消費貸借
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消費貸借(しょうひたいしゃく,英 loan 、独 Darlehen 、仏 emprunt)とは、民法学の用語であり、金銭や米の貸し借りのように、借りた物それ自体は借主が消費し、後日これと同種の物を貸主に返還するという契約をいう。日本では、当事者の一方(借主)が種類、品等及び数量が同じ物をもって返還をなすことを約して相手方(貸主)より金銭その他の物を受け取ることによって成立する契約と定義されている(民法587条)。
日本の民法では、消費貸借は要物契約、無償契約、片務契約の代表例である。以下、特に断らない限り日本の民法における消費貸借を説明する。
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[編集] 消費貸借の性質
[編集] 要物契約
消費貸借は、当事者の合意だけでは成立せず、貸主から借主に対し金銭等が実際に交付されなければ成立しない要物契約である。したがって、消費貸借契約が成立した以上、貸主が借主に対して金銭等を交付するという債務は発生しない。
もっとも、合意のみによって成立する諾成的消費貸借(だくせいてきしょうひたいしゃく)が認められるとする見解もある。諾成的消費貸借の成立が認められる場合は、貸主は、目的物を交付する(貸す)債務を負うことになる。
なお、消費貸借は、金銭等の交付と返還の約束があれば成立するから、契約書や公正証書が作成されなくても有効に成立する。
[編集] 無償契約
民法上、消費貸借は特に利息の合意をしない限り、無利息が原則であるから、無償契約となる。
しかし、実際には、利息の合意(利息契約)がされることがほとんどである。この場合は、有償契約となる。金銭消費貸借に伴う利息の利率については、利息制限法で上限が定められている。
[編集] 片務契約
消費貸借が成立すると、借主は、貸主に対し、定められた期限に貸金を返還する債務を負う。期限の定めがないときは、貸主が借主に相当の期間を定めて催告したときに返還する債務を負う(民法591条)。一方、上記のとおり、貸主は借主に対して債務を負わない(ただし民法590条の担保責任は負う)から、消費貸借は片務契約である。
なお、前記の諾成的消費貸借が認められる場合は、双務契約となる。
[編集] 類似の契約との比較
[編集] 使用貸借・賃貸借
消費貸借は借りた物それ自体は借主が消費することが予定され、返還するのはこれと同種の物とされているのに対し、使用貸借や賃貸借は借りた物それ自体を返還することが予定されている点が異なる。
[編集] 消費寄託
消費貸借は借りた物を利用するという借主(目的物返還義務者)の必要性が契約締結の主たる動因であるのに対して、寄託は寄託物を保管させるという寄託者(目的物返還権利者)の必要性が契約締結の主たる動因である点が異なる。このため、返還の時期を定めない消費貸借では貸主は相当の期間を定めて返還の催告をなさないと返還を請求することができないのに対して(民法591条)、返還の時期を定めない消費寄託では寄託者はいつでも返還を請求することができる(民法666条但書)。
[編集] 準消費貸借
金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において、当事者がその物をもって消費貸借の目的となすことを約したときは、消費貸借が成立したものとみなされる(民法588条)。これを準消費貸借(じゅんしょうひたいしゃく)という。
準消費貸借は、当事者間で従前の契約による義務の内容が不明確になったり、複数の契約がなされて債権債務関係が複雑になったような場合に、債権債務関係を整理して明確にするために行われることが多い。