電線類地中化
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電線類地中化(でんせんるいちちゅうか)とは電線や通信線等および関連施設を地中に埋設すること。防災と景観の改善、路上スペースの確保を目的に行われる。電線地中化、電柱地中化などとも言う。本来、無電柱化は異なる概念であるが、誤解を明らかにすることも含め本記事で扱う。
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[編集] 無電柱化と地中化
無電柱化は、電柱を用いず、地中化や裏配線、軒下配線などを活用して各戸へ引き込むことである。地中化は無電柱化の一つの手段と言える。ただし、地中化の方式には少数の電柱を伴うものもある。ロンドンやパリでは無電柱化率が100%であるが、必ずしも全て地中化されている訳ではなく、裏配線なども含めたものである。
地中化以外の無電柱化として主なものに、裏配線と軒下配線がある。
- 裏配線
- 無電柱化したい主要な通りの裏通り等に電線類を配置し、主要な通りの沿道の需要家への引込みを裏通りから行い、主要な通りを無電柱化する手法である。
- 軒下配線
- 無電柱化したい通りの脇道に電柱を配置し、そこから引き込む電線を沿道家屋の軒下または軒先に配置する手法である。
[編集] 地中化の方式
- 完全地中化(CAB)
- 電線共同溝(C.C.BOX)
- ソフト地中化
[編集] 地中化の課題
電線類の地中化には様々な課題がある。
- 電線類を地中化する際には、道路や私有地内での調査・工事などが必要になる。これは、数ヶ月にわたることもある。これが住民からの反対の原因となることがある。特に商店街などでは反対が大きい。
- 地中にはガス管や上水道・下水道管などがある。地面を掘り返す際には、電線の他にガスや上水道・下水道の管理計画と連動する必要がある。また、明治期頃に埋設されたガス管などは、正確な位置が分かっていないことも多く、地中化には慎重を要する。
- 電線類地中化地域に新しく家を建てる場合、そうでない地域に比べ、地中工事費を余計に負担しなければならなくて出費がかさむ場合があり、費用に格差が生じている。
- 道路から電柱が無くなっても、電柱に付属していた街灯・道路標識・変圧器などが独立して設置されるので、かえって邪魔になる場合もある。特に地上に設置される変圧器は電柱よりも大きくて邪魔になりがちであり、高所にある場合より、いたずらや交通事故などの被害にも遭いやすくなる。
- 道路に電柱が無くなると、地下管路を経由して、電線やケーブルを建物に引き込むことになるが、その割高な工事費や、通信会社が道路管理者に支払う必要がある管路使用料がネックとなり、光ファイバーや同軸ケーブル等の敷設を拒む通信会社が存在し、ブロードバンド普及の障害となっている。*日経パソコン *週刊朝日連載「ITにタックル」
[編集] 日本における取組み
昭和61年度から平成10年度までに、全国で約3,400kmの地中化が達成されている。これまでは、整備のしやすい大都市の幹線道路で行われてきたが、平成11年度からの事業計画では、これに加え重要伝統的建造物群保存地区などの歴史的な街並みを保全すべき地区、バリアフリー重点整備地区などの良好な都市・住環境を形成すべき地区なども対象として広げている。 本格的な法整備として、平成7年度に「電線共同溝の整備等に関する特別措置法」(平成7年3月23日法律第39号)が制定され、電線共同溝の建設及び管理に関する事項等が定められた。
[編集] よくある誤解
- 欧米は電線類地中化の先進国と言われているが、上で述べたように正確には無電柱化率である。実際大都市では地中化されていることも多いが、見えないよう裏庭などを配線されている場合も多い。また、これは必ずしも景観上の配慮ではない。例えばニューヨークでは、被覆技術がまだ無く、切れた電線に感電する事故が多かった。ロンドンでは、街灯を設置する際、ガス灯は地中化せねばならず、電灯と公平に競争させるため、電灯でも地中化することを義務付けたためである。また、郊外では電柱や電線が用いられている。
- 電線類地中化は防災に効果があることは事実であるが、災害で破損することがないわけではない。
- 阪神大震災では多くの電柱が倒壊したが、それらの電柱は電柱自体が揺れで倒壊した物より、建物の倒壊など電柱自体以外を原因とする場合が多い。(信号や街灯は地中化できないので、建物の耐震化なども災害対策上重要である) 震度7地域全体でも、本数上の大半の電柱は無事であった。電柱は安全基準を満たして設置されているので、電柱自体がとかく脆弱であるというのは誤解である。しかし、電線類は途中の一カ所でも断線すると、バックアップが無い場合、停電することがあるのは事実である。
- 幅員が狭く歩道が無い(もしくは狭い)道路の電線類を地中化して、邪魔になっている電柱が無くなれば、歩行空間が確保され歩きやすくなると単純に思いがちであるが、なかなか実際には、そうはうまくいかない場合が多い。なぜなら、電線を地中に埋める為には、その為のスペースが必要である。ところが、地中には上水道・下水道・ガスなどのスペースが必要であり、幅員の狭い道には余剰スペースがない場合が多い。また、車道に共同溝を作ると、車道に蓋が設置されることになる。車道にマンホールなどのように蓋があると、振動・騒音・事故の原因になるので、近年は車道から減らす方向に進んでいる。よって時代に逆行することになってしまう。結局、電線を埋めるためには、道路を拡張して幅員を広げざるを得ない場合が多い。なので、歩行空間確保のためには、電線類地中化だけではなく、まず道路拡張から始めなければならない場合も多く、相当高額な予算を必要とするので、幅員の狭い道路では、なかなか実現しないのが現状である。また、幅員が広くなり、広い歩道が確保された場合、電柱はあまり邪魔な存在ではなくなり、広い歩行空間確保の目的は道路拡幅時点でかなり達成されてしまう。つまり、幅員の狭い道路の場合、電柱を地中化すれば、歩行空間が広がるとはあまり言えず、むしろ、道路拡張が重要なのである。
以上の理由により、細街路や生活道路での地中化は困難を伴う。日本では現在、国土交通省が、幹線道路や歴史的街並みを保存すべき地区において地中化、無電柱化を推進している。