高尿酸血症
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高尿酸血症(こうにょうさんけっしょう)とは、人間の血中に存在する物質尿酸の血中濃度が異常に高い状態を言う。正確には、血中濃度が7mg/dLを越えると高尿酸血症である。
DNAの合成に不可欠な物質であるプリン体の産生過剰あるいは排泄低下がその原因である。先天性の原因としては、HGPRT欠損症(レッシュ・ナイハン症候群)やAPRT欠損症が知られている。APRT欠損症は、日本人にしか見られない。弥生時代の一人の日本人におこった突然変異が原因であるという。後天性の原因としては、薬物(利尿薬、アスピリン)、悪性腫瘍などがある。
ただし、これらのはっきりとした原因がないものがほとんどである。アルコール、特にビールの摂取が明らかな危険因子である。詳細に検討すると、高尿酸血症をおこす患者は、尿酸の排泄が低下している患者と産生が亢進している患者にわけられる。日本では尿酸排泄低下型が60%、産生亢進型が20%、混合型が20%をしめる。
実のところ、人間は尿酸を代謝する酵素ウリカーゼをもっていないから高尿酸血症をひきおこす(下流をせき止められた川の状態である)。霊長類を除く多くのほ乳類はウリカーゼを有しており、尿酸をアラントインに代謝することができるため先天性の原因がないかぎり高尿酸血症がおこることはない。ウリカーゼは、さらに下等な動物にもみられる。なぜ人間を含む霊長類がウリカーゼを失ってしまったかは明らかではないが、何らかの時代において突然変異によりウリカーゼを失ってしまった霊長類がその環境に適していた可能性はある。あるいは、ある時代の霊長類は肉・魚を主なエネルギー摂取源としなかったため体内へのプリン体の蓄積がなく、ウリカーゼがないことが生存について問題がなかったというのもありうる仮説である。
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[編集] 症状
特にない。
[編集] 原因
尿酸は産生と排泄のバランスが保たれているので、正常では一定の範囲の値をとる。このバランスが崩れることによって高尿酸血症になる。バランスの崩れ方で二通りに分類される。
[編集] 産生過剰型
[編集] 排泄低下型
[編集] 合併症
- 痛風
- 激痛を伴う関節炎 で、足の親指側の中足趾関節というところに好発する。初発で50%、二回目以降で90%がそこに発症する。
- 痛風結節
- 手足、耳介の皮下に生じることが多い。関節周囲にも生じる。高尿酸血症の治療ができなかった時代には多くみられたらしい。今では、医療機関への受診が不十分な患者でまれに見る程度である。
- 尿酸結石
- 尿路結石症の一つであり、背中に激烈な痛みを引き起こす。
- 腎障害
- 尿細管への尿酸の沈着がその原因であり、間質性腎炎の形態をとる。進行すると腎不全を引き起こすこともある。
[編集] 検査
- 血清尿酸値>7.0mg/dLが、絶対的な診断基準である。
[編集] 治療
- 食事療法
- もっとも重要なことは、アルコールの適正な摂取である。特にビールの摂取量は少ないほうが好ましい。
- 食事の影響はそれほど強くはないものの、牛肉などプリン体の多い食事は制限するべきと考えられている。
- 水分の摂取を多くすれば、尿酸の尿中への排泄が促進され発作を予防する。
- 薬物療法
- 米国のガイドラインが、痛風発作をおこしていない高尿酸血症患者に対する治療を推奨していないことから、やや現場に混乱がある。ただ、米国の考え方にはコストの考えが強く働くため慎重に見極める必要がある。日本では、痛風をおこしたことがなくても血清尿酸値>9.0mg/dLが薬物療法の適応と考えられている。尿酸産生亢進型の患者には尿酸合成阻害薬(アロプリノール)、尿酸排泄低下型の患者には尿酸排泄促進薬(ベンズブロマロン、プロベネシド)を使用するのが原則である。ただし、尿酸排泄促進薬は尿中の尿酸値を増大させ尿酸結石のリスクとなる。尿中pHが5以下の患者では、尿をアルカリ化するためウラリット(クエン酸ナトリウム製剤)を内服しなければならない。