情報の拡散
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情報の拡散(じょうほう -の- かくさん)とは、情報が(しばしば無秩序に)拡散してしまう現象を指す。特に近年では情報技術の発達により、情報の複製が容易となった事から、コンピュータネットワークを通じて拡散現象が発生しやすい。
[編集] 概要
この現象は、情報の複製等が広まる現象である。これは末端に行くほどに情報が細分化されてその価値を失う散逸とは違い、元の情報やその複製情報が流布される事になるが、これに本来は流通すべきではないと問題視される。
これの最も顕著な例が、近年では度々発生する個人情報流出の事件である。これらでは個人情報という個人を特定しうる情報を複製・流布(大抵は個人情報リストとして販売される)する事で、本来は迷惑メールや電話セールス等の望まれない営業行為に利用さない事を前提に集められているこれら情報が、そのような営業行為に用いられてしまうため、情報収集を行った側の信用問題にも発展する。
[編集] 歴史
まだ活版印刷以前の時代に於いて情報は、その情報量と複製コストの兼ね合いから保護され、その複製を作る事は写本を意味していた事もあり、一定の情報量のある情報は、その量的な問題から保護されていた。これは同時に本来広めるべき情報までもが広めにくいという事でもあったため、印刷技術の発達を促し、やがてそれはコピー機に代表される一対一で複製を製作する機械の普及を発生させた。
コピー機と同時期に利用されるようになってきたファクシミリという通信と複製を同時に行う装置の発達は、情報が拡散しやすい形での社会基盤となった。この装置は送信先を指定する事で原稿を読み取り、その映像情報を相手先に送信、複製を作成する。これがしかるべき相手にしかるべき形で送信されているうちは問題が無いが、誤った操作で間違った相手先を指定した際や、本来はその情報を得る立場に無い相手に(意図的に)送信された場合に社会的混乱が発生した。
ファクシミリは原稿読み取りと送信が一対一であり、また伝送速度もそれほど高速では無いため、情報の拡散は比較的ゆっくりとした速度で行われ、また一度受信した情報を再送信するには受信者が一定の操作を行って一対一で複製された情報を他に送信する必要があることから、世代を重ねる毎に情報は劣化(文字が潰れて読み辛くなったり、読み取り機の加減でノイズとなる汚れなどが入る)する事から、情報の拡散過程でその価値は更に低くなる。これはコピー機に依る複製と手渡しや郵送などによる配布を行うにしても同種の問題を含み、複製情報は世代と共に劣化する事は避けられず、無制限な情報の拡散は起こり得なかった。
だが1970~80年代の時点でこれら機器の普及は、企業や団体内の情報が外部に漏洩した場合に於ける情報の拡散を促し、これが方々で事件として報じられるに当たって、新たな社会問題として注目を集めるようになっていった。裏帳簿の漏洩と各種メディアへの配布を発端とする疑獄事件が顕在化したり、個人のプライバシーに関わる情報が怪文章の形で拡散するに至っては、一度発信された情報はその内容如何で、当事者の手を離れて無秩序に拡散してしまう。
1990年代以降、コンピュータネットワークの発達は、情報の拡散に新たな場を提供した。これは個人にあっては情報発信が容易いメディアとしても利用されるが、これが本来拡散されるべきではない情報であってすら、安易に拡散させてしまう。
1990年代後半から、電子掲示板等に書き込まれた情報に混じって、公開する事に問題の多い情報が提示されるようになり、社会問題として注目を集めるようになっている。個人情報・外部に提供されるべきではない団体・企業等の内部情報などが提示されるにあたり、当事者がそれと気付いた段階では既に手遅れとなっているケースも多い。また電子メールでは僅かな指定の間違いにより、簡単に外部に内部情報が流出しやすく、ネットワーク依存度の増大が、それら問題を発生させやすくしている。
2000年代に入っては、ネットワークの高速化やP2P通信に代表される個人間通信利用者の増加、さらにはファイル共有ソフトを狙い撃ちにしたコンピュータウイルスの蔓延などにより、当事者が気付かない内に自ら発信者となっているケースまで発生、更に深刻な問題となっている。これらでは、学校から生徒の成績などといった情報が漏れたり、警察内部の業務記録・病院のカルテなどといった、極めて問題視される個人情報までもが流出している。
一度発信されてしまった情報はコンピュータのファイルシステムにより簡単に複製されてしまう事もあり、拡散してしまった情報の回収は実質的には不可能である。このため、各種の流出を起こしかねない要因に各々対処して、発生を予防する以外には明確な対応策は無い。
その一方では、一度発生した場合にはその発生源に対する対処と平行して、関係者(それによって不利益を被るであろう事が予測される人々)への対応を含めた、ダメージを最小限に押さえる活動が必要とされる。いずれにしても「無傷で事態を収拾」することは不可能であり、また何処にでも発生し得る問題でもある。