幼年期の終り
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『幼年期の終り』(ようねんきのおわり・Childhood's End) はイギリスのSF作家、アーサー・C・クラークの長編小説。1953年(昭和28年)に発表され、クラークの代表作としてのみならず、SF史上の傑作として広く愛読されている。
目次 |
[編集] 来歴
母体となったのは1946年(昭和21年)7月に執筆した短編小説「守護天使」 (Guardian Angel)である。「アスタウンディング」誌に投稿したが不採用となり、改稿の上「フェイマス・ファンタスティック・ミステリーズ」誌1950年(昭和25年)4月号に掲載された。今日の『幼年期の終り』第1部とほぼ同様のストーリーであるが、ディテール、結末などが異なっている。この短編小説をもととしつつ、敬愛するオラフ・ステープルドン風の「予見可能なユートピア」「人類の進化と終末」といったヴィジョンを取り入れて大きく膨らませた長編小説として完成したのが1953年。同年、クラークとしては5作目の長編小説として刊行された。
[編集] 概要
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
『幼年期の終り』はプロローグおよび三つの部で構成されている。
[編集] プロローグ
米ソの宇宙開発競争が熾烈さを増す1970年代のある日、巨大な円盤状の宇宙船多数が世界各国の首都上空に出現する。
[編集] 第1部「地球とオーバーロードたちと」
宇宙船に搭乗する宇宙人の代表は、電波を通じて自分はカレルレンという名であること、今後地球は自分たちの管理下に置かれること、などを宣言する。カレルレンは国際連合事務総長ストルムグレンを通じて地球を実質的に支配し、その指導の下、国家機構は解体してゆく。地球人はこの宇宙人を「オーバーロード(上帝)」と呼んだ。ストルムグレンは地球人としてはただ一人、オーバーロードの宇宙船に立ち入りを許されたが、オーバーロードは決して生身の姿を見せようとしない。ストルムグレンの定年退官の日、カレルレンは「50年後に生身の姿を公開する」ことを約束する。
[編集] 第2部「黄金時代」
50年後。それまで長きにわたって各地の大都市上空にあった宇宙船は、ニューヨーク上空のものを除いて忽然と姿を消す。ニューヨークに降り立ったオーバーロードは、約束通り生身の姿を見せる。人類はその姿を受け入れ、オーバーロードと共存しつつ平和で豊かな生活を享受する。しかし中には反抗的な人々もいた。天文学者ジャン・ロドリックスはオーバーロードの出現によって人類の宇宙進出が挫折したことを遺憾とし、クジラの標本に潜り込んでオーバーロードの母星に密航する。
[編集] 第3部「最後の世代」
また一部の芸術家たちは地球人固有の心性を守ろうと地中海の火山島に独自のコミュニティを作る。ある時このコミュニティに住む子供たちに異変が起こり始めた。その報告を受けたカレルレンは、自分たちの地球来訪の目的達成の日が近づいたことを知る。
80年後、ジャンが地球に帰還する。超高速の宇宙船内で過ごしてきたため、相対性理論の教える通りジャンはさほど年を取っていない。しかし彼を迎えたのは変わり果てた地球の姿だった。カレルレンはジャンに知る限りの真相を語り、協力を要請する。やがて最後の時が来た。地球を脱出するオーバーロードの宇宙船に向かって、ただ一人地球に残ったジャンは、地球の華麗な滅亡の様子を実況する。
[編集] 評価
発売当初から、C・S・ルイスが絶賛したのをはじめ、高級読者層からは高い評価を受けた。しかしSFファンからの評価はさほどのものではなく、欧米では長いことクラークの代表作としては扱われなかった。これに反して日本では紹介当初からSFファンに高く評価され、歴代SFベストテン投票の常連となっている。この差異の原因は何よりまずクラークの描く終末観に見られるアンチキリスト教的色彩に求められよう。人類に嫌悪の情を催させる特異な姿をしたオーバーロードが人類の進化を援助し、人類の終末を見取るという結末は、欧米の一般読者層には受け入れがたいものであったと考えられる(ちなみに本作の文章についてブライアン・オールディスは「欽定訳聖書の詩篇を想起させる」と評している)。
しかし近年は欧米でも本作を傑作と推す声が高まっている。人類の進化と滅亡という、壮大な、しかし同時にいささか陳腐な主題を語りつつ、クラークは「清澄なイメージを平易な言葉で紡ぎ出す」という独特の才能を遺憾なく発揮して、平易でしかも精彩ある物語を構築した。とりわけ第3部に描かれた新旧人類の断絶、旧人類滅亡の場面は、SFの持ち得た最も感動的な文字の一つと絶賛されている。
[編集] 影響
「人類の進化」というテーマ、「宇宙人による人類の飼育」というアイデアなどは、この作品において総括された。これ以降の「人類進化テーマ」「最初の接触テーマ」のSFは、何らかの形で『幼年期の終り』を意識せざるを得なくなったと言っても良かろう。その影響力は純文学の世界にも及んでいる。
大衆文化への影響となると枚挙に暇がない。たとえば、
- TVムービー『V』や映画『インデペンデンス・デイ』の開巻場面は明らかに『幼年期の終り』のプロローグを踏まえている。また、SFアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』にも影響を及ぼしている。
- 日本のロックグループ、TM NETWORKのアルバム『CHILDHOOD'S END』は、この小説のタイトルから名付けられたものである。
など。また「地球人の進化を見守る宇宙人」の視点は、クラーク自身の『2001年宇宙の旅』において再生産された。
なお『幼年期の終り』は1950年代以降、数度にわたって映画化が試みられているが、未だに制作に至っていない。
[編集] 邦訳
『幼年期の終り』福島正実訳 ハヤカワ文庫
『地球幼年期の終わり』沼沢洽治訳 創元推理文庫