定在波比
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定在波比(ていざいはひ、Standing Wave Ratio)は、高周波の伝送路における進行波と反射波の関係を示す数値である。多くの場合、給電線と空中線(アンテナ)の関係について用いられる。一般にはSWRまたはVSWR(Voltage Standing Wave Ratio)と呼ばれる。VSWRを略してVSと呼ぶプロの技術者もいる。SWR=1の場合に給電線から空中線に供給された電力が全て放射され、それ以外の場合には電力の一部が給電線に反射波として分布し、有効に放射されなくなる。
無線通信で送信を行う際には定在波比の測定が必須と言える。定在波比を測定する計測器はSWR計(SWRメーター)と呼ばれる。SWRの測定の他、通過電力の測定も可能な機種が多い。なお、SWRを正確に測定するにはネットワークアナライザが使われる。
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[編集] 定義
高周波の信号電圧が伝送線路(給電線)を伝送される場合(進行波)において、インピーダンスの不整合があると、その不連続部分で信号電圧の反射が発生し、給電線を逆向きに進行する電圧成分(反射波)が発生する。定在波比は、その高周波電圧の反射の度合いを表す。
定在波比の値は次の式で表される。
ここで、V1は進行波の電圧、V2は反射波の電圧、Z0は伝送線路の特性インピーダンス、Zは負荷のインピーダンス、ρは電圧反射係数である。
[編集] 定在波比が悪い場合の影響
空中線の特性インピーダンスと給電線の特性インピーダンスが一致した場合にSWR=1となる。共振周波数においてSWRは最小となる。SWRが高いと、反射して戻ってきた電力によって、送信機の電力増幅器(PA)に悪影響を及ぼすため、一般にSWRは1.5以下が理想、3以下が実用上の限界とされている。SWR=1.5で電力効率は96%、SWR=3で75%となる。携帯電話ではアイソレータを空中線とPAとの間に挿入し、PAを保護している。
なお、アイソレータが挿入されている場合や、送信出力低減回路のような保護回路が実装されている場合は、使用上は定在波比がある程度高くても特に不都合は生じないが、空中へ放射される電力が少なくなることや、電力効率の点から、低い方が望ましい。受信のみを目的とする空中線の場合は、空中線の定在波比を低くすることで受信効率が上がりS/N比が改善される。また指向性のある空中線では、定在波比が高いと目的の指向性が得られない場合があり、指向性を利用した妨害局の除去が難しくなる。
インピーダンスが純抵抗(実数)成分のみで構成される場合には、そのインピーダンスの比がそのままVSWRの値となる。例えば給電線が50Ω、負荷(空中線)が25ΩであればVSWR=2となる。給電線が50Ω、負荷(空中線)が100ΩであってもVSWR=2となる。これを利用して、SWR計の簡易な較正を行うことができる。
アマチュア無線では『SWRが高いと電波障害の原因になる』と言われることがあるが厳密には誤りである。送信機終段の動作状態が変わることで、高調波の発生量が大きくなることもあるが、そもそも、高調波の発生量は高調波の周波数におけるインピーダンスが大きく関わっており、空中線の高調波におけるインピーダンスが制御できない限り、基本波のSWRのみに注力しても確実な改善にはつながらない。SWRが高いと送信機終段のLPFが正常に動作しなくなり、高調波が放射されると言うのも誤りである。SWRが良好な空中線であっても、それは送信周波数においてであり、高調波の周波数における空中線のSWRは高いのが普通であり、送信周波数のSWRが高い低いに関係なく、高調波の減衰量は不定なのである。
定在波が生じると伝送線路中の波長に応じた局所的な電流が流れ、伝送線路の形態にもよるがアンテナではなく線路から直接放射する可能性はある。また高調波は基本波に対して整数倍であり、ダイポール等の解放端のアンテナにおいて基本波に対して整合が取れている場合、特別な工夫や構造を取らない限り奇数次に対しても境界条件が基本波同様に満たされるため、奇数次高調波に対しても整合が取れる。そのため基本波に対するSWRの悪化はアンテナの構造により高調波放射(いわゆる電波障害)に影響を与えることがある。なおSWRが高い場合、伝送線路を含めたアンテナのインピーダンス、すなわち送信機終段のLPFの負荷インピーダンスにリアクタンス成分が現れるため、それによりフィルタのカットオフ周波数に影響が現れる結果、所望の動作が得られないことも考えられる。
[編集] 無線機のSWR
給電線と空中線(アンテナ)の関係について用いられることの多いSWRであるが、給電線と無線機の関係も同様にSWRで考えることができる。この場合のSWRも低いほうが良い。