硬くなっており食用には適さない。
サケは産卵のために、北太平洋のカムチャツカあたりから南へ下ってくる。 北海道では8月後半から9月初めにかけて、秋鮭漁が解禁となる。その後サケはさらに南に下り、11月になると三陸や新潟まで下るのである。
北海道で解禁となった当初は、まだ未熟卵であり、粒が小さく皮も弱い。この時期の卵は、イクラに揉むことはもちろん、冷凍さえも難しい。粒の皮が弱いため、冷凍したときに皮が破れやすいからである。 この時期のものは、主に筋子として流通される。
10月くらいになると、卵が成熟してきて、イクラに適した状態になってくる。 11月になり、本州に下ってくると、さらに卵は成熟する。粒はさらに大きくなり、皮が堅くなってくる。したがって、通常は北海道産のイクラより、三陸産のイクラの方が、粒が大きくしっかりしている。 さらに成熟が進むと、粒の皮が堅くなりすぎて、食べたときに口に残るようになる。
なお、イクラの皮は消化されにくいため、アレルギー源となりやすい蛋白質である。
北海道では秋の味覚として家庭で生筋子からイクラを作るが、その際には湯につけて手で丁寧に皮を取り除き、ばらこにする。 湯につけるため白く濁ってしまうがその後の工程でまた色が戻る。
[編集] 人工イクラ
現在では、収穫量の少ない天然物の代わりに、サラダ油と海草エキスを主原料とした人工イクラも出回っている。 本物のイクラは熱湯をかけるとタンパク質が変化して表面が白く濁るため、見分けることができる。 ちなみに人工イクラはカロリーが低いため、ダイエット食品としての利用もある。