最適戦略選択説
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最適戦略選択説（さいてき せんりゃく せんたくせつ）というのは、生物の行動などの進化に関する一つの考え方である。生物は、得られる利益が最大になるように進化したと考えるものである。
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[編集] 基本的考え方
最適戦略選択説、あるいは最適化仮説というのは、いわゆる行動生態学の発展初期を支えた考え方のひとつであり、その基本は、生物の行動は、その生活する環境に対して、最適に対応するように進化しているはずだ、というものである。これだけでは、言わば自然選択説の言い換えに過ぎない。
この考え方の重要なのは、次のような視点である。動物（動物には限らなくてもよいが、行動を考える際の対象はたいてい動物である）がなんらかの行動を取るのは、何かそれによって得るものがあるからである。これは行動そのものの目的と結び付いているので、ほぼ自明と言ってよいだろう。しかしながら、行動を取ることには、必ずなにがしかのリスクを負う。例えば動くためのエネルギーとか、動くことによって敵に発見される危険などである。この両者の勘案で、利益が最大になるように行動が決定される、というのがこの考え方の骨子である。
例えば、砂地で営巣する鳥が巣の中で卵を抱いているとき、ひな鳥が生まれると、鳥は卵の殻を巣から離れた場所に捨てに行く。これは、卵の外側やひな鳥は保護色になっていて外からは目立たないが、割れた卵の内側は真っ白であり、敵の眼を引きやすいので、巣から離れたところへ持って行くことで、ひな鳥が敵に狙われる危険性を少なくする効果があると考えられる。ところで、卵の殻をどれくらい遠くへ持って行けばいいだろうか？
あまり近くてはそこから巣を見つけられてしまうだろうから、できるだけ遠い方がいいと考えられる。しかしながら、卵を遠くに捨てに行くには、それなりに時間がかかる。その間、巣をあけることになるから、巣のひな鳥が襲われる危険がある。つまり、ひな鳥が襲われるなどして死ぬ確率は、一方では卵の殻が遠くへ捨てられるほど低くなるが、他方で、そのために巣をあける時間が長引くと、それによる死亡確率が増加する。そこで、この両者を足し合わせた死亡確率が最も低くなるのが、最適な卵の殻を捨てる距離であると考えられる。そして、多分その鳥のうち、そのような距離に卵を捨てた鳥が子孫を残すことが出来るだろうと予想される。
この考えを最初に提唱したのはR. H. マッカーサーとE. R. ピアンカで、1966年のことである。当初は動物の摂食行動において、餌を取るのにかかるエネルギー支出と、そこから得られる餌をエネルギー獲得に換算したものを比較して、その差で得られる採餌効率を最大にする方法が最適戦略である、といった論旨であった。
[編集] 投資と利潤
このように、ある行動をとるために消費する何かと、それによって得られる何かを比べて、差引した得られるものの価値が最大になるように、進化は進むだろう、というのが最適戦略選択説である。ここで、消費する何かを投資（コスト）、得られる何かを利潤（ベネフィット）と言う。コストは動物の種や場合によってさまざまで、時間であったり、自らの危険であったり、エネルギーであったりする。ベネフィットもさまざまで、例えば餌、住みか、配偶者、その他さまざまな場合がある。したがって、この両者を直接に比較して計算するのは簡単ではないが、エネルギーに換算すれば差引が可能になる場合も多いし、繁殖に関係するなら、適応度のような形で計算することもあり得る。
また、ここで出てきたコストとベネフィットという考えは、生態学において、さらに広い範囲で利用される考え方になった。例えば行動生態学の進歩によって行動の進化を個体単位で考えることが可能になったが、そう言った場合にも使われる。繁殖に関する行動では、それまではその種にとってどのような方法が有利か、という風に考えた（群淘汰）ものを、雄ではどうか、雌にとってはどうかと分けて考えるのであるが、その場合によく言われるのが、雄と雌では子供へかけるコストが大いに違う、という点である。
たとえば哺乳類では雌は体内で子供をかなりの大きさまで育てる上、生まれた子供に対して哺乳して育てる。それに対して、雄は子育てにどのようにかかわるかを別に考えれば、わずかの量の精子が必要なだけである。つまり、子を得るために自分が提供するエネルギーの最低量が圧倒的に異なる。さらに、雌は妊娠中は余分な体重を支え、さらに出産をするので、その間の自らの生命の危険を被らなければならない。したがって、雄にとっての子供の価値より、雌にとっての子供の価値がはるかに高いというのである。
これを飛躍させて、雄はあちこちで受精して回る方がより多くの子を残せるから、浮気性に進化するのだ、と言った論もあるが、実際には雄が育児に参加した場合の育児成功率等の事も考えて、個々の動物について具体的に論じなければ、単なる空論である。
[編集] 位置付け
動物の行動を観察するのはものによっては難しくないが、それを系統立てて論じるのは簡単ではない。一般に、動物の習性はそれなりに理にかなっており、自然の巧みさ、とか、動物の知恵、と言った紋切り型の納得で終わりがちであるが、それでは話が進まない。この部分を大きく進めるきっかけとなった考え方の一つが、最適戦略選択説である。
行動のさまざまな側面を、実証可能な形にした点が重要である。特に、行動の中の量的側面を研究の対象とすることが、この理論によって可能になったことが大きい。また、血縁選択説から始まった利己的遺伝子論などを武器とした行動生態学の興隆の時期にも、その分析の下支えをする形で大いに利用された。
また、投資と利潤ということを基調に考えれば、行動以外の、例えば確保したエネルギーをどこにどれだけ配分するのが最適か、といった風に、最適戦略の考え方をより広い範囲に適用することが可能になった。例えば、植物においても、光合成で得たエネルギーを、どれだけ繁殖に使うのが最も有利か、という風に、繁殖戦略や生活史戦略といった部分で考えることが可能になったのである。
[編集] 批判
最適戦略選択説の考え方は、行動学において新たな実証的な理論となった。しかしながら、当然ながら批判もある。たとえば、ある行動を解釈する場合に、コストとベネフィットとして取り上げるべき具体的な内容がどれであるかの選択に恣意性がある、というのがその一つである。たとえばまず考えられる内容を取り上げて比較し、実際の行動と付き合わせた場合に、それではうまく説明できないなら、別の内容を持ってくることになるが、それでは、うまく話の合うような内容を探してくるだけの、いわゆるお話作りではないか、というのである。
また、生物が本当に最適な状態に適応しているのか、との疑問もある。生物は、進化の過程で時間をかけて変化して行くものだと考えられる。もちろん、最適戦略選択説もこのことを前提としてはいる。そのうえで、そういった過程をへて、自然界の生物は、ほぼ環境に適応しきっているものと想定している訳である。しかしながら、このことは、適応が進む前には、最適な形質とはずれた状態があることを想定している。とすれば、現在が既に最適な状態に達している保証はない。また、適応は常に過去の環境に対して行われるものであるから、それが現在見られるものと同じとは必ずしも言えない。
それ以前に、ダーウィン流の進化論を前提にしているのが間違いだ、あれは仮説であるから、そのうえに仮説を積み上げるのは砂上の楼閣と言わざるを得ないとの批判もある。
