取締役会
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取締役会(とりしまりやくかい)は、会社法(旧商法)において規定された、株式会社のうち取締役会設置会社における業務意思決定機関である。また、取締役らによって行われる会議それ自体をいう場合もある。しばしば役会(やくかい)と略される。
以下では日本の取締役会制度を中心に記述する。取締役会の構成員である取締役については、取締役の項目を参照のこと。
目次 |
[編集] 日本の取締役会
取締役会が設置されている会社のことを取締役会設置会社という(会社法2条7号)。取締役会は3名以上の取締役によって構成され(会社法331条4号、362条1項)、通常そこでの決議は全会一致によってなされる(法律上は過半数で足りる、会社法369条1項)。また、事実上会社経営の最高責任者となっている者(社長など)が取締役会の会長となることが多い。
具体的な権限や招集手続、決議要件などは会社法362条~373条を参照。委員会設置会社の取締役会については、会社法415条~417条。
なお、委員会設置会社における取締役会と取締役は職務内容や責任、任期等が異なるため、以下は通常の株式会社における取締役会を念頭に記述する。
[編集] 沿革
日本の取締役会は昭和25年の商法改正によって授権資本制度とともにアメリカの会社におけるBoard of Directors制度を導入したものである。この改正がなされる前は取締役自体が会社の必要的機関とされていたが、改正後は取締役会が必要的機関とされた。
その後、2005年(平成17年)に成立した会社法(2006年5月施行)において、取締役は必要的機関とされ、取締役会は任意設置機関となった(会社法326条2項、設置義務があるケースにつき、会社法327条1項)。
[編集] 職務
取締役会の職務は会社経営における業務意思決定および取締役(代表取締役を含む)の業務監査、それと代表取締役の選任・解任である(会社法362条2項)。 それぞれ具体的に法定されおり、それ以外でも重要な業務執行については取締役会が決するとされている(会社法362条4項)。
具体的には、以下のような事項が取締役会の決議によることとされている。
- 譲渡制限株式の譲渡の承認及び指定買取人の指定(会社法139条1項、140条5項)
- 自己株式の取得価格等の決定(会社法157条)
- 子会社からの自己株式の取得の決定(会社法163条)
- 取得条項付株式の取得の決定(会社法168条1項、169条2項)
- 自己株式の消却(会社法178条)
- 株式分割(会社法183条2項)
- 株式無償割当てに関する事項の決定(会社法186条)
- 単元株式数についての定款変更(会社法195条1項)
- 所在不明株主の株式の競売もしくは売却または買取(会社法197条)
- 公開会社における新株発行とその内容の決定(会社法201条、202条)
- 譲渡制限株式の割当てを受ける者の決定(会社法204条)
- 一株に満たない端数の買取り(会社法234条5項)
- 公開会社における新株予約権の発行とその内容の決定(会社法240条、241条)
- 譲渡制限株式を目的とする募集新株予約権または譲渡制限新株予約権の割当てを受ける者の決定(会社法243条)
- 譲渡制限新株予約権の譲渡の承認(会社法265条1項)
- 取得条項付新株予約権の取得の決定(会社法273条1項、274条2項)
- 新株予約権の消却(会社法276条)
- 新株予約権無償割当てに関する事項の決定(会社法278条)
- 株主総会の招集(会社法298条4項)
- 訴訟における代表者の選任(会社法353条、364条)
- 取締役による競業取引および利益相反取引の承認(会社法356条、365条1項)
- 業務執行の決定(会社法362条2項1号)
- 取締役の職務の執行の監督(会社法362条2項2号)
- 代表取締役の選任及び解職(会社法362条2項3号)
- 重要な財産の処分及び譲受け(会社法362条4項1号)
- 多額の借財(会社法362条4項2号)
- 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任(会社法362条4項3号)
- 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止(会社法362条4項4号)
- 募集社債発行の決定(会社法362条4項5号)
- 業務の適正を確保するための体制の整備(会社法362条4項6号)
- 取締役の任務懈怠責任の免除の承認(会社法362条4項7号)
- 業務執行取締役の選任(会社法363条1項2号)
- 取締役会を招集する取締役の決定(会社法366条1項ただし書)
- 特別取締役の設置(会社法373条1項)
- 計算書類の承認(会社法436条3項)
- 臨時計算書類の承認(会社法441条3項)
- 連結計算書類の承認(会社法444条5項)
- 一定の場合における資本金・準備金の減少(会社法447条3項、448条3項)
- 中間配当の決定(会社法454条5項)
[編集] 形骸化の問題
取締役会は小規模会社と大規模会社の両方において形骸化が激しいといわれる。
[編集] 小規模会社における問題
小規模会社においては代表取締役(社長)が経営を独占し、他の取締役は家族親戚等から名目的に選ばれたのみで監督責任などは全く機能しない。しかも、そういった小規模な会社が日本の株式会社のほとんどを占めていることが問題となっている。
[編集] 大規模会社における問題
一方、大規模な会社においても異なった意味で取締役会の形骸化が生じている。こちらでは取締役会が大きくなりすぎ、機動的な意思決定ができないといわれる。このため大企業では経営の機動性を高めるために、業務執行取締役や執行役員を決めて業務執行を任せたり、常務会または経営戦略会議といった会議体を設けて少数の業務に精通した取締役によって日常業務を処理し、重大案件については取締役会全体で承認を受けるといった形を採ることがある。これらの制度は法的な裏付けがないためにその権限が曖昧になることも多かった。そこで法は業務執行取締役(会社法363条1項2号)や特別取締役(会社法373条)という制度を設けている。なお、特別取締役は旧商法下では重要財産委員会として導入された制度を引き継いだものである。
また、終身雇用制度と従業員兼任取締役という日本独特の制度を背景に、取締役の職務を監督するという取締役会の機能がしばしば麻痺していると指摘される。具体的には、仲間意識が強いために「なあなあ」でことが済まされることなどが挙げられる。このため、社外取締役を参加させるといったことも行われる。会社法においては、会社法第2条15号において社外取締役の定義が明確化された。
[編集] アメリカの取締役会
アメリカの株式会社はdirector(取締役)によって組織されるBoard of Directors(取締役会)が経営する。しかし、日常業務はOfficer(執行役員)が取り仕切る。Officerはその与えられた役割に応じてChief Executive Officer(最高経営責任者 C.E.O.)やChief Financial Officer(CFO、最高財務責任者)、Chief Operating Officer(COO、最高執行責任者)、Chief Information Officer(CIO、最高情報責任者)、Vice-President(執行副社長)などの肩書が与えられる。CEOがPresident(取締役社長)を兼ねる場合が多いが、CEOが取締役をかねず、また、別途 取締役会議長Chairman of Board of Directorsを置くなどの場合も多い。一般に、CxO(最高**責任者)職が置かれている場合はPresident職はない。
会社経営全体を指揮する。また、経営適正化のためにOutside Director(社外取締役)がおかれることもある。以上がアメリカにおける株式会社の最大公約数的な組織であるが、設置が必要とされる機関や組織構造は州法または証券取引所規則等によって規定されるため、一様ではない。なお、取締役が集まる会議そのもののことはDirectors Meetingといい、そこでの議事進行役をChairman of the Boardという。
[編集] ドイツの取締役会
ドイツの株式会社におけるVorstandは、日本語では取締役と訳されるものの、日本のそれとはかなり異なった存在である。彼らは労使双方の代表者からなるAufsichtsrat(監査役会、と訳されるがやはり日本の監査役とは全く異なる)によって任免される。彼らの業務は経営の基本方針を決定することであり、監査役との兼任は認められない。この制度は普通ドイツ商法典(1861年制定)によって導入され、1870年に株式会社の必要的機関構成とされた。しかしドイツでは、上記のような経営適性化のための組織構造を強要される株式会社形態を敬遠して、Gesellschaft mit beschtänkter Haftung(略称はGmbHで、日本の旧有限会社にあたる)が多く用いられる。