白熱 (映画)
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白熱 White Heat |
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監督 | ラオール・ウォルシュ |
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製作 | ルイス・F・エデルマン |
脚本 | アイヴァン・ゴフ ベン・ロバーツ (原案 ヴァージニア・ケロッグ) |
出演者 | ジェームズ・キャグニー エドモンド・オブライエン ヴァージニア・メイヨ |
音楽 | マックス・スタイナー |
撮影 | シド・ヒコック |
配給 | ワーナー・ブラザーズ |
公開 | 1949年9月2日(アメリカ本国) 1952年12月(日本) |
上映時間 | 114分 |
製作国 | アメリカ合衆国 |
言語 | 英語 |
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白熱(はくねつ 原題"White Heat")は、1949年製作のアメリカ映画。ラオール・ウォルシュ監督。ワーナー・ブラザーズ作品(モノクロ)。
マザーコンプレックスの残虐なギャングが、狂気と暴力の末に破滅に至る過程を描いた凄絶な犯罪映画であり、ギャング映画およびフィルム・ノワールの古典に数えられている。
[編集] ストーリー
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
凶悪ギャングのコーディ・ジャレット(ジェームズ・キャグニー)率いるギャング団は、列車を襲撃し乗務員を殺して現金を強奪した。そして同じ日に遠隔地であった事件の犯人として自首・収監され、アリバイを得るという知能策で強盗殺人の重罪を逃れる。
母親で犯罪の師でもあるマー・ジャレット(マーガレット・ウィンチェリー)に溺愛されて育ったコーディはマザコンのサディストで、自身も不貞な妻のバーナ(ヴァージニア・メイヨ)は愛想を尽かし、コーディの右腕であるビッグ・エド(スティーヴ・コクラン)と内通するようになっていた。
列車強盗をコーディ一味の仕業と見る捜査当局は、秘密潜入捜査官ファロン(エドモンド・オブライエン)を囚人に偽装して刑務所に送り、コーディと同房に置いて真相を探り出そうとする。ビッグ・エドは刑務所内の手下を使って、事故に装わせコーディを殺そうとしたが、ファロンの機転で阻止される。コーディはファロンの正体を知らぬまま強く信頼するようになる。
そこに思わぬ知らせが届く。留守にギャング団を束ねていたマー・ジャレットが、ビッグ・エドの裏切りで殺されたのだ。エドは、コーディを裏切り母殺しに荷担したバーナと共に、ギャング団の頭目に成り代わっていた。逆上して暴れ回ったコーディは復讐を誓い、仲間を集めて人質を取り刑務所から集団脱走。ファロンも同行する羽目になる。
コーディはエドを殺し、バーナを脅して自分の元に戻らせると、新たな仲間たちと共に人里離れたアジトで強奪計画の準備に取りかかる。母親を失ったコーディは自らの精神の平衡をも失いつつあり、代償となる精神的依存の相手として「親友」であるファロンに全幅の信頼を置いた。
大化学工場からの現金強奪を計画したコーディ一味は、タンクローリー車を改造して中に隠れる「トロイの木馬作戦」で工場構内へ潜入。首尾よく工場事務所に侵入したコーディたちだったが、そこで落ち合った仲間が、ファロンの正体を見破ってしまう。もっとも信頼していた人物が潜入捜査官だったというあまりに大きな裏切りに、コーディは精神的崩壊状態になる。折しも捜査当局が急行してギャング一味を包囲、手下たちは警官隊の銃弾に次々と倒れた。
追いつめられたコーディは完全に発狂、駆け上った大ガスタンクの頂で哄笑しながらタンクに発砲した。
「やったぜママ!世界のてっぺんだ!」――次の瞬間タンクはコーディもろとも大爆発した。
[編集] 作品背景
戦前からギャング映画界の大スターであったジェームズ・キャグニーを主演に、すでに「いちごブロンド」等のキャグニー主演作品を撮影していたベテランの職人型監督であるラオール・ウォルシュが手がけた作品である。
1946年の『裸の町』(ジュールズ・ダッシン監督)を嚆矢として、戦時中のニュース映画の影響を受けたセミ・ドキュメンタリータッチのサスペンス映画が多く作られるようになっており、『白熱』もそれらの系譜上に位置付けられる。警察の捜査活動やギャング団の犯罪行為などをリアルに描写しながら、ウォルシュ監督が得意とするスピーディなストーリー展開が為され、密度の濃い映画となっている。当時としては凄絶なアクション映画で、観客から大好評を博したが、暴力描写の苛烈さは論議にもなった。ガスタンクの大爆発という形で主人公にとっての全てが凄惨な破綻を迎えるラストシーンは強烈であり、その後の多くの映画にラストシーンのモチーフとして引用されている。
元々この映画は、ヴァージニア・ケロッグの原案に基づき、アイヴァン・ゴフとベン・ロバーツが脚本を書いたものである。しかし当初の内容は従来キャグニーが演じてきたステロタイプ的なギャング物の域を出なかった。脚本に不満を感じたキャグニーは、ウォルシュに自ら「主人公のギャングをマザーコンプレックスの異常性格者にしたい」というエキセントリックなアイデアを提示した。
キャグニーとウォルシュの意向によってシナリオは改訂され、主人公は戦前のギャング映画のように社会の矛盾・欠陥によって犯罪者となった悲劇的ヒーローではなく、狂気と暴力をほとばしらせながら破滅へ向かって突進して行く文字通りの悪の権化として描かれることになった。このニューロティックな設定は、1940年代に盛んに作られたフィルム・ノワールの潮流に汲みしたもので、『白熱』を単なるギャング映画の枠に留まらない作品にしている。
キャグニーはコーディの「凶暴な幼児性」に満ちたキャラクター作りに打ち込み、エネルギッシュさが身上な彼の演技の中でも屈指の熱演ぶりを見せた。刑務所の大食堂で食事中、母親が殺害されたことを耳打ちされたコーディが、悲嘆と怒りの余り凄絶な雄叫びを上げながら食堂じゅうを滅茶苦茶に暴れ回るシーンは特に有名な(まさに「白熱」の)演技である。このシーンに囚人役として出演していたエキストラたちには、キャグニーがどのような演技をするかまでは伝えられていなかったため、撮影中にいきなりコーディが錯乱して暴れ回り絶叫する狂態に直面したことで本当のパニック状態に陥った。
潜入捜査官に扮したエドモンド・オブライエンは、フィルム・ノワールの古典とされる『殺人者』(ロバート・シオドマク監督 1946年)でドラマの狂言回しとなる保険調査員を演じており、『白熱』でも類似キャラクターを演じたことになる。またヴァージニア・メイヨは同じ1949年の『死の谷』に続いてのウォルシュ監督作品出演で、サミュエル・ゴールドウィン麾下の「ゴールドウィン・ガールズ」出身という華やかな経歴とは裏腹な汚れ役を傲然と演じきった。
キャグニーは本作に続き、1950年にはやはりニューロティックな設定を備えたギャング映画『明日に別れの接吻を』(ゴードン・ダグラス監督)に主演したものの、その後はギャング映画自体にほとんど出演しなくなっている。
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