量子条件
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量子条件(りょうしじょうけん、ボーアの量子条件)とは、デンマークの物理学者ニールス・ボーア(Niels Bohr)が唱えた、水素原子内の電子が安定に存在するための条件。
電子に力が働くと電磁波が発生することが物理学の法則として知られている。原子核の周囲を回る電子は、電荷の間に働くクーロン力によって原子核に向かって常に引っ張られているので、電磁気学の法則からすれば、電子はその運動エネルギーを電磁波として放射してしまい、失った運動エネルギーの分だけ原子核に引き寄せられて急速に原子核に吸い寄せられるはずだった。しかし、現実には原子核の周囲を回る電子は電磁波を放射しないし、原子核と合体せずに運動を続けている。どのようなメカニズムが電子を安定させているかが物理学の大きな問題だった。
この矛盾を解決するためにニールス・ボーアは、ド・ブロイの唱えた物質波を電子に導入した。ボーアは原子核の周囲を回る電子の物質波は定常波でなければならないと主張した。これは原子核の周囲を運動する電子の軌道の長さが、電子の物質波の整数倍でなければならないということだった。もし整数倍でなければ、物質波の山と谷が重なって物質波は自分自身を打ち消してしまう。
ボーアの条件により、電子は原子核の周囲を回るときに、特定の軌道しかとることができないことが結論づけられる。これを原子軌道という。最も内側の原子軌道を回る電子は、それ以上原子核に近づけないので、原子核にそれ以上吸い寄せられることもなく安定して軌道を回ることができる。また、軌道に応じて電子のエネルギーの値が決まるので、電子は特定の飛び飛びのエネルギーしか持てないことになる。これをエネルギー準位という。電子が別の軌道に移るときは、エネルギー準位の差と同じエネルギーを与えられるか放出しなければならない。これは、原子はなぜ特定の波長の電磁波だけを放出したり吸収したりするのかという疑問をうまく説明するものであった。
量子条件で説明できないこともあった。水素原子以外の原子では、原子核の周囲を複数の電子が回っている。長い時間には全ての電子は電磁波を放出して最も内側の軌道を回るようになるはずであるが、実際には特定の軌道を回る電子の数は限られていた。この問題はパウリの排他原理によって解決された。
量子条件の別表現として、アーノルド・ゾンマーフェルトによる、
というものがある。hはプランク定数、pは一般化運動量、qは一般化座標、nは普通は正の整数である。(ボーア・ゾンマーフェルトの量子条件)