アン (イギリス女王)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||
アン（Anne Stuart、1665年2月6日 - 1714年5月1日）は、最後のイングランド王国・スコットランド王国の国王（在位：1702年4月23日 - 1707年4月30日）で、最初のグレートブリテン王国国王（在位：1707年5月1日 - 1714年5月1日）、及びアイルランド女王。ステュアート朝最後の君主でもある。ブランデー好きであったことから、ブランデー・ナン (Brandy Nan) としても知られている。
[編集] 即位以前
1665年ヨーク公ジェームズ（後のジェームズ2世）と、その妃アンの次女として生まれた。姉にメアリー2世がいる。
プロテスタントとして育てられたが、教育があまりなく、読書や芸術よりスポーツや乗馬を好んだ。ヨーク公の宮廷の女官で、のちにマールバラ公ジョン・チャーチル夫人となるサラ・ジェニングスは少女時代からの親しい友人である。
1683年7月28日、デンマーク王クリスティアン5世の弟ゲオルク（ジョージ、生没年：1653年 - 1708年）と結婚した。ゲオルクは1689年にカンバーランド公に叙されている。夫婦仲はよく、毎年のように妊娠したが（合計17回）、双子を含め6回の流産、6回の死産を経験した。1685年に産まれたメアリ、1686年に産まれたアン・ソフィアは2年も経たないうちに天然痘で命を落としている。1689年7月、ハンプトン・コート宮殿でグロスター公爵ウィリアムを出産した。しかしウィリアムも生来の水頭症がたたり、11歳の時に猩紅熱で命を落とすことになった。1690年に産まれた女児、1692年に産まれた男児もそれぞれ生後数時間で死亡している。アン女王の死後、1714年にケンジントン宮殿で遺体解剖されたが、内臓に異常はなく、腹水もなく、何故ここまで子宝に恵まれなかったかは未だに謎とされている。
1688年の名誉革命では、姉の夫で従兄でもあるオランダ統領（総督）のオラニエ公ウィレム3世がイングランドに上陸すると、父ジェームズ2世のもとからウィレムのもとに投降した。ジェームズ2世が追放された後、姉メアリーとその夫ウィレムがメアリー2世とウィリアム3世として共に即位するが、2人に子がなかったので、早くから王位継承者の候補と目されるようになった。
しかし1692年、ジェームズ2世の元の寵臣であった将軍マールバラ伯ジョン・チャーチルが、旧主ジェームズと極秘裏に通信した疑惑により投獄されたとき、マールバラがアンの友人サラを妻としていたためにアンはその投獄に反対し、メアリー女王と仲違いした。この事件以降、アンはメアリー女王と絶交状態であった。
[編集] 治世
メアリー2世が1694年に死去した後、単独統治を続けていたウィリアム3世が1702年に没すると、アンがイングランド、スコットランド、アイルランドの女王に即位した。夫ゲオルクは「女王の配偶者」（Prince Consort）および海軍総司令官の地位を与えられたが、統治者としての君臨は行わなかった。
アンが即位したとき、先王の生前に準備されていたスペイン継承戦争が本格化し、イングランドはオランダとともにオーストリアと同盟して、フランスおよびスペインと戦うことになった。アンは友人の夫マールバラ伯をイングランド軍総司令官に任命してフランドル・ドイツに派遣し、マールバラ伯の友人シドニー・ゴドルフィンを大蔵卿に任命して戦争を遂行させた。
マールバラ伯はネーデルラント戦線（現ベルギー）で大きな戦果を挙げ、アンは彼をマールバラ公爵に叙任した。1704年にはマールバラ公は南ドイツで行われたブレンハイムの戦いでフランス軍を破る大戦果をあげ、その後もフランドル方面で戦勝を重ねた。
また、スペインとの戦いでは、イギリス艦隊がスペインのジブラルタルを陥落させた。イギリスとフランスが北アメリカの植民地で繰り広げた戦いはアン女王戦争と呼ばれているが、こちらは決着がつかなかった。
戦争中の1707年5月1日には、イングランド・スコットランド両国の合同法が成立し、ジェームズ1世以来100年に渡って同君連合を結んできた両国は、正式に統合されたグレートブリテン王国になった。アンはグレートブリテン王国最初の君主となった。なお、統合が成立した背景には、後述の王位継承問題が絡んでいた。
[編集] 晩年
マールバラ公爵夫人となったアンの友人サラは、女王の側近にあって夫の代弁者となり、戦争の遂行を女王に進言していたが、次第に女王は和平推進派に傾き始め、サラを疎むようになった。1710年、アンはついにサラを宮廷から追放した。また同年に行われた選挙の結果、和平推進派のトーリー党が政権の座についた。この事件の結果、マールバラ公の軍資金横領疑惑の調査が行われ、翌年に横領が報告されて、マールバラ公は失脚した。主戦論者マールバラの失脚でスペイン継承戦争は和平交渉が開始され、1713年にユトレヒト条約が締結された。この条約でイギリスは、現在に至るまで領有しているジブラルタルなど複数の海外領土を獲得した。
アンには成人した子がいなかったので、アンの即位前から将来の王の後継者は問題となった。アンには父ジェームズ2世に従ってフランスに亡命した異母弟のジェームズ（老僭王）がいたが、ジェームズはカトリック信者であり、プロテスタント中心で、かつカトリックの王による専制復活を警戒する議会勢力は、その即位を望まなかった。そこで、ステュアート家の血を引きプロテスタントである、ジェームズ1世の外孫ソフィア（ハノーファー選帝侯妃ゾフィー）の子孫が継承者となるべきことを定めた王位継承法が議会で制定された。
アンが1714年に死去するとステュアート朝は断絶し、ソフィアの長男であるハノーファー選帝侯ゲオルク・ルートヴィヒがジョージ1世として即位した。
アンは肥満体質でどこへ行くにも輿に乗っていたが、晩年は全く歩くことができないほど肥満が進み、宮殿内を移動するにも車イスを使っていた。1714年に死去した時、その棺桶は正方形だったと言われる。
- イングランド女王
スコットランド女王 - 1702 - 1707
-
- 次代:
- （統合）
- グレートブリテン女王
- 1707 - 1714
-
- 先代:
- ―
- 次代:
- ジョージ1世
