譜めくり
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譜めくり(英:page turner)、とは主に西洋音楽の演奏中に、演奏家の楽譜をめくること、また、そのための助手の事を指す。この助手は俗にフメクリストとも呼ばれる。
譜めくりは、奏者が自らできれば助手は必要ない。アンサンブルにおける弦楽器や管楽器の場合、普通は適宜譜がめくれるだけの頻度で休符があるので、一般に譜めくりのための助手は置かない。また、それが可能であるように楽譜の作成が工夫される。ただしオーケストラの弦楽器の場合には、2名で1冊の楽譜を読むのが習慣であるので、必要ならば2人の内ひとりが演奏を中断して譜めくりをする。
従って、譜めくりの助手は一般に譜めくりができるほどの休符が置かれることの少ない鍵盤楽器の演奏に付される。もちろん、特殊な場合はそれ以外の楽器でも譜めくりがつく。たとえば、ブライアン・ファーニホウの弦楽三重奏曲の日本初演に於いて、ヴァイオリンの超絶技巧的パッセージの連続中に、チェロ奏者がめくるということがあった。
17世紀までは鍵盤楽器でも譜をめくりながら余裕をもって演奏できるか、もしくは見開きで一曲が終わってしまう事も多く、譜めくりを特に必要とはしていなかった。18世紀に入り、モーツァルト以降のピアノソナタなどの大規模作品では、反復音型の連続性からどうしても片方の手でめくれない事態が生じ、譜めくり助手の必要性が高まったのであろうと推察される。
意外なほどに譜めくりの必要性を説いた教育書の歴史は古く、カール・チェルニーは「譜めくりはピアノソロの場合ピアニストの左側に位置する」と著作の中で記し、この風習は現在も守られている。もっとも、ピアノの性質上、ピアノ奏者は聴衆から向かって右を向いて演奏するのが通例であるから、ピアノ奏者の右に置いては譜めくりがピアノ奏者を隠してしまうから、当然ではある。鍵盤楽器の演奏のみに譜めくりが必要という風習の打破のために、チェルニー没後と前後してクララ・シューマンが著作権回避や楽譜の持ち運びの軽減等を理由に暗譜演奏を創始し、その演奏は非常に物議を醸した。「楽譜無しで弾くとは何事か」と怒る聴衆や専門家も数多かったものの、20世紀には暗譜演奏がヴァルター・ギーゼキング等によって推奨され、現在ではバッハからラフマニノフのピアノ音楽では暗譜演奏が常識とされている。
ピアノデュオではなぜかどの時代の作品でも常識的に譜めくりをつけた演奏が行われるが、ピアノ連弾の場合第2奏者の譜めくりは右に立つ。
譜めくりが最も多く見られる機会は、伴奏ピアノである。伴奏のピアノはアンサンブルの都合上、暗譜で演奏することは滅多にないからである。
オルガン演奏では譜めくりをつけることが常識的に行われているが、これは音栓助手を兼ねる目的でつけられる。近年のオルガンは音栓のプリセットの記憶もコンピュータによって容易になったので、譜めくりをつけずかつ暗譜演奏で臨むオルガン奏者もある。
とはいっても、カイホスルー・シャプルジ・ソラブジの「オプス・クラビチェンバリスティクム」のように演奏に4時間かかる作品では、譜めくり無しには演奏不可能とされておりジョナサン・パウエルやジョフリー・ダグラス・マッジも、演奏には譜めくりをつけている。現代音楽の演奏では演奏の難易度が高い場合に、譜めくりをつけることが多い。譜めくりのほうが間に合わないといったケースも、珍しくない。マウリツィオ・ポリーニも現代音楽の演奏に限り譜めくりをつけて臨んでおり、サルヴァトーレ・シャリーノのピアノ独奏の為の第五ソナタをハンブルク初演した際、譜めくりが指定のタイミングに間に合わないので、ポリー二自らが頭を振って指示を出した。
スヴャトスラフ・リヒテルは晩年、譜めくりをつけて演奏するスタイルに変化したが、「つけていない時代のほうが凄かった」と評価されることも多く、現在でも現代音楽以外のピアノ演奏で譜めくりをつけて演奏することを嫌悪する教育者も多い。しかし、暗譜演奏が常識化した時代は高々100年くらいに過ぎず、手がける作曲家の数も今とは比較にならないくらい少なかった。知られざる作曲家であった作品が次々と出版され、音楽遺産が膨大なものとなっている現代では、譜めくりをつけたピアノ演奏が特別の目的に限り見直されてもよいとみる教育者も少なくない。
ちなみに、この譜めくりをピアニストのアシスタントとして活用しようという作曲家も若干見受けられる。チャールズ・アイヴズは自作のヴァイオリンソナタの中で「譜めくりが低音クラスターでピアニストを妨害せよ」との注意書きがあり、この効果は非常に独創的である。マルコ・ストロッパは「譜めくりの人とあわせて20数個の鍵盤を無音で押え」る注意書きがあり、その無音で押えられた鍵盤から生まれる共鳴をコンピュータ・プログラムで制御するピアノとライヴエレクトロニクスの作品を生み出した。この作品は野平一郎氏によって日本初演された。